第11話

私はその頃、他者の名やその由来に興味があり、

「名は何と。」

と訊ねた。

夫が「シンボぅす、父(とう)が芯棒になって、村ぁ支えろって。」と教えてくれた。

感激して「うん、うん、」と聴いた。

妻が「せせぇす、父(とう)が川の流れぇ見習えって。」と教えてくれた。

感激して「うん、うん、」と聴いた。

美しく豊かな神通川のほとりの村。

「何とよい名だ、何とよい名だ、」と感激した。


近くで話したくて「上がり来よ。」と促し、初めて気付いたせせの腹。

身重なのに、あんなにも身をこごめ、恐れ入ってくれていたのか…。

その腹で手早に、でも丁寧に、素朴な木器に湯を作り「湿してっせ。」と曽木を介して捧げてくれた。

部下のみなにも捧げてくれた。

葛湯のような甘い飲み物。

貴重な甘味をたっぷりと使ってくれた忠も伝わる。

心のありかを示すように染み渡り、目を閉じ味わった。

「はぁーっ…。」と思わず発し、高揚した頬で

「子が楽しみよの、よい子が出てよい名がつくの、」と告げて、私もひととき児に戻り、シンボに「何ぞ?」「何ぞ?」と土間のあれこれを質問責めにした。

曽木も喜んでる。


曽木は父から私の全てを聞き、知っているのだろう。


曽木がSPでよかった。

民も学者も「大好き」が出来たのは曽木のお陰だ。

任務のみの人生にならずに済んだ。

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