異世界探検日記
びば
序章 扉を開けたら異世界でした
扉とは世界を隔てるメタファーだと、そんな言葉を聞いた憶えがある。
何かの本だっただろうか、アニメか漫画かもしれない。仮に本だったとして、きっと読んだその瞬間は、記憶にとどめておこうとも思わなかったであろうそんな些細な事だろう。けれど今は忘れかけていた様々な記憶が、頭に浮かんでは消えていく。
あらゆる情報が、知識が、一歩踏み出すたびに頭に沸いては巡り、そして頭の先から抜けていく。
脳が、今の目前にある状況を理解しようとフル稼働しているのだ。
それは古い蔵だった。
祖父が亡くなった時に譲り受けたものであり、今では僕の財産の一つだ。
祖父は大層な資産家だったらしい。仔細は省くが、土地や財産をしこたま所有していて、孫の僕の手元に残ったのが古い蔵付きの祖父の生家というわけだ。
僕はこの祖父の家が好きだった。
周辺の土地も蔵の中の物も、殆ど親戚がもっていってしまったが、この家だけは譲らなかった。
……いや、今は蔵の話をしよう。
蔵には地下室がある。
例に漏れず親族に金目の物を浚われた後であり、やれ木箱やら壊れかけた家具などが整理もされずに埃をかぶっている。
そんな唯一残ったガラクタの中、一際目立つ物があった。
洋風の意匠が施された、古い鉄扉である。
やたらと重く、錆が酷いそれは、地下室を隔てる壁に丁度収まるサイズだ。持ち出すのも億劫だし、何よりひどい保存状態だったので、親族の目にとまることもなかったのだろう。
経緯は覚えていないが、僕は扉を引きづりながら、本来あるべきであろう場所に扉を据える。まるで外の世界からの介入を閉ざすように、扉で世界を隔てたかった。
カチリ、と何かがかかる音がした。
鍵ではない。そもそも鍵なんてついていない。
手を離せば、蝶番すら朽ちていた扉は、しっかりと地下室の壁に収まっている。
地下特有の冷ややかな空気が、埃を混じらせて時折吹いていた風が、ぴたりとやんだ。
まるで最初からそこにあるかのように佇むそれに、恐る恐る手をかける。
扉の向こう側。
それは、別の世界への入り口だった。
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