1日目 探検準備の準備の準備

「高橋ってさ、サバゲーやってるって、本当?」

「……どうしたよ急に」

 大学のカフェテラス。長机で談笑する同級生を避けるように、離れの卓で一人食事をしていた彼に話しかける。

 結論として、扉の向こう側は「異世界」と呼ぶことにした。

 扉の向こう側は一面の草原と霧に包まれており、その先は依然不明だ。

 霧の先には興味があるが、同時に恐れと不安があった。

 時折吹く風の音と、霧の端に見える木々。その先に広がる広大な山脈が、あの世界の大きさを物語る。

 分からないもの、理解が及ばないものは恐怖である。

 ならば知ってしまえば良いのだと勇んで歩き出してみたものの、数歩あるくと不安に襲われる。

 つまり準備が必要だ。

 あの場所が何なのか、そこに人はいるのか、命の危険を脅かすものは無いのか。

 知るための準備が必要なのだ。

「俺の趣味は誰に聞いたの? ……えっと」

「日下部だよ、話すのはオリエンテーションの自己紹介以来かも。趣味は……その時に聞いた気がする」

「そっか。……で、日下部はサバゲーに興味あるの?」

 彼、高橋は訝しげに僕を見る。

 これまでろくに面識もなかったのだし無理もない。

 やや疑心暗鬼そうなところも僕にとっては都合が良かった。

「サバゲー……っていうか、サバイバルに興味があるかな。廃墟探検みたいなことをしたいんだけど、必要な物とかが知りたくてさ」

「廃墟ぉ? ……俺がやってるのはサバゲー、サバイバルゲームだよ。おもちゃの銃を持って走り回る遊びだし、サバイバル要素は無いことも無いけど、あんまり参考にはならないと思うけど……っていうかさ、ネットで調べればいいんじゃね?」

「調べたけど、実際に使ってる人の話が聞きたいんだよ。可能な限り荷物は減らしたくてさ」

「じゃあキャンプとか山登りとか、そっちに詳しい奴の方がいいんじゃね?」

「成程、そっちの話になるのか……」

 知識ではなくて頼れる人、話ができる人ベースで考えてしまっていたのでそれは盲点だった。

 僕はしばらく考えこみ、ややあって高橋を見据える。

「……高橋さん、キャンプや山登りの経験は?」

「嗜む程度には。それで、具体的には何するんだよ」

 ため息交じりに高橋がうなだれる。


 やっぱり思った通り、コイツ面倒見の良いヤツだ。

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