幕間その三 編集会議は紛糾中
その三
紫重の原稿をめくる手が忙しい。
今回は少しばかり長くなってしまった。紗那にもそういった自覚はある。
何より今度は隠さなければならない部分が多すぎて、起承転結に照らし合わせると「転」が丸々抜けている様な状態だ。
もちろん「承」の部分も随分と欠けている。
けれども、それとなく察することが出来るように、かと言って文句も言われないように。
そういう守らなければならない決まりがあったので、紗那は架空の部活「火星拳法部」をでっちあげて、それを悪者にして今度の取材を適当にまとめた。
確実に「ノンフィクション」では無くなったけれど、紗那は別にノンフィクションにこだわりがあるわけではない。
それは紫重も同じ考えなのだろう。
「うむ……まぁ、これぐらいなら良いだろう。これが表に出るのは、学祭の時なんだしな。その時にはすでに手遅れでもあるし――」
「きっと、鵯越くんが何とかしてくれそうな気がします」
紫重の言葉に紗那がそう続けると、紫重が一瞬止まった。紗那が不審に思って小首を傾げると、それに押されたように紫重は続ける。
「――言っただろう? アイツなら何とかしてくれると」
「部長はそんなこと……ああいえ。そうですね。なんというか確かに頼りにはなりそうです」
紗那は鵯越に付き合う打ちに、それぐらいは信頼しても良いと考えるようになっていた。
「ああ、それで僕が言いたかったのは、結局のところ副会長の想い人が判明すれば、ほとんどのことは問題では無くなると言うことだ。何しろ今回は副会長におかしな動きがあったことが判明しているわけで――そして、これは勘だけどね」
「はい」
「ゴールは近い。そんな風に思うんだ。鵯越はなにか言っていたかい?」
「それがどうも上手くいかないようですよ。今度は生徒会に直接聞き込みをするって……」
「大詰めだな」
紗那の、どちらかといえば否定的な報告にも、紫重がめげている様子は見られない。それ以上に、鵯越に対する信頼が勝っているのだろう。
「それで部長。私はもうこれで良いんですけど……」
「何かな?」
「やっぱりこれって副会長のプライベートをさらしてしまうことに……」
「そこは犬伏くんの一話目と同じ状態になれば問題無いと考えている」
一話目――とは星霞と晴陽の話だ。
あれと同じ状態ということは……
「副会長が、好きな人とつきあい始める……ってことですね。ああ、確かにハッピーエンドで終われば……」
「だろう?」
確かに副会長と想い人が付き合い始めると言うことになれば、今回の取材と文集に対して不満の声が出てくるとは考えづらい。
副会長がどう考えるかについては……紗那はそこで考えるのをやめた。
いや、それよりも別の事を考えていたと言うべきだろう。
今まで鵯越の調査に付き合ったせいだろうか。
紗那には、この問題について、ある“答え”が見えかかっていたのである。
「では犬伏くん。もうすぐだ。最後までよろしく頼む。生徒会に乗り込むとなれば、色々大変だろうが」
「はい。でも今は夏休み中だから、鵯越くんはバラバラに話を聞きに行くつもりみたいですよ」
「なるほど。慎重なアイツらしい」
紫重はそう言って満足そうにうなずいたが……
……紗那はこの依頼が失敗するのでは? と考えていた。
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