光を追う

 僕の眼は完全にその青白い小さな光の方を向いていた。その光が何なのかは分かりなどしなかった。その、海に浮かび輝くその姿が、ただ、海月のように見えた。それだけだった。その海月は、僕が見ていた限りは一切その場から動かない。まるで、自らは動く事の出来ないサファイアのような青く輝く鉱石のようにもこの眼には映った。このとき僕は珍しく、いや、僕の記憶が残る限りは初めて探究心というものに追われていた。後にも先にも、僕が生きてる間の中で一番の探究であったと、今でも思う。と言うよりかはある意味ではこの探究はこうなった今でも続いている。あの時はただ、無性に惹かれていた。きっと、それだけだった。


 僕は気付けば自分が座っていた窓枠からは降り、自室から出て階段を降り、既に一階まで出ていた。

 

――

 

「あ、 あお、おはよ」姉のうみだ。階段を降りてすぐにある仏間から出てきた途端僕を見つけた。もう昼だと思いながらも、そのまま「おはよ」と返す。

「碧、お母さんに挨拶した? 今日から――」

 母は、昔に亡くなった。僕が幼稚園児だった頃に海難事故で。ただ、詳しい事は何も覚えてない。

「分かってるよ、もうとっくにした」

 そう言葉を放って、靴の踵を潰したまま外へ駆け出す。


 ただ、あの青白い光が見えた堤防まで走る。あの光が何だったのか、ただそれが知りたい。だから走る。その時僕は好奇心に満ち溢れ、心の奥のどこかで何かが詰まるものがあるものの、ただひたすらにその堤防に向かって走る。知りたいが為に走る。ただそれだけだった。

 

「はぁ、はぁ……着いた……」

 やっと着いた。家の二階から見えたあの青白い光の正体を知れる。その一心でいた。がしかし、次の瞬間から自分は愕然としていた。何も無かったのだ。ここまで全速力で走ってきたにもかかわらず、海月も、青白い光も、何も無かった。


 しかし、その堤防の終わりまで歩いて足を止めると、頭上に何かを感じた。上を向いても青い空が広がるだけ。なんだろう、不思議と優しくふわりと、頭に触れるようなそんな感覚。ただ、それだけを感じていた。

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