幕間その二 編集会議は継続中
その二
そして再び文芸部の部室。
紗那と紫重の位置関係も変わらない。
スチール机に腰掛ける紫重と、その前で呼び出されたように立たされたままの紗那。
そして二人の間にある机の上には、紗那が仕上げた原稿がある。
内容はもちろん「三賢人」との面会と、その調査結果だ。
それを「ノンフィクション」とやってしまうほど紗那は度胸が据わっていない。
どう言うつもりなのか各部長は名前を出すことと、紗那の小説に登場させることを許可したわけだが、やはりあの教室を使っていることと、エロゲー周りの発言は、
「オフレコで」
なんて言われしまったわけで。
そうなってしまうと、最初の紗那の目論見通り、
「探偵と、その記録者」
を中心に話を展開させるしかない。
結果として、随分あやふやな部分が出来てしまうが、この話の元が元だけに、それも問題無いだろう。
「うん! 良く出来てるな、犬伏くん!」
それを裏付けるように、紫重は提出された原稿を丁寧に揃えながら太鼓判を押した。だがそうなると、逆に紗那が不安になった。
「……ええと、でも。結局わからなかったわけですし」
「焦ることはない。それに架空の人物だった、なんてオチが付かなかった事は幸いと考えるべきだろう」
「はぁ。でも、やっぱりこれは無駄足って感じで……それに文字数もかさんでしまうし」
今回はそういった事情も含めて、短めにまとめたつもりの紗那だったが、何しろ「三賢人」のキャラが濃すぎて、どうしてもカット出来ない部分が多すぎたのだ。
「その辺りは僕に任せて欲しい。余裕を持って対応できるように準備中だ。何しろ副会長の想い人が校内にいることは確定したのだからね」
「それは確実なんですか?」
「間違いない。僕もあれこれと別口で動いてみたんだが、その辺りは確実と言っても良いだろう。会議室の様子の証言を集めて見たところ、やはりあの状況は同じ校内にいると考えることが自然だ」
そう、ハッキリ言われてしまうと、紗那としてもうなずくしかない。
「……わかりました。それでやっぱり鵯越くんに?」
「なんだ? アイツが降りるとか言いだしたのか?」
「いえ、そんな事は無いんですけど――やっぱり、外堀を埋めると言いながら、どうにも見当違いの事をしているみたいで」
さらに言ってしまうと、その見当外れの状態の方が、実はあらゆる意味で“適切”なんじゃないか? ……という懸念も紗那にはある。
何しろ鵯越が言うには、この件は「汚れ仕事」ではあるのだから。
「いや、その点は大丈夫だ。むしろ鵯越の慎重な姿勢が変わってないようで、安心出来るところもある。アイツが降りない以上、必ず突き止めてくれるはずだ。それだけの能力をアイツは持っている」
紫重も、思うところがあるのか微妙に具体的な目的を口にしない。
だが、すでに乗りかかった船なのだろう。
こうなったら鵯越が依頼失敗――そんな可能性に少しばかり期待しても良いのかも知れない。
――だが、そんな紗那の期待を鵯越は裏切ることになるのだ。
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