防ぐ国

湿地帯の悪路を一台の車が走っていた。あちこちに錆がある小さな車だった。そして、その車の中には一人の少女と灰色の猫がいた。


「サクラ、大丈夫なの?」


猫が言うと、サクラと呼ばれた少女が返す。


「大丈夫。これくらいならいける。シロの故郷もこんな感じだったでしょう?」


「ここよりはましだと思うけどねー」


彼らの行く先には、城壁が見えていた。




その城壁は、サクラ達がかつて見たことも無いほど頑丈に出来ていた。鋼鉄のようなもので出来ており、パッと見ただけでもその硬さが分かった。


「我が国に入国ですか。どうぞ…」


入国審査官は少し苦しそうに言うと、宿舎の方へ直行してしまった。


「…シロ、この周りに軍事国家なんて無かったわよね」


「寧ろ平和思考な国ばっかだったよねー。互いに貿易してたし」


サクラは城壁を見て呟く。




「交流しない国…かぁ…」




近くの国を訪れた時、そう言われたのだ。そして、中の様子を探って欲しいと。莫大な謝礼を見せられ、サクラは散々言われた末遂に頷き、こうして来たのだが、今の所いい情報は得られていない。


「周辺国からすれば貿易出来た方がいいよねー。でも、それらの国の人間だと内部が探れない。だから僕らに任せるって。上手いよねー」


「スパイみたいであまり良い気持ちはしないけど…報酬が貰えるなら…」


そして、彼らは足を踏み入れた。




国内に特別おかしな点は見受けられなかった。普通の街が広がり、普通に人々が行き交っている。


「ちょっと拍子抜けしたなー…つまらなさそう。なんで鎖国してるんだろ?」


「シロ、あまり大きな声で言わないで」


暫くは彼らから見て普通に見えた。




サクラとシロは公園のベンチに座った。少し休憩を挟みたかったからである。すると、


「おや、旅人さんかい?」


黒髭を生やした男性がやってきた。


「ええ、そうです」


「どもどもー」


「どうも。我が国でゆっくりして…ううっ」


男性は突然蹲った。


「大丈夫ですか!?」


「あぁ、大丈夫さ。それっ」


男性はポケットからオレンジ色のタブレットを出すと、口に入れた。少し経つと、男性は元気になったようだった。


「すまないね。余計な心配をさせてしまって」


「いえ…。それは、病気ですか?」


男性は穏やかに返答した。


「ああ、全国民が抱えている」


「へー。ならヤバいんじゃないの?さっさと直さないとこの国滅ぶよー?」


「いや、この病気は治らないんだ」


老人は再び否定する。


「あの…どんな病気なんでしょうか」


サクラは遂に核心を突いた。男性の返答は




「時間が経つと暴れ回る病気だよ」




「暴れ回る…ですか」


「なんかさ、抽象的だねー」


「実際そうなのさ。さっきのオレンジのタブレットを定期的に飲まないと、頭が可笑しくなって、暴れて、狂って、のたれじぬのさ。原因は不明だ。」


「そうですか…」


「タブレットは数年前、とある学者が開発したんだ。恐ろしく高価だが、それが開発されて以降、一応我が国は安定している。」


「それって遺伝するのー?」


「子供でも似たような症状が出ているから、恐らくな。我々は死の狭間を生き続けている。」


「そうですか…では、もう一つ質問を。その病気が流行ったのはいつからですか?」


「タブレットを作った学者さんが来た直後からだな。…あれの衝撃は今でも鮮明に覚えているよ。」


「…?あれ、ですか?」




「その学者さんが配ったお菓子さ。今や国民全員が食べている。しかし、なんでその直後からこんなことに…」




サクラが食事をせずに国を出た事、そして周辺国に事実を言わなかった事は言うまでもなかった。

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