その66 不穏な夜

 「ほとんど整えたし、畑は俺が引き継ぐから、オーガ達にログハウスの作り方を教えてやってくれ」


 「わかりました。ではこちらへ」


 「お、おう……」




 陽が傾き始めたころ、ようやく畑に種を撒き終える。土地がかなり痩せていたので耕すのに少し時間がかかってしまった。


 水をじょうろで細かくやり、雑草をできるだけ抜いておくことで明日の朝には立派に野菜が育つだろう。


 種の袋の絵を見せてどれがいいか聞いたところ、じゃがいもやサツマイモといった芋が好きらしく、腹持ちがいいからだそうだ。他はなんでもいいというので、子供たちのリクエストでトマトとキャベツを植えてみた。トマトはすぐに食べられるからすぐにおなかに入るから元気になるだろう。


 そんなこんなで俺が持ってきた酒と食材で軽い宴会をして、オーガ達もエルフも満足な夜となった。




 「ふう……」


 「みゅー」


 「みゃー」




 で、俺は村の広場の隅でテントを建て、アウトドアチェアに座ってバーベキューコンロを前に一息ついた。


 シュネがテントの横で寝そべり、子猫二匹もバーベキューコンロの火をじっと見ながら大人しくしている。 


 ドワーフの集落まではそれほど遠くないので朝の収穫状況を見てからでも遅くないだろう。




 「スミタカ」


 「ん? ネーラか、どうした? フローレは?」


 「みゅー♪」


 「あら、コテツはまだ起きていたのね。フローレはもう寝ちゃったわ、スミタカと寝るんだって昼間から興奮していたせいかさっき糸が切れたように」


 「それは大丈夫なのか? ネーラは寝ないのか?」


 「ちょっとお話ししてから寝ようかと思ってね」


 「お、そうか……こいつを使え」




 俺はチェアを渡して隣に座らせ、コッヘルのお湯を使いコーヒーを淹れてやる。




 「砂糖は好きに入れてくれ。夜になると結構冷えるな」


 「ありがとう。……うん、いい香り。それにしても凄いわねスミタカ」


 「急にどうした?」


 「あの家で出会ってからあんまり経っていないけど、家を作ったり他の種族たちも助けたりしてるからね」


 「はは、初対面は最悪だったからなあ。襲われるとか言われたりコーラで酔ったりしたし」




 ネーラの剣幕こそ凄ったと苦笑していると、ネーラも微笑みながら俺を見て言う。




 「ふふ、そうね。あの時は本当に怖かったけど、スミタカで良かったと思うわ。マユミが変な男に付きまとわれていた話とか聞いてなおのことね」


 「あいつか……」




 黛にぶっ倒されてしょっ引かれた男の顔を思い出し顔をしかめる。今でこそ彼女になったけど、一発お見舞いしてやるべきだったかとも思う。




 「ね、スミタカ」


 「うん? ……!?」


 「ふふ、エルフたちを助けてくれてありがとうね! マユミにはいいって言われているけど……する?」




 上目づかいでそんなことを言ってくるネーラに俺は思わず唾を飲み込む。


 黛やフローレとは違い、こいつはちゃんと出ているところは出ているし、とても美人だから仕方がない。




 「い、いや、さすがにそれはな……黛に悪い……ってあいつも許容しているのか……」


 「わ、私は、いいわよ……す、好きだし」


 「そうだったのか? う、うーん……」




 夜もまだ早い。が、シュネが近くに――




 <……>




 ――居るけど、察して耳を折りたたんだ!? 熱っぽい目でじっと見てくるネーラをどうしようかと思ったところで……




 「お、おお……スミタカさん……死んでしまうとはなにごとですか……」


 「うおおお!?」


 「ひゃあ!? って、フローレじゃない」




 俺達の背後にフラフラとした足取りのフローレが立ってなにやらぶつぶつ言っていた。




 「妄想はもうよそう……」


 「フローレ?」


 「肉だけに憎い……ふが……」


 「……寝ぼけているみたいね。はあ、仕方ないわね、このままそのテントで寝かせましょうか」


 「狭いぞ……」


 「ま、美人ふたりに挟まれて寝るのもいいでしょ♪ ほら、フローレこっちよ」


 「魚の大戦争……ウォーズ……」


 「ダメだこりゃ……」




 むにゃむにゃと呟くフローレをテントに押し込み、俺も寝袋に丸まって寝ることにした。……残念とは思ってないぞ……決して……




 そして翌日――

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