第20話

物的衝撃に少しよろめいたが、口に背に鮮血をしたたらせながら、なおもすっくり立ち、恐怖を向けるはおろか命乞いもせず、獣の全てを嘲(アザケ)り「ふふっ。」と鼻先だけで放った。

心底愚かな奴だ。

なお一層の金切り声を上げ、獣は私の首をはねた。

崩れ落ちる身の傍にゴロリと転がる首は、初めて獣と目を合わせてやった。

最上級の侮蔑の目を。


力と勢いで何でも手に入れてきた獣は、一番欲しかったものが手におちなかっただけでなく、自らの手で殺してしまった現実を受け入れられず、狂い泣き叫びながらよろよろと、部屋から走り出て行った。


入れ違いに曽木が駆けつけてくれた。

最初の発狂声の時に、こちらに向かってくれていたのであろう。

襲いの始まりとともに、私の精神は耐えきれず身から離れ、上から見ていたような記憶になっている。

「はっ!」と大きい驚愕を圧し殺した声で駆け寄ってくれている。

急いでまっすぐ寝かせ、着衣を整え、あるべき場所に首を据え、忠の掌で私の瞼を閉じてくれた。

不思議と曽木がなぞった後の表情は穏やかに戻っていた。

「ぐふっ…」と一瞬もれた曽木の嗚咽に私は感謝が込み上げた。

いつでも迅速で頼もしい曽木。

部下に大声で指示を出す。

本部への連絡、崇神を追い捕らえること。

そして忍びの部下を呼び、何か命じてた。

皆が任務に散ると、行李(コウリ)から最も大事な神事の際に着す、一番威厳のある衣を足元からかけてくれた。


本部の部下達が入ってきて、神事の道具や装束などを運び出しながら「全て焼き払う。準備だ。」と告げた。

曽木は「はっ。」と返事をし、私に最敬礼をして頭まで衣をかけてくれた。

パチパチと社殿が燃え始まる中、曽木は行った。

私も急がねば…。


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