訴え続ける国
雪が降り微妙に積もる平原を、一台の車が走っていた。ところどころに錆が見える、小さな車だった。車の運転席では少女がコートに身を包みながら車を走らせており、隣には寒そうに包まっている猫がいた。
「サクラ、車なのに暖房無いのは反則だと思うな。」
猫が話すと、サクラと呼ばれた少女が答える。
「シロ、私は包まることすら出来ないのよ…?ううっ…寒いな…。」
「早く国に入ってホテルの暖房で温まろう?」
「賛成…」
雪空の向こうから、城壁が見えてきていた。
サクラとシロがその国の入国審査をして中に入ると、近くから何かを訴える声が聞こえてきたが、疲れていたサクラは迷わずホテルへ車を直行させた。シロはつまらなさそうにしていた。
翌朝、朝日が照らす中ホテルから出てきたサクラは、目の前の公園で演説している中年の男性を見た。その男性は、ひたすら今の政府の腐敗を批判しており、周りにいる数名の大人が拍手をしていた。サクラは拍手をしていた女性に近づき、声をかけた。
「おはようございます。」
「あら、おはよう。あまり見ない顔ね。旅人さんかしら?」
「はい、そうです。…こちらの男性は何をされているのですか?」
「ああ、あのお方のことですか。あの方は政治家であり、今の政府を批判しているんですよ。」
女性の解答に対し、話しかけたのはシロだった。
「凄いねー。今まで行った国の中では政府を批判した途端に捉えられて、そのまま監獄で死刑!なんてとこもあったのに。」
「こら、シロ。」
サクラが注意するが、女性は笑って
「そんな野蛮な国があるのね。私達は遥か前にそんな制度は廃止したわ。私達は次のステージに上がったの!」
興奮を抑えられないまま答える。
「次のステージ…ですか。」
「ええ!」
女性が口を開く。
「我が国は全ての事を訴える仕組みなの!」
「訴える…ですか?」
サクラが聴く。
「ええ!政治や経済、宗教や文学、ありとあらゆるものを変えたい時は、公共の場で訴えるの!同士を一定数集められたらその訴えは認められ、改正されるのよ!」
「凄いねー。誰でも言えるの?」
「勿論!子供から老人、ホームレスから大富豪、誰でも平等に訴えることが出来るわ!」
「成程…大変良く分かりました。しかし、1つ質問が。公共の場で訴えられたら、煩くありませんか?」
「煩いわよ。でも、平等にする為に必要な犠牲よ!犠牲無くして改正は出来ないわ!」
サクラはその日の夕方出国したが、終始周りから
「✕✕国への貿易商を増やそう!」
「▲▲教の布教を止めるべきだ!」
「がっこうに、いかなくて、よく、しませんか?」
「儂等老人をサポートする制度を!」
「会社の休みを増やすべきだ!」
「ゲームを遊べる時間増やせ!」
などなどと訴えられ続けた。
再び雪が降り始める中、シロが話す。
「あの国、そのうちおかしくなるねー。無限大に欲求が出され続けていくよー?」
「内容も少しずつランクダウンして行きそうだし。そのうち今夜の晩御飯で訴えるなんてことになりそう。」
「でもねー。それをわかっていても、あの国の人達はやると思うよー。」
「シロ、何で?」
サクラの質問にシロは、
「誰かの欲求不満を解消すれば、別の誰かの欲求不満を産むからね。」
そう答えた。
国の中では、雪が降る中大量の人々が訴え続けていた。それが終わる様子は無かった。
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