その64 出発の時……!


 「みゅー……」

 「みゃん!」

 「ほら、拗ねるなって。外もいいだろ?」

 「すっかりハマっちゃいましたねえ」


 黛は機嫌の悪い子ネコ二匹を抱っこしたまま困った顔で笑っていた。導入したキャットタワーをあそこまで気に入るとは思わず、気づいたらケージではなくキャットタワーの小さな部屋で二匹が丸まって寝るくらいお気に入りに。

 今日はオーガ村へと向かうため外に出たのだが、子ネコ達は離れるのが嫌だったようだ。かといって餌を置いて留守番してもらおうとしたらついてきて抗議するので、連れてきたというわけだ。


 「とりあえず裏庭の物置を見ておくか」

 「そういえばこの桜の木、立派ですねえ」

 「それ、母さんと結婚した時に親父が植えたらしいんだ。毎年花を咲かせてくれるから、こっちに春があるなら、みんなで花見をしてもいいかもな?」

 「あ、いいですねそれ! 桜の木さん、頑張って咲かせてくださいね!」

 (……)

 

 黛が桜の木を触って祈っている黛をよそに、物置で庭いじりセットの中に紛れていた台車を見つけて取り出し、肥料や道具を載せる。道具や種と少しの肥料なら台車で運べるけど、オーガとドワーフに拠点分は流石に無理なので少しだけ運んで後はネーラ達に、というわけだ。


 「あ、先輩、台車を借りていいですか?」

 「ん? いいけどどうするんだ?」

 「こうするんですよ!」


 黛は台車に子ネコを置いて、俺から台車を受け取ると、そのまま子ネコを載せたまま駆け出し始めた!?


 「お、おい!?」

 「行きますよー!!」

 「みゅー♪」

 「みゃーん♪」


 台車に載った二匹の機嫌が直ったらしく、楽し気な声を上げていたので、まあいいかと俺は肩を竦めて黛を追う。

 程なくしてエルフ村に到着すると、すぐに子ネコ目当てのエルフの子供達に囲まれるが、騒ぎを聞きつけてきたネーラに声をかける。


 「おはよう、スミタカ、マユミ」

 「おはようネーラ!」

 「よ、ネーラ。早速で悪いんだけど、荷車を貸してくれないか?」

 「ん、もちろんいいわよ。一台でいいの? ヒリョウとかを持ってくるんでしょ、エルフは何人必要?」

 

 慣れたもので、ネーラは荷車の数とエルフを貸し出してくれる話をしてくれた。俺はだいたいの数を伝えて再び家に戻ると、ベゼルさんを筆頭に、屈強なエルフの男衆の手を借りてエルフ村に荷物を運び終えることができた。


 「ふむふむ、ではマユミはこの後、帰るんですね」

 「うん。残念だけど、オーガ村で一泊したらお仕事ができませんからね! なので、ネーラとフローレにス、スミタカさんをお願いします」

 「任せてください! わたしは処女だけど頑張りますよ!」

 「フフフ、夜が楽しみね……!」

 「なにを頑張るつもりだ!? ……悪いな、また休みの時にでも」


 俺が黛にそう言うと、彼女はにっこりと微笑みながら俺に耳打ちをしてくる。


 「あの二人ならいいですよ? 向こうの世界の人なら嫌ですけど、こっちなら多重婚いいみたいですし」

 「お前なあ……女の子って浮気を嫌がると思うもんじゃないのか?」

 「あの二人は先輩のこと、ボクと同じくらい好きみたいです。ボクとしては同じ人が好きという共通認識があるならこっちの世界でならいいのかなーって」


 意外とフラットなやつだなと思いながら目を細めて話を聞いた後、シュネに頼んで黛を送ってもらう。


 <戻ったわ。マユミは家を掃除してから帰るって言っていたわよ>

 「ありがたいな。結構こいつらの毛玉が落ちているんだよな」

 「みゅ」

 「みゃあ」


 そっぽを向く二匹に苦笑しながら俺は荷車に手を置いてその場にいた全員に言う。


 「それじゃ、まずはオーガ村だ! よろしく頼む!」

 「おおー!!」


 キャンプ用具の入ったリュックを背負い、俺もエルフ達と共に歩き出す。しかしみんなすっかり元気になったし家もいいものができている。

 ……それ故にこの島になにかが起きているなら、払拭したい。そう思うのだった。

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