第13話
そういえば曽木に、せせからの頼み事があるので村に行こうと促されたことがある。
頼み事…私に出来るのはまじないだけ。
最低限の祈祷道具を持ち、真剣に向かった。
村につくと赤子の泣き声。
腹の子が産まれたのだ。
輿を降り、固い靴を脱ぎ捨て、シンボの家まで走った。
せせに抱かれた子は乳をもらうところだった。
慌てて土間に降り、最敬礼をしようとする夫婦を、曽木が「いつもの様にしなさい、子が待っている。」と制し、授乳を嬉々として私は間近で見た。
「出たの、よい子が出たの、」と上気して言う私にせせは、優しく「はい。」と柔らかな顔で返した。
たっぷり飲み、満足のまどろみから寝息をたて始めた子を愛おしく眺めていると、背からシンボの恐縮した声。振り向くとせせと二人、額を床につけ最敬礼。
曽木を見ると笑っており「子の名を日ぃ様から欲しいそうです。」と。
「何と!吾(あ)に?」
…真剣に考え、「まあい」と授けた。
「真愛」ではなく「間合い」の意味だ。
行間や糊代、隙間や助走。
そこには豊かや趣き、安心や次への活力があり、ある種の要と思っていたので。
曽木から伝えさせると、夫婦とも泣きながら何度も「まあい」「まあい」と子を呼んでくれた。嬉しかった。
祈祷道具の中から「似合うの」と、朱の糸飾りのついた真紅の珠を祝いに渡した。
這い、歩き、弾み…時々会うまあいは、みるみる大きくなった。
跳ねるまあいの布わらじが羨ましく、いろいろ訊いたら、次には作っておいてくれ、気に入り社殿内でも履いた。
布をたくさん使うことを知り、用済みの衣を曽木に託し「皆の分を作れ。」と命じた。
命じなければ献上品だけを作るであろうから。
思いやりは想像力。
相手を思い、喜びを願い考える。
私が立体的に育つ事が出来たのも曽木が思いやりの交流を膳立てしてくれたからだ。
有り難い。
曽木を困らせるのはやめよう。
いつまでも留め置かず、早く帰らせ子を抱かせてやろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます