勇者パーティの運び屋として選ばれたけど、勇者不在のため現れるまで軟禁された結果。
時計 銀
第1話
船が好きだった。
あの青い大海を優雅に進む巨大な鉄の箱に、俺にはアウラが輝いて見えていた。
憧れだった。
あの芸術作品を動かすのも造るのも。これほど自分がやりたいと思った職業は今までになかった。
だから高校一年生のとき。
僕はそのような仕事ができる大学へと進路を絞った。初めての経験だ。今までに自分でこういう風に決めたことはなかったからだ。
だから、受験勉強の側早く彼らと触れ合いたくて俺は船について予習をすることにした。
楽しかった。親に無理やり受けさせられていた英語の検定よりも情報が遥かに脳に浸透していった。
模試結果も上々。大幅に目標偏差値を越しており失態しなければ受かるのは当然だとも先生から太鼓判を押してもらった。
だが。
(まさかあれで死ぬとは思わなかったわ、めっさ恥ずかしい)
高二の夏。あの瞬間から幾度と経っても思い出す。
俺はアイスを口に含んだ途端に亡くなった。
あの日は暑い夏の日だった。
すぐさま何か冷たいものを口に含みたいと思い近くの駄菓子屋に売られていたアイス棒を購入し、口に含んだ結果、思いもよらなかった冷たさで頭がショート。そして地面に倒れる。加えて頭を強打し、またアイスを手放し燦々と降りまくる日光に長時間浴びせられた結果、俺は死んでしまったのだろう。
その後どうなったかは死んでしまった俺にはどうしようともわかることは今後ないだろう。ただ、『男子高校生、アイスを食べて死亡か』といった不名誉なニュースが流れるだけに違いない。
その結果。
俺は転生した。
どれくらい意識がなかったのかはわからないが目が覚めるとそこには見知らぬ男女がこちらを嬉しそうに見ていた。
その時はパニックで何が何だかわからなかったが、後々落ち着いて彼らの話を聞いてみれば自分が異世界したのだと理解させられた。
自分の名前がライアスである。
彼らは自分の両親である。
ここは、バンラディッヒ王国でその辺境のど田舎。
そして、何よりも決定打となったのがこの世界には『魔法』と呼ばれる特殊な能力が普及しているということだ。
軽く絶望した。
せっかく受験勉強をしたのだ。それが棒に振るわれて悲しくないわけがない。また一から勉強開始である。勉強嫌いの身としてはこんな苦痛なことを自覚しただけで気絶することができる。
だが、その一方でこの結果に歓喜した。
死んでしまったのは致し方ない。それでもこの世界でまた船舶関連の仕事にありつければ俺は人生に勝利したも同然。
ここから、俺の船舶ライフが始まるんだ!
そう俺は両親に顔で意気込みを示した。
私七歳。日課である薪割りをしながら人生二度目の絶望をする。
やはり、やはりと。俺の船舶ライフはそううまくはいかなかった。
この世界にはもう一つ慣習があるらしい。両親や村の人たちが言っていたから確実な情報だ。
どうやら、この世界では十二歳になると自分の天職が定められるらしい。
教会という各地に点在する白い建物(俺の村にもあった)に齢にして十二なると親に強制連行されて神職の方から神の啓示を知らされて自分の職業を与えられるらしい。そしてその職は絶対に変えてはならないだとか。
何だよそれ、もし「天職:泥棒」な人物がいれば一生日の下を歩けないじゃないか。十二歳から牢屋生活は最悪だ。
つまりどういうことかというと勝手に職変更は許されないらしい。
最悪である。もし船舶関連でなければせっかく手に入れた二度目の人生を俺は無駄に過ごすことになる。
何か自分の職を確定させる方法はないのかと両親に問うたところ「知らない」とだけ返された。
その後に「毎日祈ればどうか」とも言われた。
神頼みでしかない。
ざっと村を見る限りで十数個も職業があった。つまり都市部ではこの数倍、数十倍と職があるのだ。絶望以外に何をすればいいというのだろう。
よって今は仕事である薪を割りながら、落ちている枝を使って手乗りほどの船を試行錯誤して作り、それを何かパワースポット的な大樹にお供えするばかりの毎日だ。
どうか俺の天職を船舶ライフが過ごせるものに!
ちなみに、作った歪な手乗り船は意外と水上でも活動できていた。まあ、川のせせらぎで行っただけで荒浪に耐えられることは万が一つにも満たないだろう。
「ねえ、本当に行くのー」
「ええもちろんよ、今日は貴方にとって一番大事な日なのよ」
母親に引っ張られながら俺は両親とともに村の教会へと向かっていた。おい親父、何後ろで苦笑いしているんだよ、助けろよ。
「嫌なんだけど。職業決められるの」
「ママもパパも同じ道を通ってきたのよ。そんな怖いとこほでもないんだし。ほんと誰に似たのかしら」
船舶関連には到底なれないだろう。それはもう今となっては諦めるしかない。
それよりも不安なことは他にもたくさんある。
一つに魔族と魔物だ。
どうやら異世界テンプレよろしく魔族やら魔物やらがいるようだ。ちなみに魔王は未だ封印されているらしい。だが、彼らは今もそこら中に存在しており俺が毎日大樹の下に向かっていた時に入った森もそこまで多くはないがたしかに魔物はいたらしい。
俺は意外と危ない道を通っていたようだ。
そして二つ目に魔法について。
魔法について学ぶのは十三歳かららしい。それも都市や町にある学校で軽く三年勉強し、加えてより高度なものを学ぶ場合にもう三年を都市部にある学園等で学ぶらしい。
英才教育を受けていなければほとんどの場合俺たちは十三歳のときに初めて魔法に触れる。つまりど田舎に住む俺が英才教育を受けているはずがなくこの十数年間俺は魔法に一切触れていない。まさか魔法のある異世界に転生してまで魔法をお預けにされるとは思わなかった。
「なんでお兄ちゃんはあんなに怒っているの?」
亜麻色の長い髪を持ち、くりくりとしてぱっちりとした大きな瞳を持つ俺の妹、サラは首をこてんと傾げて彼女を抱えている親父に上目遣いで聞いていた。
「さあ、なんでだろうねー。反抗期なのかな」
たしかにそれくらいの年代だがそうじゃない。
「ふーん。変なの」
サラは理解できていないようでただこちらをずっと見つめていた。
「妹よ、お前にもいつかこう葛藤する時があるからさ、見習っとけよ」
前世では妹がいなかったためどう接すれば良いかわからないがとにかく兄という威厳あるものとして彼女に見せておこう。
「何馬鹿なことを言ってんの、さあ着いたわよ」
引きずられていた俺の体を直立させ前を向かせられる。やはり教会は遠くから見ても近くから見てもその建物の材質が白く輝いていた。
中は清潔感があり、ガラスから木洩れ出た光が前の方を照らし神聖な感じを醸し出していた。
前の方にはシスターが立っておりこちらを見つけるとすこし微笑んだ。
「今日はお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします。シスターのカーラ・チャレットです。えっと、ライアスくんでしたっけ。ライアス・クラークくん」
「はいっ」
名前を呼ばれて少し驚く。他人にフルネームで呼ばれると照れてしまう。前世が日本人で名前が漢字だったからかどこか自分の名前ではないように感じて戸惑ってしまう。
「じゃあ、早速始めましょうか。ライアスくんはここの中心に膝立ちして神に祈りを捧げてください」
チャレットさんの示す場所、日光の照らした場所の中心に彼女の言う通りのポーズをとる。
祈りを捧げるのだったか。神様お願いします、船舶関連の職業にしてっ!
ぐっと手に力を込めて祈る。
「 」
チャレットさんが何か唱えている。何を言っているのか聞きたいが今はこちらに集中せねば。
うおぉぉ。船の職業来いぃぃぃ。
「えっ!」
祈っている途中。チャレットさんが驚くように声を上げた。そのあまりにも唐突な戸惑いに必死に祈ってた自分もいつのまにか祈りを捧げていた手を下ろしていた。
不思議に思い彼女の方を見る。彼女もいつのまにか持っていた茶色の紙と俺を交互に見ていた。
すると、落ち着きを取り戻したのかチャレットさんは咳払いをするとその用紙を読み上げた。
「ライアス・クラークの天職は《勇者の運び屋》である」
その瞬間、他にいたシスターや両親が息を呑む。
俺もそれが何なのかは理解できなかった。だが、「勇者」とついた時点でおそらくこれからの人生が波乱の予感がした。
そのあと、チャレットさんが連絡したのか後日俺は屈強な男どもに教会本部に連れてこられた。
そこで軽く取り調べ行い、今後の俺のしなければならないことを教えてくれた。
どうやら、俺が見つかったことで勇者パーティが捜索されているそうだ。
そしてここからが本題である。
簡単に言えば彼ら勇者パーティを目的地へとすぐに運ぶ重要と言われれば重要であるという何とも言えぬ職業だ。
そのため俺は世界の地理とか馬車、そして船を操縦できなければならない。
そう船、である。
船を操縦、船に触れることができる。天職を聞いた時一瞬戸惑ったが船を操作することができると聞いて安堵ともにすこし興奮した。
だが、船ばかりに構ってはいけない。
運び屋の職業は何よりもその土地の性質を理解し早く安全に勇者パーティを運ばなければならない。
そしてなにより。普通の《運び屋》と《勇者の運び屋》の違いとして『転移魔法』が使えるかどうかで分けられる。
『転移魔法』は知っている場所ならどこへでも行けるという俺の中では名の知れた魔法だ。しかし莫大な魔力を喰い、またリチャージ時間も相当長いという非常に使いづらい魔法だ。
だからそれをバンバン撃つことはできないので俺ら運び屋には普通の操縦もできなければいけない。つまり転移魔法は緊急用移動手段なのだ。ちなみに転移魔法を今使えば俺は魔力切れを起こして死ぬだろう。
そう教えられて俺はこの四年間世界の地理を覚えるため先生である教会の上層部の方に連れられて世界をまわっていた。早いうちに覚えとかなければならないのは重々承知だったが彼のスパルタレッスンはどうにかならなかったのだろうか。
あの恐怖は今も忘れられない。
だがそこで疑問が生じた。勇者というのは見つかったとしても三年いや六年学校で勉強しなければ魔法というものを理解していないので戦闘では役に立たないのではないか、と。
先生に聞くとどうやら勇者は十二歳になると受ける天職決め(『
では《勇者の運び屋》はなぜ含まれないのかというと別に同年齢じゃなくてもいいじゃないかという理論らしい。だが例年そこまで勇者パーティと運び屋の歳が離れているということはなくそこまで気にされることはなかったようだ。まあ、運び屋に必要なのは同年齢であることではなくて実力だからな。
ちなみに、職啓で与えられた天職は全うすれば他の職をしていいらしい。だが、そんなことが本来あるはずもなく(例えば農家の仕事に終わりがないように)該当するのは一握りしかいないらしい。ちなみに、そこで培った技能は受け継がれるので俺が《勇者の運び屋》を終わらしても転移魔法等は扱えるようだ。
だからだろう。俺は油断していた。勇者を運んで魔王をやっつけて貰えば俺はこの束縛から解放されるのだ。そこだけに注目していた。
まさか。本当にまさか。
「勇者が見つからないなんてことがあるんだな。それに魔王も復活した気配無し、という」
白で整えられた一室で俺はソファに寝転び天井をただ見つめる。
ここはアラミクラン法王国。教会本部の一室。教会が所有する特殊魔法が施された部屋。
通称『歳のとらない部屋』に俺は監禁されている。
勇者パーティの運び屋として選ばれたけど、勇者不在のため現れるまで軟禁された結果。 時計 銀 @Lebenspielen
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