エゴ5
二〇〇九年。ルミナリアが生まれる前の話である。
「ハッピーバースデイ、奏佳。誕生日プレゼントだよ」
「いきなり? ムードのない男ね」
昴の家。一年目の新米ドクターが、急いで帰ってきたのは二十二時過ぎだった。
「かんべんしてくれ。こういうの苦手だってわかるだろう?」
「慧くんは?」
「受験生だぞ。勉強中だ」
「なーんだ」
昨日、奏佳はルミナリアを書き上げた。文芸部のホープ。そして、昴の作家になろうとしているガールフレンドだ。
「開けてみて」
もう、っと言いながら嬉しそうに包みを破く。小箱から出てきたのは、一本のペンだった。
「万年筆?」
「ルミナリア完成記念。本当にお疲れ様」
「これ、高かったんじゃない? いくらしたの?」
野暮なことを聞かないで欲しい。早速奏佳はインクをセットし、試し書きをしている。
「ありがとう、昴」
「いいっていいって。これから作家になるんだから、良いペンを持っていてほしいと思って」
「そうだね、すごくいい」
昴はルミナリアのことを聞きたかった。三ヶ月かけて彼女の描き上げた渾身のファンタジー小説。
「今日締め切りだろ?」
「いきなり締め切り? その辺にサチ隠れてないでしょうね?」
さすがにそれはないだろう、と思うが、編集者としてノリにノッている五百川のことだ。外にいるくらいはありそうである。
「原稿は書き上がってるよ。印刷もできてる」
「本当? 読ませて! 読ませて!」
「駄目」
昴に読ませるには、もう少し手直しが必要なの、という。手直しをする箇所なんてあるのだろうか?
「うん、ルミナスとサイオンのデートシーン。まだ気に入らなくてね」
「あと二時間しか無いじゃないか」
現状版は既に送ったという。本当に手直し程度のようだ。二ページほど差し替える、ということだ。三百五十ページのうちの二ページくらい、すぐに書けるという。
「このシーンなんだ」
そのページだけ抜き出してある。既に赤ペンで何箇所もチェックが入っていた。
「これ、サイオンの告白シーンじゃないか。何がデートだ」
「そう。どうしてもうまく書けなくて。どこかのだれかがきちんと告白をしてくれたら、うまく書けそうな気がするんだけどな」
まったくである。中途半端な男が主人公なのはよくないし、魅力も無いからだ。
「ねえ、どう思う? どこかの誰かさん」
「お、俺かあ?」
「だって私、きちんと昴から告白されてないもの」
「そんなことは……」
無いだろう、と思い返す。しかし、なんとなくの好意を何度も伝えてはいてもきちんとした告白をしたことはなかったような。
「『【日本以外全部沈没】なんて本あるの?』 なんてナンパいやよ?」
「それは。愛してるよ」
「もう、バカにして。まあ、締め切りまで時間もあるし、乾杯しない? ルミナリア完成が嬉しくてワイン二本買ってきたから」
テーブルの上にワインが載っていた。赤と白が一本ずつ。たぶん、高いものだろう。昴と奏佳、二人で二本だろうか。
「そうじゃないわ。今、二人で一本あけるの。そして、ルミナリアが終わったらもう一本。このワインは、ルミナリアと共にあるってこと」
なるほど、と言いながらコルクを抜く。奏佳は二本グラスを出してきた。
「じゃあ、完成に乾杯!」
「乾杯!」
奏佳は酒に弱い。昴も決して強い方ではない。
「でさぁ、私は考えたんだ。王道のラブコメにするには、サイオンだけがルミナスを止めることができるんだって」
だから、いつも飲むときは小説の話でやかましくなる。
「フィーじゃだめなのか! 友情じゃないのか!」
「一冊で終わってしまうかも、と思うと、後悔のないようにしたいの!」
「じゃあ、仕方ない!」
「そこでよ、そこで、それを止める一言がさっきの、そう、これ。これが必要なの。なんだか、熱くてクサいのに、すごい万人に愛される奴。でもキザじゃない奴! 何か考えてよ!」
無理だよ、と言ってまたワインを注ぐ。
「あんた、小説家になりたかったんじゃないの? 気の利いた一言くらいさ」
「俺は医者にしかなれなかったんだ」
「鴎外先生なんて軍医しながら駆け落ちして文豪になったんだよ? 小説書く人はどんな状況でも書きたい、って思うんじゃないの?」
そうさ。昴は小説家になりたかった。しかし家を継がなければならないこと。そして、周りにあふれる才能を持つものが二人いたことが諦めという妥協に引き込んだのだ。一人は奏佳。そして、弟の慧だ。
「もう、それはいい」
「医者になれたんだから、それでも立派だよ。ね?」
「医者なんて、一生で救える人数は小説家にかなわねえんだよっ! 本はたったの一文、一行一語で変えてくれるんだから」
それ頂き、とメモをとった。何か変なことを言っただろうか?
「わたしはね、聞いてくれる? ルミナリアのシリーズと、その対になる話を書いて、たくさんの人に楽しんでもらえる小説家になりたい!」
「いい夢だ」
「どうすれば叶うかな?」
「いい本を書けばいい」
「いい本って何?」
「面白い!」
奏佳は身体が火照るから、とシャツ一枚になった。
「ねえ、昴? 今日くらいいいよね?」
「えっ?」
「だって、ルミナリアを書いている間はおあずけだったんだよ?」
そんなこと言った気もする。ふたりとも既に酔っ払っているのだった。
「昴もそのつもりだったんじゃない?」
「それは」
「違うの? 私のファンになってくれるって言ったでしょう?」
もちろん、そうだ。昴は蓋井天はじめての読者なのだから。
「それは、へんな告白で聞いた気もするわ」
「駄目なのか?」
「センスないよ。サイオンはクールで、でも熱いものを秘めているの」
二人は昴の寝室に移動する。少し足取りがふらふらで、少しずつボタンを外していく。
「わがままだなあ。なんだよ、こっちから手を出さないからってさあ!」
「良いって言っているのに。さあ、脱がせてよ」
昴は覚悟を決める。
「今後の執筆に影響が出ても知らないぞ?」
「そんなこと、信じない」
昴は脱がせる前に、奏佳を抱きしめた。
「はじめての読者どころか、最後まで見守ってやる。完結するまで」
最大限の甘い言葉を囁いた。そして、スカートに手をかけて……
「それだ!」
「それ? どれ?」
「セカイを創るルミナスにサイオンは言うの。お前のセカイが超新星爆発しても、一緒にカミサマでいる。だから、歩みを止めないで、って」
「へ?」
「このセカイはビッグバンからいつまでもわたしたちのものだよって、ルミナスがいうの。そうよ。これだわ!」
「いいじゃないか! 差し替え、それで行くのか?」
「うん。あと三十分、いける!」
時計を見る。二十三時半だ。はだけたシャツを着直し、解いた髪を束ねる。執筆に際してのいつものスタイル。昴も服を着ながら、五百川に電話しようか? と聞くとそのひつようもない。三十分もあればと返事が来る。
「あ、でも面白いから電話して。今のくだりも言っちゃって。というか、面白いから、今のシーンは俺達のセックスがきっかけだとか言っていいよ。サチはかなりウブだから」
ふたりで苦笑する。水も酔い覚ましも必要ないといい、奏佳はすごいスピードでタイプをはじめた。もともと速筆だ。さらにその勢いに拍車がかかっているように見える。
昴が電話に行くと、メモ帳にちょこちょこと何かを書き始めた。もらったばかりの万年筆で、だ。三枚、四枚。十枚にわたるメモが書き上がると、それをポケットに大切そうに仕舞った。再び高速タイプに戻ると、昴が戻ってきた。
「サチはなんて?」
「一方的に破廉恥とか言われて切られた。奏佳からまた電話をして欲しいって」
「そう」
「書けたわ」
そしてタイプは終わる。
「ねえ、私もっと書きたくなっちゃった。おしまいまで一気に」
「書けばいいじゃない」
「最終章思いついちゃったの。すばらしい最終章」
「そうなの? 教えて!」
「駄目。いつかね」
奏佳が最終章のはなしをしたのは、この時だけでその後一切は無かった。
「いつまでも待つよ。奏佳の紡ぐ物語を見届けたいから」
「完結まで、一緒にいてくれる?」
もちろんだ、と昴が答えた。
奏佳は嬉しくて鼻歌を歌い出す。
Lux æterna luceat eis, Domine:
「その曲は?」
「ルミナリアのモチーフになった曲」
ラテン語の歌。これと同じ曲を再び奏佳から聞くのは、六年も先のことになる。
その燦めく光が、彼らをいつまでも照らしますように。
この時、昴はそれがモーツァルトのレクイエムであることも、その数奇な運命が奏佳に訪れることも知る由もなかった。
あれだけの啖呵を切ったものの、文佳は寝ていて全く反応がなかった。翌朝顔を合わせた時は何も言えず、それが三日続いた。その日の夜、静かに文佳のの部屋をノックする。反応がなかったら寝ようと思っていた。
「どうしたの?」
「えっと、調子は?」
「期限は明日でしょう? それまでに書けなきゃ失格だもんね」
文佳は背中に隠した封筒を取り出した。
「できました。ほら! 三百二十枚のレギュレーションぴったり」
「これでどこにでも出せるんだね。お疲れ様」
「うん。でもここがスタートラインだもんね」
満足気なはずだが、文佳の表情に少しの濁りがあるのを慧は見逃さなかった。
「あのさ、ぼくたちさ、この小説を書くためにいろいろしてきたよね」
五百川の指示で、百冊読み、映画もみたし、演劇も見た。脚本も書いたし、短編の習作もした。
「でも、ひとつ足りないっていうんだ」
「何が足りないの?」
「唐突だけどさ、文佳が二十文字の英数字で文を書くとしたら、なんて書く?」
なにそれ、と言っていくつかの文を暗証しながら文字数を数えだす。
「ごめん、簡単に思いつかない」
「そう。じゃあ、忘れて。ルミナスとサイオンのデートシーンはどう告白した?」
「それは……、待って、わたしそのシーンのこと慧くんに話してない」
まずい。
「いつ見た? いつ読んだ? もしかして私勘違いとかで話しちゃった?」
「いや、そんなことは無いんだけど」
「何か隠してない? 前々から思っていたけど。それを話に来てくれたの?」
どうする? なんと説明すればいいんだ。もう覚悟を決めるしか無いのだろうか。
「えっと、違うんだ。仮に、役者がカップル役になって、その二人が究極の演技を求めたい場合はどうする?」
役に没頭するためになりきるためのメソッド。デ・ニーロ・アプローチと呼ばれるそれは、恋人役同士が恋人になってしまったり、ということだ。あるいは、役作りのために歯を抜いたり、減量したり。
「ルミナリアでもそれをやれっていうの? わたしを口説いているつもり?」
「そうじゃないけど、五百川さんが」
「慧くん」
眼前が塞がれる。呼吸ができない。慧の唇に文佳の唇が重ねられたからだ。
「これでいい? これなら少しは良くなるっていうの? それともセックスしろって言われた? あの人ならいいそうだものね」
文佳はためらいなくシャツのボタンを外し始めた。
「やめろ! そんなもの見たくない!」
「フフフ、冗談。まさか脱ぐと思った?」
「もう……、ねえ、ルミナリアを読ませてくれないか?」
慧はまだ文佳に「隠し事」やらのことを言っていない。訝しげな表情で原稿を渡される。そこにはルミナリア、瀬水仁と書かれた表紙があり、ファンタジーのセカイが次の紙面から広げられている。これは、読んだことがある。何度も、何度も読み返して、映画館にも幾度も足を運んだ、あのルミナリアだ。
あのルミナリアすぎる。
「これ、お前が書いたのか?」
「そうだよ」
「本当のことを言ってくれ。本当に、お前が書いたものか?」
文佳は黙った。斜め読みで最後まで目を通し終える。間違いない、これはルミナリアだ。
「悪い、文佳。これじゃあ盗作だ」
「盗作? ルミナリアが既にあるって?」
「そうさ、隠すのが大変だったんだからな」
待ってて、と部屋に戻ると既刊全てを持っていく。十七冊、前半の巻は表紙のカドが取れてぼろぼろだ。
「蓋井天作、ルミナリアだ。六年前からスタートした。大ヒットシリーズだ」
「大ヒットシリーズなのに、隠していたの? それとも読む必要がなかった?」
初めて見た、という反応で文佳は一巻をめくり始めた。
「ぼくらはグルになって、文佳からルミナリアを隠していた。それが、隠し事だ」
「ひどいことするんだね」
慧は種明かしを始めた。文佳がやってきたことはルミナリアへ続く奇跡のトレーニングなのだ。見たものも、読んだものも、挫折もすべて、蓋井天を再現するための通過儀礼なのだ。
「わたしを蓋井天にしようっていうの? 蓋井天にはキスが必要? その先が必要なの?」
五百川は何度も言ってきた。奏佳さんはルミナリアを書き上げる時、大事なシーンを書き上げるために一線を超えたということを。そう言うと、文佳は何かに納得したような表情になる。
「五百川さん、勘違いしてる。お姉ちゃんはそんなこと言ってなかったのに」
「お姉ちゃん?」
あ、いけない、と文佳は言った。失言をしたという自覚は在るようだ。
「そろそろ茶番は止めない? もう気づいているんでしょう?」
「文佳……、きみは西月文佳なのだろう?」
「そうよ、慧くん。やっと、本当のことを教えてくれたね。わたしは西月文佳。はじめから今までずっと、慧くんの知っているわたしのまま」
文佳は記憶など失っていなかった。ずっと、奏佳さんのフリをしていたのだ。いくつか文佳と、奏佳さんのことを訪ねてみる。ルミナリアの作者。そして、文佳の離れ離れの姉。天才作家蓋井天の本名でも在る。間違いなく覚えている。あそこで、蓋井天と名乗らなかったのは、せめてもの経緯と抵抗だと答えた。
「だって、蓋井天って名乗ったら、五百川さんと先生のおもちゃにされちゃうでしょう? どうして本当のことを教えてくれたの?」
「大人のエゴの汚らしさに我慢できなかったんだ」
「エゴ? そんなの誰でも持ってるよ。私だって」
そうだ、ちょっと出ない? と外出を促された。昴は不在。誰も二人の行動を咎めることはない。向かった先は、ほんの二ヶ月前に来たばかりだった。奏佳さんの家だ。
「お姉ちゃんは死ぬ前に、わたしに蓋井天を襲名しろって言ったわ。その方法も教えてもらっていた。昴先生と五百川さんさえ騙せたら行けるって」
「でも、あまりにうまく行きすぎている」
「当然じゃない。姉妹だよ?」
「でも、会ったことはないって」
そんなことない、と文佳は言った。少なくとも文佳と奏佳さんは、互いの誕生日の日と、別れた両親の結婚記念日には会っていた。年中手紙、中学生になっていこうはずっとメールの遣り取りをする程度には姉妹だった。文佳は、奏佳さんが昴にナンパされた時も、告白された時も、すべてを姉から聞いていた。昴のことの幾つかは、慧よりも詳しいという。どうして隠していたかといえば、奏佳さんが悪質なファンから文佳を遠ざけたいという気持ちから。そして、二人だけの秘密というロマンスに酔っていたから。
「病床でお姉ちゃんは言った。わたしに書き継いで、って。弱気でね。でも断った。完結させるまで死ぬんじゃない、って精一杯の虚勢を張るしかなかった。でも、遺稿を見て、先生と五百川さんが本気でルミナリアを出そうとするなら協力してもいいと思った。どうしてかわかる?」
それが、私のエゴだからと文佳は言う。予め合鍵を持っていたらしい。昴たちと来た時同様、奏佳さんの部屋に上り、天井裏に上がる。金庫は前に来た時のままだった。文佳はボタンを押して、二十文字のパスワードの入力を始めた。ガチャッと音がし、内部でモーターが動くのがわかる。正解を打ち込んだのだ。
「Good night my sister?」
「三箇所きちんと空白をいれるのがミソ。これはね、お姉ちゃんの手紙の最後に必ず書かれていた言葉だよ。記憶喪失設定のわたしのままじゃ絶対に思いつかないことば。姉妹がいて初めてのことばだからね」
「どうして開けてくれたの?」
「慧くんが本当のことを教えてくれたからね」
中にはクリアファイルがたったひとつ入っているだけだった。そこにはメモ用紙が数枚入っているだけだった。たったのこれだけだというのか。このために、大人たちは右往左往してきたのか。
「遺稿といっても、ルミナリア初稿の時に書いたメモよ」
ルミナリアの行く末だ。奏佳さん自身、十八冊も続くシリーズになろうとは考えもつかなかっただろうから、その設定にいくつかの矛盾や差異は残っていた。
ルミナリアの結末
途中はどうなってもいいけれど、サイオンとルミナスはそれぞれのセカイで戦争を起してしまう。二人とも自分のセカイを永遠に放棄する決断をするが、どちらにするか決めることができない。それなら、と自らのセカイに身を投じて、愛する人と死ぬことを選ぶ。そうすることで、無駄な戦は食い止められるとわかっていたからだ。確かに時を遡上しセカイ自体無かったことにもできた。だが、それがいかに愚かで神への反逆であるか。数多くの散った生命への冒涜であるかを考えると、ルミナスは自分の犯した罪の重みに耐えられなくなったのだ。
「バッドエンドじゃないか……」
ルミナスが良心の呵責に対して自殺する、と読み取ることができる。
「たぶん、昴さんへのラブレターだと思う」
「このメモが?」
「お姉ちゃんは性善説を唱える人だよ? こういう終わらせ方には絶対に意味があるんだ」
変な感じはした。でも、これがラブレターだとしたらおかしいところがある。なぜ、隠したのだろうか。文佳だけが開けることのできる金庫の中になんて。
「五百川さんにみせることはできないでしょ? これを終わりになんてあの人が許しはしないでしょ。お姉ちゃんが込めたメッセージ、わかるよね?」
「わたしと、死んでください?」
「そう。お姉ちゃんは一人で死にたくなかった。昴さんと死ぬまで、その先も一緒にいたかったから、この結末をのこしたんだ。でも、これを書いた時は死ぬことなんてわからなかっただろうし、たぶん見せるつもりもなかったんじゃないかな。だから、金庫のことから昴さんと五百川さんの意識を遠ざけようとしたんだ」
文佳は時間稼ぎして、ルミナリアの最終巻をうやむやにしようとした。万一このメモのことを昴が思い出したとしても、文佳が最終回を用意すれば問題ない。そのエゴに文佳は慧を巻き込んだ。
「ごめんなさい。あなたのことはかなり昔から知っていたの」
「すげえよ」
「え?」
「だって文佳が利用されているのを見ているのが辛くて、ぼくは兄さんたちをいま裏切っているんだよ? と思ったら文佳のエゴに踊らされているのもぼくだったんだ」
「嫌だった? もう慧くんにもばれているんだし、最後まで騙せるとは思えなくなってきた」
いや、昴たちは完全に騙されている。だって、西月文佳のことをこれっぽっちも知らないのだから。奏佳さんがなくなっている事実も大きい。少しくらい違っても、思い込みが文佳をより奏佳さんに近づけている。
「協力するよ。あの言葉は嘘じゃない。ぼくは文佳の読者でいる」
なにより、ルミナリアの結末がこれなんて、慧自身が許せなかった。メモを破り捨てる。
「破るなんて!」
「この状態で金庫に突っ込んでやる! いいんだ。これは存在しなくていい」
「何をする気?」
「文佳、手伝うから、十七巻までのルミナリアのプロットを作ろう。本はうちにあるし、ウィキとか見れば明日の締め切りまでに間に合うはずだ。ここまで利用されたんだぞ。逆に、利用してやる」
文佳は、奏佳さんのプロットがどのようなものなのか覚えていた。それを元に、なるべくそれっぽいものを作ろうという。もし、そのプロットで五百川さんたちを騙すことができるならば、慧がわがままをいう番だ。昴も、水戸も、五百川も、そして、文佳もエゴイストだ。それらはすべて、奏佳さんのエゴのもとに生まれたものだ。ようやく慧の番が来たのだ。
ルミナリアの最終巻は、瀬水仁のものだ。
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