エゴ6

 昴は深夜二連勤で疲れきって帰ってきた。もう一般の通勤通学時間帯だというのに。

「ただいまー、起きてるかー?」

朝の八時前。大抵慧と文佳が起きだす時刻である。

「おはよう兄さん」

「起きていたのかお前」

「おはようございます。いま、コーヒー淹れますから」

「おはよう、文佳くん」

朝の遅い二人にしては、きちんと着替えているし、起きたばかりの感じもしない。

「おい慧。どうだった?」

そうからかうと、文佳がそっぽを向いた。ダメダメじゃないか。

「それよりも先生、わたし書き上げました。ルミナリア」

「そうか。……書き上がった!!!」

「うるさいな。そんなに叫ばないでよ。こっちは寝てないんだから」

運んできた朝食をこぼしそうになる慧。なるほど、徹夜ならその格好も頷ける。

「こっちだって寝てない。文佳くん、読んでも?」

「はい。慧くんにも読んでもらいましたし」

文佳は封筒を差し出してくる。中には、原稿が入っている。表紙にはルミナリア、そして 脇に~ルミナス ミーツ サイオン~(仮) と副題。瀬水仁というペンネーム。冒頭は、ルミナスがのめり込んでいるゲーム、スペースクラフトの世界を楽しく見せる。そうだ。こんな感じだった。奏佳が死んでから、ぜんぜん読み返していない。ルミナリアだ。ページをめくる。その速度はどんどん早くなる。奏佳の思い描いた世界。二十一世紀の、小さくて最大のファンタジー。ルミナリアだ。ルミナリアだ。

 コーヒーが冷めるのも忘れてページを繰る。いつの間にか、泣いていた。ストーリーとか、表現とか、そういうことではない。ことば一つひとつに奏佳を感じる。昼下がりの喫茶店で語ってくれた学生時代を思い出す。

「あの、兄さん? ちょっと聞いてくれないかな」

慧が気まずそうに話しかけてくる。あとにしてくれないか。

「えーと、金庫、なんだけど、壊しちゃって」

「なんだ。その事か。…………金庫壊しただとおおおお!?」

「なんでそんなに怒るんだよ」

「金庫って、奏佳の家の金庫か? 言ったよな? あの中にあるのがどれだけ大なものかってことを」

「ごめんなさい、慧くんが開けてみて、って言うから」

「文佳くんが?」

「書き上げて、聞かれたんです。カナカさんの家に連れて行かれて、二十桁の暗号だって。思いついたんです。 Luminous meets scionって」

ルミナリア一巻の副題か。

「その金庫の中に大切なものが入っていたって。本当にごめんなさい」

文佳がやってみてもダメだったか。目の前の原稿と見比べて、どうにもならないのかと思う。

「でも、兄さん。文佳は書いちゃったんだ」

「ルミナリアだろ? これ」

「そうじゃないんだ。最後まで書いちゃったんだよ! ルミナリアシリーズを」

「これも読んでもらってないのに、慧くんが続き続き、って。わたしもインスピレーションが止まらなかったんです。結局十八冊分」

十八冊。最終巻まで含めての巻数だ。そのプロットはおおまかだが、すべてルミナリアをなぞっている。文佳くんが何かを書いた用紙を出してきた。

「十七冊目までは副題まで書いたんだよ」

「でも、既刊とはだいぶタイトルちが……、いや、これは全部奏佳のつけた仮題じゃないか」

あちこちに飛びすぎてはいるが。キャラクターの名前や設定、その舞台も適当なところが結構見える。しかし、奏佳はいつもこれくらいのものを見せてきた。

「全体プロットとしてすでに完成されているな……、おい、最終巻ないじゃないか」

「はい。書いてません」

あと三ページ分を残してノートへの書き込みは終わっている。そこまでびっしりと書かれていたプロットは十七冊分だけだった。

「最後まで、って言ったじゃないか」

「書く前に兄さんが帰ってきたんじゃないか。ふたりきりの時に、僕だけに教えてくれた」

「さっさと言え。いや、今から五百川さんを呼ぼう。そこで聞こうじゃないか」

ノート一冊分まるまるプロットが書かれている。それを見ていると、鮮明にルミナリアのセカイが見えてくる。

「慧、本当によくやった。お前のおかげだ。ありがとう、そしてありがとう文佳くん」


 五百川が来るまでの間、結局仮眠は取れなかった。目を皿のようにして、プロットを読み込んでいる。五百川もその事実を聞くと大急ぎでやってきた。

「よく出来ています、文佳さん。でも、最終巻は?」

「書いていません。まだかけるかどうかもわからないですし」

「かけます。これだけの作品ならすぐに出版を手配できる。だからこそ、きちんと結末を知りたいんです。ルミナスとサイオンのセカイはどうなるんですか? ここでおあずけなんて残酷ですよ」

今すぐに書け。最終巻だけでいいから書け、と五百川はそう言いたそうだった。

「僕は知っていますよ」

「そうなの? 言って! 慧くん」

「言っていいの?」

「ダメ」

だからどうして、と五百川と昴が問い詰める。一冊一冊掘り下げて、大きな物語を作るのであって、プロットだけではどう転ぶかわからない。だいたい、二巻以降だってこのプロットがどうなるのかもわからないのに、そんなに先のことを考えることもないだろう。慧はそう代弁した。五百川はこのプロットで全部オッケーだというが、そんなはずはないから、と至極まっとうに返す。

「十七巻まですべてオッケーなんて、ねえ」

「オッケーなんです文佳さん。あなた、素晴らしい作家になれますよ。多くの読者が待っているんだから」

「五百川さん、そのくらいにして」

「金庫はダメになったんでしょう? もう文佳さんに書いてもらうしかないの! それ以外にルミナリアは……」

悔しそうな、悲しそうな顔で何かをこらえている姿は見ていて痛々しい。

「焦りすぎるな。必ずできるだろう?」

「そうだよ兄さん。ぼくもバックアップするから。五百川さん、このあと時間いただけますか? 文佳は徹夜でえーっと、徹夜で書いていたんです」

「わかりました。この原稿、きちんと添削します。明日には返せると思います。ゆっくりと休んでください。本当に、お疲れ様でした」

文佳はここ数日ほとんど寝ていない。記憶の限り奏佳さんのルミナリアを再現できるように書いていたのだから、その疲れが蓄積していたのだろう。バタバタと二階に行ったかと思うとすぐに静かになった。

「それで、お前は何を望むんだ慧」

「取引のつもりね?」

「話が早くて助かります」

二対一。しかし、慧はあくまで強気でいる。

「こちらも限界なんです。すでに出版されている本をもう一度出版なんてできません。このペースで最終巻までどのくらいかかるかも」

「説得する方法があるのか?」

「要するに、五百川さんは十八巻の原稿がほしいんでしょう?」

そうです、と断言する。恥も外聞もない。五百川はエゴの赴くままに動いている。今の文佳なら、奏佳さんのように書けるのだから。いくら払えばいい? それとも自社へのキャリア採用くらいなら、とへりくだる。

「そんなものはいりません」

「じゃあ、何を望むの? はやく要求を」

「本を、書かせてくれませんか?」

「書けと言っているのはこっちです。書かせてくれるのであれば、ルミナリアの最終章をお渡しします」

いまいち会話が噛み合わず、五百川のイライラは頂点に達しようとしていた。

「僕に本を書かせてくれませんか?」

「慧くんに?」

「はい」

 慧はこれでも文芸サークルにいる。何度も作家として暮らしたいと思ったことがある。本も、たくさん読んできたし、身近に蓋井天という稀代の作家がいたこともその夢を加速していたのだ。何年も書いていないじゃないか、と昴がいうがそんなことはない。昴や奏佳さんの前では恥ずかしいからそんな素振りを見せたことがないだけだ。某ネット小説サイトではそれなりに読者がついている。

「文佳ばかりずるいんですよ。特に接点もなかった姉が蓋井天だから、出版社からのエリート教育を受けて出版が確約されているなんて」

「ずるいから、自分も書きたいって?」

「ダメなら、この話はなかったことにします。そして、今から奏佳さんのルミナリアのことを文佳に教えにいきます」

五百川は黙りこみ、五分ほど動かなかった。よほどの葛藤。全く関係ない慧の本一冊くらいなら、と思えば簡単だが、本が一冊出版されるのは奇跡のような出来事なのだ。玲瓏出版から出すとしたら、数百万円のお金が動く。

「……わかりました。ただし、賞に出してください。二次選考から私が入ります。一次を突破できる程度の原稿ならば、出版を約束します」

「それでいいんですね?」

「ルミナリアの対価としては安いものです」

ひどいエゴだ、というと、お前だってと言われた。当然だ。慧は文佳と二人で作家になる。そのエゴを貫き通すためならば、ルミナリアの最終巻くらい安いものだ。

 五百川は帰り、慧も昴も昼過ぎまで寝た。昴が目をさますと、すでに文佳は起きていてどうだった? と聞いてくる。

「条件飲んでくれたよ」

「ありがとう。それに、なかなか意地悪なことするね」

「聞いていたの?」

休んでいる暇はない。二人は執筆に入らなければならなかったのだ。玲瓏小説新人賞に出すための新作と、ルミナリアの最終巻を。

「新人賞の締め切りは四日後。間に合わせないと駄目だ」

「慧くんだってそうでしょ? 四百八十万部の重みよ?」

「四百八十万じゃない。文佳の記憶喪失既刊で六百万部に届いた」

もっとも、外部からの情報遮断をしていただけだが。やるしかない。慧と、文佳のエゴを貫くには書くしかないのだ。少しの時間も惜しい。文佳はパソコンを慧の部屋に持ち込んで、並んでワープロソフトを立ち上げた。

「慧くん、一つ聞いてくれない? お姉ちゃんのルミナリアには壮大な計画があったの。ルミナリアの対になる物語。わたしはその対の物語を書く」

「いうねぇ」

「ルミナリアの最終巻に並ぶとしたら、これしかないでしょ?」

慧と文佳はすごいことをやろうとしている。たったの四日。百時間に満たない時間の中で。しかし、文佳が自分で言い出した瀬水仁というペンネームはいったいどうなってしまうのだろう。表向きには慧が書く物語の作者なのだ。文佳が使えばいいと思った。いっそのこと、二人の共同ペンネームもいいな、と考える。藤子F不二雄と藤子不二雄Aのように、瀬水S仁と瀬水仁K。瀬水K仁と瀬水仁Sのほうがそれっぽいだろうか?

共犯者には、ともに掲げる旗印がよく似合う。


 二ヶ月後。夏の盛りも過ぎ、文佳は休学が解かれたために夏休みにもかかわらず大学へ足を運んでいる。表向きにはずっと入院していたことになっているが、文芸サークル内では文佳と慧ができていることがいつの間にか知れ渡っており、その誤解を何とかするのに一月以上かかってしまっていた。もっとも、あながち誤解でもないのだが。この日は、玲瓏新人賞の最終審査の結果が出る日だ。

 瀬水仁は、【クオリア】というタイトルで作品を投稿した。一次審査、二次審査、三次審査をきちんと通過して、すでに出版は決まっている。

「え、満場一致? わたしまだ見てないですよ! もしかしてそれ、はい、クオリア? 瀬水仁? やっぱり! 慧くんはすごい本書けたんですね。慧くん? 本名です。知り合いです。不正なんてないですよ? はい。そうです。夕方には伺いますから」

電話を切ると、水戸がまじかよ、と声をかけてきた。

「勝手に聞かないでください」

「本当に大賞か?」

「ほらね兄さん。言ったとおりだ」

慧は胸を張った。

「恐れいりました。本当に良い本を書いてくれてありがとう」

「慧くんはすごい作家になりそうですね」

それに比べて、と大人たちは文佳を見た。魂を抜かれたような顔でソファにもたれかかっている。

「そんなにおちこまないで、文佳さん」

「落ち込みもしますよ。まさかルミナリアがボツになるなんて。わたしの青春が……」

どうしても隠し切れないと、最終章を五百川に渡したときに奏佳さんのルミナリアのことを暴露されたのだ。盗作じゃないが、これを世に出すことはできない。ただ、最終巻だけは考えさせてほしい、と。

「でも最終巻すばらしかった」

「本当に、奏佳が書いたようなものだった」

「先生、それほめてませんよ。うまくパクれているねってことじゃないですか」

文佳は更に落ち込んだ。

「ごめん文佳。黙ってて」

四人が深々と頭を下げる。

「先生たちが蓋井天のガチマニアで、続きを切望していたなんてね」

「蓋井天を知らない人間じゃないと、あの結末に辿りつけない、って思ったんです」

「回りくどいですみなさん。だいたい、亡くなった人の本の続きならプロの人に頼んでくださいよ。おかげでわたしのデビューがパーなんだから」

文佳はそうも行かないことまで含めて全部知っている。逐一慧が教えたからだ。そのことを五百川たちは知らない。

「ゴーストライターじゃないけど、蓋井天と瀬水仁の共作扱いですから。ね? 原稿料ももちろん払います。ボーナスも、いろいろつけちゃいますから。ね?」

「でも、慧くんだけが作家になっちゃうんですよ? こんなの不公平じゃないですか」

「だから、うちで作家にならないか、って言っているじゃん」

「わざと意地悪した劇団になんて関わりたくありません!」

ルミナリアの最終巻を読んで、誰もが手のひらを返したのだ。結局はそこなのだとさんざん二人で悪口を言ったので、その辺の折り合いは付いている。

「だからごめんって」

「でも、書いてあげてもいいですよ? 【ボクノート】とか」

「わさドラじゃねーか!」

「お嫌いですか?」

それは、とか、でも、とか言っていたが、劇団アコースティックの旗揚げにはちょうどいいとかなんとか言い出した。なんだその適当な劇団名は。

「いやあね、ストリングだけじゃなくてもっと幅広く人をあつめたまでで」

大人たちが下手にでるのは悪い気分じゃない。仕方ないなあ、と文佳はゴーストライターでもなんでもと許可を出すことにした。はじめからそのつもりではあったが。

「遺族の方が許してくれるなら、ルミナリア最終章出してください」

「出していいのね?」

「わたしはいいですが」

奏佳さんの遺族で一番近しいのは文佳だ。ダメなはずがない。そして、二番目に近いのは昴なのだ。

「早速掛けあってきます。完璧な最終章です。読者みんな大喜びです」

夕方の会議とやらもあるので、五百川は帰っていった。いい台本待ってると言って、水戸も。


 二人が帰ると、珍しく昴がコーヒーを出してきた。

「慧。どうしてお前がペンネームに瀬水仁を使った?」

「え?」

「え、じゃない。瀬水仁は文佳くんのペンネームだろう?」

「思いつかなかったんだ。どうせルミナリアの最終巻を瀬水名義で出すことは許されない、と思ってね。でも、できるみたいだからどうしようとは思ってる」

 著:蓋井天 補作:瀬水仁。このような扱いになると五百川は言った。

「ぼくだって、背水の陣の思いで書いたんだ。それでいいだろう?」

あんまり関心しないな、と言う昴。兄の入れたコーヒーは、なんというかとても酸味が強かった。でもなあ、と昴が突然抱きしめてくる

「兄さん?」

「小説家になるのは俺の夢だった。お前が、奏佳のいないこのセカイで一番の小説家になれ。そして多くの人に希望を与えてやれ。俺にはできない、お前にできることだ。おめでとう、慧」

 慧は言葉が出ない。騙していることを後ろめたく思えてくる。後悔は少しもないが、兄さんだけにはいつか本当のことを言わなくてはいけないと思った。

「危なかったね」

「うかつだったかもしれない。でも兄さんも相当ファンタジーなこと言うんだな」

「作家に向いていると思う」

クオリアを書いたのは文佳だから瀬水仁の名前だった。それに気づかなかったのは文佳と慧の落ち度だ。しかし、五百川や水戸も気づかなかったのだろうか。

「ルミナリア最終巻を書いたのが文佳だと信じて疑わなかったんだろうね」

「わたしにあれは書けない。無理」

少なくとも、記憶を持ったままの文佳には書けないという。奏佳さんへの個人的な思いと思い出。それで一文字も思いつかないのだ。

「あの金庫の中身は、文佳しかたどり着けなかったんだ。文佳に書いてほしいって思ったんじゃない? 当人もそう言ったんでしょ?」

「それは、そうだけど。お姉ちゃんは誰に書き継いで欲しかったんだろうね」

「案外、未完であって欲しかったのかもしれないね」

 しかし、ルミナリアのセカイにはピリオドがたしかに打たれたのだ。慧の手によって。

 慧のエゴは、文佳と二人で小説家になることだった。

そしてもう一つ。文佳でなく、慧がルミナリアの最終章を書きたいというものだった。文佳はもうルミナリアからは解放したかったということもある。そのためにはどうしても、慧がルミナリアを書くことになるのだ。周りは傑作だと囃し立てるが、慧が書いてよかったのかと後悔が残る。

「でも、最良の終わりだとわたしは思う。ねえ、慧くん、書き上げた原稿を一番に読ませてくれてありがとう。読んで思ったのがね、もしかしたら、この二人だからたどりつけたのかもしれない……、なんてね」

「なんだか小説家みたいに気取ったことを言うね」

「そうよ。私たちは二人で小説家になるんだから。ねえ? 瀬水先生」

そうだよ文佳。いや、瀬水先生。


 五百川が慌てて電話をくれた。ルミナリア最終巻の発売日が決まったのだ。一月二十五日。忘れもしない、蓋井天の一周忌だ。そして、そこに慧はいるのだろうから替わって欲しいと。

「クオリアとルミナリアの同時発売ですか?」

「そうです。瀬水仁の名前はあなた達ふたりのものとして扱います。藤子不二雄みたいなものですね」

補作、の名前が影響しているのだろう。小説新人大賞を受賞した作家であれば、ルミナリアの補作でも許されるだろう。そのデビュー作が同時に出ることが出版社としてはありがたいのだ。

「それだけではないです。慧くん、クオリアって、ルミナリアの対になる物語ですよね?」

「え? ええ。そのつもりで書いたつもりです」

「よく聞いて。玲瓏出版の会議で、それを認めることにしました。これからは、瀬水仁、いやあなたたち二人がセカイを盛り上げる義務がありますよ。いいですね?」

「もちろんです。はい。ありがとうございます」

とんでもないことになった。文佳に伝えると、少し驚いた顔をしたが、感激の喜びのほうが大きいようだ。

「これで、よかったんでしょ?」

「うん。わたしはお姉ちゃんに並べるように小説を書いていこうと思う」

その決意こそ、不退転の覚悟だ。ルミナリアという大きすぎる山に、二人だけで背水の陣を敷き続けることになるだろう。

「文佳……、いや、西月文佳さん」

「はい」

「長いこと一緒にいて、あなたが好きになりました。付き合ってください」

「……私の読者になってくれるなら」

「はい」

「そして、私を読者にしてくれるなら」

「完結の、いやその先まで、文佳の物語とともにいさせてください」

文佳が背水の陣を敷いたのだ。慧も不退転の覚悟を決める時だろう。

文佳を抱き寄せ、その唇に……。





















 ルミナリア 十八 Lux æterna (永遠の光)

著 蓋井天 補作 瀬水仁

 発売日 二〇一六年 一月二十五日


 天国からの贈り物! 10年代の傑作ファンタジー、ついに完結!!

 二人は再び出会う。そのセカイを巻き込んで。

 ○あらすじ○

 ルミナスの作った第一セカイと第二セカイは互いを資源とみなし戦争をはじめてしまう。ルミナスとサイオンはどちらかのセカイを永遠に放棄する決断をするが、それを決めることができない。再び時を遡上するサイオン。鏡のセカイの原始に向かう。そこで見た影は、二人の住むこの世界の創造神だった!。


 【ルミナリア】最終巻刊行によせて

 蓋井天先生が天国に旅立った昨年の一月二十五日は、奇しくもルミナリア十六巻の発売日でした。彼女は死の淵にありながら、二百九十七枚の原稿を三日という短時間で書き上げ、数枚のプロットのメモと、ルミナスとサイオンの結末を頼むという言葉を遺しました。丁度一年が過ぎた今日、念願の最終巻が刊行されることをファンの皆様と、蓋井先生にご報告致します。

 まず、ルミナリアの続きを望む声よりも蓋井先生の急逝を惜しむ声があまりに多いことにわたしたちは驚きました。そして、彼女と、彼女の創造したセカイがこれだけ多くの方々に愛されていた事実に圧倒されました。

 それから一年、メモを頼りに最終巻を補作してくれる方を探しました。多くの作家を候補に上げましたが、玲瓏新人小説賞で満場一致で大賞を受賞した、瀬水仁先生にお願いすることにしました。瀬水先生の著作【クオリア】は、ルミナリアと対になる物語だと意識して書かれたものであり、新人ながらもその想像力と実力がふさわしいと思いました。

 最終巻の副題、Lux æterna(永遠の光) は、蓋井先生が生前愛した楽曲から頂いた名前です。大作曲家モーツァルトのレクイエムより、第十四曲目のタイトルです。モーツァルトはレクイエムの作曲中に三十五歳という若さで亡くなり、その弟子ジュスマイヤーが補作、その死から一年後に初演が行われたと言います。偶然の一致ですが、何か運命じみたものがあると思い、このタイトルがふさわしいと思いました。

 最終巻を待望された皆様のもとに届くことと、この本が天国の蓋井天先生へのレクイエムとして届くことを願います。

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