その65 歴史からみるおかしな点


 「さ、積み込んでいた荷物を降ろすぞ!」

 「おおー!!」

 「すげぇな……エルフってあんなに腕力あったのか? それになんだありゃ、土か?」


 オーガ村の村長、リュッカが荷車から肥料を降ろしていくのを見て冷や汗をかき、そこへベゼルさんが笑いながら話しかけた。


 「はっはっは! あなた達オーガの全盛期に比べたらまだまだですよ! 是非、お手合わせをお願いしたいですな」

 「お、おお……いや、あんた凄いな、ウチの若い衆じゃ勝てんぞ……」


 やはりベゼルさんは筋肉自慢のオーガから見てもおかしいらしい。ご飯ロクに食ってなかった時でも胸筋と腹筋は凄かったし、獲物を取れるようになってからさらに磨きがかかった。ちなみに魔法も出来る――


 「ん……? 待てよ……?」


 俺は一つ頭の中に疑問が浮いた。今、オーガ達の村に肥料を撒いて野菜を作る手はずをしているけど、前回立ち寄った時、リュッカはこう言っていなかったか?


 『獲物が取れなくなった』


 ――確かにそう言ったはずだ。


 でも、エルフ村付近では猪や牛の魔物は獲れているんだよな。ミネッタさんの話だと島自体は相当広いらしいから生物がもっと広い地域で分布してもおかしくはないんだが……


 「ベゼルさん、リュッカ、ちょっといいか?」

 「なんだいスミタカ?」

 「おう」

 「筋肉のアピールはいいから……この島ってどれくらいの大きさがあるんだ?」

 「ん? そうだな……こんな感じだ」

 「この辺りがエルフ村で、ここら辺が今いる場所かな?」


 木の棒で地図を書いてもらい、形を見ると下は円形状だけど、上は沖縄のように細長い部分が飛び出ている感じだった。

 エルフ村は下……恐らく南だろうか? 島の中心よりもやや下で、湖を挟んで中心より右上にオーガ、左にドワーフの集落らしい。端から端までだいたい三日かかるかどうからしいので、百キロあるかどうかってところか?

 

 「エルフ村には魔物が狩れる。でもこっち側では狩れないんだよな?」

 「ああ、随分目減りして獲れても全員分には回らねえなあ」

 「この細い島には何があるんだ?」

 「ここはウチの長老たちが上陸してきた場所らしいよ、この辺まで人間が追って来たらしいけど結界でなんとかなったって聞いたことがあるね」


 ベゼルさんが神妙な顔でそう言うと、俺の隣に子ネコを背に乗せたシュネがやってきた。


 <懐かしいわね。ドワーフの犬精霊、ノームのカタツムリ精霊、ホビットのウサギ精霊と協力して四方に張っているわ。こっちにホビットの集落、こっちにノームが居るはずよ>

 「お前は力尽きたんだったよな? その間結界が外の人間に破られたってことはないか?」

 <……無きにしも非ず、ってところだけど三千年なにも無かったからあいつらも諦めたんじゃないかしら>

 「みゅー」

 「みゃー」


 ふむ、気になる話ではあるな……山に鉱石を採りに行ったら各集落巡りをする必要があるか。


 「集落同士のつながりは?」

 「あまりないね。ドワーフの集落でも最長老が久しぶりって言ってただろう?」

 「そうか……」


 もし……もし仮に、人間が攻めてきていて、この現象が『そういうこと』なら警戒をすべきじゃないかと思い始めていた。

 すでに侵略が始まっていて、気づかれないよう、徐々に苦しめている可能性は高い。

 水路もそうだけど、各集落への導線……いわゆる道路を作るべきかもしれないな。荷車も運びやすくなるし。


 「スミタカさん、ベゼルさん、肥料撒き終わりましたよ」

 「ありがとう、それじゃ種を撒くか! 水は実験でミネラルウォーターを買ってきたから使ってみよう」

 「いっぱい収穫できるんだって? 大丈夫か?」

 「まあまあ、スミタカが失敗したことは無いから問題ないと思うよ。さ、僕達も手伝おうか」


 懸念点はあるものの、まずは二種族を助けるべく畑の構築に尽力するのだった。

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