第35話

漂う間も無く 拠り所としての他方の方向へ、グッと焦点が合っていく。

これも私の意志ではない。

政府が女王国方針から朝廷方針に、完全にスイッチしたことを示す。


三代目は女王とか、ましてや女性とか、何処かに忘れてきたのではないかと思う程に貪欲で、手段など選ぶ気も無いようだ。

やりたい放題。

長生きするわけだ。

三人の中で一番の長生きは三代目だ。

私は呆れもしなくなった。

もう大和への熱意がずいぶんと冷めているのがわかる。

離れた場所からこだわりが薄れていく。


ここは…木の香り。

鼻もないのに包まれてるのがよくわかる。

無機質なものに鎮められてる。

二ヶ所。

三つあるうちの二ヶ所だ。


ミクサノカムタカラ

…三種の神器だ。

私は八咫之鏡(ヤタノカガミ)と、ヤサカニの勾玉(マガタマ)に分けられて鎮められている。

鏡の方が圧倒的に分量が多い。

天皇の始まりを確固たるものにする為の道具。

魏からの鏡を受けた頃と前後して、造られたと考察。

繁栄している他国に習っての事だろう。


私は日御子と名付く前の 身の無い頃から、天照大神と名付けられ、位置付けされていたのか。

記憶が薄い上にとぎれとぎれ。


日本(ヒノモト)全土を捉えるように、魔方陣のような角度に支点を複数定められ、私のエネルギーを勝手に張り巡らされている。

やけに消耗するわけだ。

安心し気を抜くと、すぐ眠くなるのもそれか。

何なのだ、この野望は。

事が大きすぎて、混乱してしまう。

が、この真の使命(呪い)を自覚する度、額の平紐や白の衣が一層光るのを覚えている。


だから九州の立派さを知っていたのか。

望まぬ動きを強いられながらも、私の意志と感性で、素晴らしいものは記憶出来ていて、その感覚が ちゃんと生き残っていて嬉しい。


ただ、とても悲しいことも同時に知った。

尊敬する九州の王達は、日御子と天照大神を悪の権化(ゴンゲ)と怒り、恨んでいる。

我が国がこんなになったのもあいつらのせいだと。

本当に悔しく悲しい。


後日談として少し脱線するが、近年私はその頃の九州王達数名の御霊(ミタマ)と交信出来ている。

彼らの多くは少し前まで、無念の故郷から動けずにいた。

そこを癒したり、解放の手伝いのエネルギーを送り、実は私は…と名乗った。

皆 驚いて、中には剣に手を掛ける王までいたが、よく話を聞いてくれ、理解してくれた。

我らもとどまってばかりいられないなと、各地へ上がり散り、今を生き始めてくれた。


多利思比孤(タリシヒコ)も被害者の一人。

有りもしない事を記され、既成事実とされ、後世まで申し開きも出来ない。

彼は立派な御仁だ。

殺されてなどいない。

彼もよくわかってくれて、こだわり無く、命の赴くままに続きを始めてくれた。

今も時々交信する。

彼は襲名前の「イワイさん」と呼ばれる事をお好みのようで、交信の時はそのように呼ばせていただく。


長い時を挟んでも、誤解が解けて本当によかった。

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