買い物カート競争 ーとあるホームセンターにてー
メンタル弱男
一番は俺だ!
『ワン!ワンワン!』
『こら!シーッ!店内なんだから静かに!』
俺の視界は良好だ!サッカーコートよりも広い店内を、端から端までしっかりと見渡す事ができる。
そう、なぜなら俺は前足をカートの枠に乗せて尻尾をフリフリしながら二足立ちしているからだ!(この店では我々はカートに乗らなければならないという決まりがある)
どうだ!凄いだろ!
とは言っても、突然でびっくりした人間もいるだろうから、最初は丁寧に説明させてもらう。
何を隠そう、(もう答えを言っちゃってるようなものだが)俺の正体は犬だ!人間に犬と呼ばれている生き物。犬種はシーズー、あだ名はワンちゃん!
あだ名はワンちゃん。。。
なんちゅう名前付けてくれてんねん!と、最初の頃は憤りを感じたこともあったが、今となっては寧ろ、というか逆にオンリーワンな名前のような気がして誇りに思っている。
そして俺は今、とあるホームセンターに来ている。ここのペットショップの店員は俺を見ると『あら、戻ってきたんやね〜』とニヤニヤ笑う。
これは俺が昔生まれたばかりの頃、このペットショップで育てられたからだ。
あぁ懐かしい、、、。この狭苦しいショーケースの中で生活して、『可愛い〜』と言って近寄ってくる人間どもに、舌をぺろぺろ出して愛嬌を振りまいていたものだ。
そういう経緯もあって、このホームセンターは言わば俺の庭といったところである。何度も連れてきてもらってるから、売場の形が頭に入っている。
『ふふふ、カートを操作する相棒よ。俺の好きなアウトドアコーナーへ行ってくれ、、、っておい!カー用品はやめてくれ!臭いがキツいねん!俺のただでさえ小さい鼻が、ねじ曲がるんちゃうかってくらい臭いが強烈やねん!!』
これは冒頭の俺のセリフ。人間には『ワンワン』と単調な鳴き声にしか聞こえないのだろうが、そのワンワンには僅かな違いを含む多彩なバリエーションがあり、それぞれにメッセージ性がある。
だが俺の相棒、、、。必死の形相をしてみたものの気付く事はなかったな。
さてさて、今日の買い物の後は散歩して家に帰って、昼の情報番組でも見ながらウトウトして、、、。
『おい!テメーのカート遅っせーな!先に行かせてもらうぜー。』
なんだこの声は??人間のものではないな。あたりを見回す。
『おい!どこ見てるんだ、こっちだぞ!』
おや??
数メートル先で、デカすぎる図体をカートの中になんとか収めているゴールデンレトリバーが、澄ました顔で俺を煽っている。
あいつっ!大人しそうな表情しておいて、なんちゅう偉そうな態度や。
『何言ってんねん!競争でもなんでもないわこんなもん!カート動かしとんのは俺らとちゃうやんけ、人間やろ!』と、俺も少しビビりながら対抗する。
『甘いなお前は!それを上手く誘導するのが俺たちの技量ってもんだ。ゴールはレジ。先に会計が終わった方が勝ちだから、よろしく』
そう言いながらレトリバーは7番通路のコーナーを華麗に曲がり、どんどん進んでいく。
くそ!なんか腹立つ!!
俺の相棒よ!さっさと会計しに行こうや!
『あ、そうなの〜。ケンちゃん東京行ってるんやね。元気にしてるのー?』
『全然連絡よこさないのよー。』
ご近所さんと井戸端会議始まっとる。。。
『可愛いわねー。シーズー?名前はなんていうの?』
『ワンちゃんっていうの。』
『え!?ワンちゃん??』
もうええねん、俺の名前は!冒頭で説明したから!
あぁ、そうこうしてる内にあいつはどこまで行ってしまったんだろう?
『面白そうだから俺らも参戦するぜ。』
『私達が一番よ。』
後ろからオスとメスのチワワコンビが追い上げてきた。ものすごく早い!
『そっちの飼い主さんは困ったもんだなあ。お気の毒に。』と追い抜きざまに捨てゼリフ。
チワワの野郎共、、、!
おい、相棒よ!どうか俺をこの世で一番の犬にしてくれ!オンリーワンもええけど、ナンバーワンになりたいんや!
『この思いよ、届け!高級おやつをねだるのはやめるから!』と、念力のように祈り、そして吠えながら顔を見つめた。
『もう、うるさい子ね。わかったわかった帰りましょ。じゃあ田中さんまたね〜』
これを機に相棒は軽快な足取りで、日用品を次々カートへ詰めていく。いいぞいいぞ!カートとカートの間をするりと抜けていき、店内のBGMに合わせて鼻歌まで奏でている。絶妙なコース取り。そして商品を取るたびに停止はするが、阪神電車のジェットカーに引けを取らない加速力を発揮する。
相棒、、、!!相棒!!
ありがとう!そしてそのまま突き進め!
『あぁ、、、。そんな、、、。』
レジに近い3番通路から素早くコーナリングしてきたレトリバーがレジに並んでしまった。
先を越されたか、、、。
なんと横のレジではあのチワワコンビも並んでいるではないか、、、。
くそ、、、。くそ!!
『セルフレジでしたら空いてます!こちらもどうぞー』
『あっち行こ。』
え??相棒はすっとセルフレジの方へ。
『お会計は3580円になります。』
『ありがとうございました。またお越しくださいませ。』
これは、ゴールの合図。。。
『ワンワン!ワワンワンワン!ワンワンワウゥーン!』
『うるさい!!』
かくして俺は一番でゴールし、勝利の雄叫びをあげたのだった。
買い物カート競争 ーとあるホームセンターにてー メンタル弱男 @mizumarukun
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