異世界Anty-Tensei Screen
狂飴@電子書籍発売中!
本文
目を開けると見渡す限り青空が広がっていて、ふわふわした雲の上に浮いていた。ん? ここはどこだ? 俺は何をしていたんだ?
「ごっ、ごめんなさい。わたしの手違いで、貴方はトラックに轢かれてしまったの」
声がした方を向くと、少女が申し訳なさそうな顔で浮いていた。え、俺トラックに轢かれたのか? 全然覚えてない。普段通り会社に行って、帰るところだったような……。
「えっと、それじゃあ俺、死んじゃったってこと?」
「本当にごめんなさい、こんなことになるはずじゃなかったんですけど……」
実感が湧かないが、嘘をついているとは思えない。どうやら俺は死んでしまったようだ。少女は予期せぬ出来事にわたわたと慌てふためいていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
「えと、それで、もしよければ、異世界で二度目の人生を始めてみませんか?」
「異世界?」
「はい。あの、元の世界で生き返らせるのはちょーっと出来なくて、その、中世ヨーロッパ風のファンタジーな感じのところになっちゃうんですけど」
なんだか最近漫画でよく見るような展開になってきた。もう一度人生やり直せるならと二つ返事で了解すると、少女はあれもこれもそれもとスキルという便利なものをたくさん付けてくれた。
これが噂に聞く異世界転生か。まぁ死んじゃったままよりいいだろう。俺は少女に手を引かれて、扉を潜って異世界へ降り立った。
その世界での俺は、裕福な貴族の四男アルスとして生きていた。すでにリナリーという黒髪ポニテが可愛いベタ惚れな許嫁がいて、護衛付きなら遊び歩いてもいいらしい。最初こそ戸惑ったが、言語は日本語だし飯も不味くはない。トイレがウォシュレットじゃないことを除けば、住み心地は良い。
農民だったら汗水流して働かなければ食っていけないが、貴族でまだ十二歳の俺は特にすることもなく暮らせる。時間の流れもゆったりで、本を読んで過ごしていた。贅沢だ、前は会社と家の往復しかしていなかったから。
四男の俺は後継者争いに巻き込まれないで済んでいたので、勉強や楽器などの貴族趣味のお稽古もやらなくてよかった。
そうするとすこぶる暇で暇で仕方なく、ある日ふらりと街に出て、街の人の困りごとを貰ったスキルを使って解決すると、物凄い勢いで感謝された。スキルというのは便利で、一瞬のうちに知識が湧いてきたり、怪我を治したり、物を作り出したり、占いを100%的中させることもできる。
人々の信頼はみるみるうちに集まって、俺は救世の貴族アルスと呼ばれるようになった。強い力を使うのはとても気持ちが良くて、胸がスカッとする。前は仕事ができて当たり前だったから、何かをして引くほど感謝されるのがこんなに快感だとは知りもしなかった。
両親や兄たちからも一目置かれ、怠惰な四男から有能な四男へと評価が変わっていった。このままだと遠ざかっていた後継者争いの話もやってくるだろう。やれやれ、俺は平和に暮らしたいんだが。
そうしているうちに一ヶ月が経った。今日はリナリーが遊びにきている。この世界にもイースター的なイベントがあって、タマゴに色を塗っているところだ。
「ねぇ。アルスって、今はこの世界の人じゃないよね」
メイドたちがいなくなって、二人きりになった途端、リナリーが低い声で言った。聞いたこともないような、冷たい声だ。
「ち、違うよ。俺はアルスだよ」
「嘘。隠したってダメだよ、その力は努力して得た物じゃないって私知ってるよ」
「! ど、どうしてスキルのことを」
「それに、私今のアルスのこと好きじゃない、むしろ大っ嫌い。貰い物で成り上がって、自分の力だなんて言って恥ずかしいと思わないの? 前は頑張りはしなかったけど、力で全部解決するような人じゃなかったよ」
「貰った物をどう使おうが、俺の勝手だろ!」
どうしてリナリーが知っているのかはわからないけれど、痛いところを突かれて、俺は怒鳴ってしまった。その拍子にタマゴがテーブルから落ちて、グチャっと割れた瞬間目の前が真っ白になって、気がつくと牢屋に入れられていた。
頭上にゲーム画面のようなものが浮かんでいて、どこか変な日本語でメッセージが書いてある。
!!!灰は灰に 塵は塵に!!!
異世界転生は深刻な契約違反を犯した!
不正な技能は消去され魂は通報されます!
詳しくは死神局に連絡してください
契約違反をした覚えはない、何かの間違いだ。格子を揺らして助けを呼ぶが、人の気配がしない。誰もいないのか? スキルを使って脱出を試みたが、何も起こらなかった。
牢屋はどこまでも真っ暗で、揺らめく松明の明かりに照らされて格子が鈍く光るだけ。よく見れば、俺の両手には手錠がかけられていた。
異世界Anty-Tensei Screen 狂飴@電子書籍発売中! @mihara_yuzuki
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