その62 懸念、そして向こう側
「ふう、いいお湯でした。先輩、どうぞー。あ、コテツ達はおねむですか?」
「うん、もう我が家みたいにくつろいでいるなお前。まあ別にいいけどさ」
「みゅー……」
「みゃー……」
オーガとドワーフの村と集落からエルフ村へ戻り、陽が暮れたものの明日に備えてシュネに送ってもらい家でくつろいでいた。まだ明日と明後日が休みなので黛はお泊りというわけだ。
子ネコ達は昼間はしゃいでいたせいか、少しのミルクと離乳食を食べると俺の腕の中で眠ってしまった。
そんな感じで時間も遅いが、ゆっくり過ごし、俺も風呂へ向かう。
「出たぞーって寝るなら布団で寝ろよ……」
「うー……おかえりなさい……抱っこして連れてってくださいよう」
「仕方ないな」
うとうとしている黛に声をかけると、にへらっと笑って手を伸ばしてきたので引き起こして抱き上げる。小さいのもあるけどこいつは軽いのでこれくらいは余裕である。
ベッドへ寝かせて、俺も隣で横になると目を細めて俺に声をかけてきた。
「……もう驚かなくなりましたけど、あの家の裏、どうして異世界に繋がっているんですかね……」
「言われてみればそこを追求したことは無かったな。庭に変化が無いか調べるのもいいかもしれない」
「ですねぇ……あふ……」
「ああ。というか無理するな、寝ろって」
俺が頭を撫でてやると黛は幸せそうな顔で寝入り、苦笑しながら俺も目を瞑る。眠気はまだないので、今日のことをゆっくり考えてみる。
……島全体が異常なのはほぼ確定。問題はこっちから持ち出した肥料が土壌を回復させる効果があるとして、それがいつまで持つかだ。根本を解決しないと肥料を撒いた場所もまたダメになるんじゃないだろうか?
湖の精霊、ディーネの神具が元に戻れば解決することを期待したい……ふあ……
どちらにせよまずは肥料と野菜を作ってドワーフとオーガ達の協力を得るところからだな。そんなことをを考えながら俺の意識は途切れるのだった。
◆ ◇ ◆
<???>
「どうだ、調査の方は?」
「は、報告によると少し前から島に上陸できなくなったそうです」
「え?」
「少し前から亜人たちが張った結界が強力になり、出ることはできるそうですが入ることが困難になっているようです」
「馬鹿な……精霊が還って来たとでもいうのか!? 文献では犬、猫、鳩は根絶やしにしたと――」
「しかし、現に結界は張られております。名のある魔法使いも破ろうとしましたが叶わなかったようですぞ」
淡々と報告する銀髪眼鏡の男に、豪奢な衣装に身を包んだ小太りの男が持っていたワイングラスを投げ捨てながら激昂する。
「なにをのんきなことを言っている! 今はハーフしかおらんこの大陸に、純正な亜人を捕まえて売れば金になると思ってようやく見つけた島に派遣しておるというのに……金が勿体ないではないか……!」
「しかし、国に見つかれば処罰の対象ですぞ? 貴族である貴方でも。ハーフエルフやハーフドワーフなどの亜人達も今や奴隷から解放されて真っ当に暮らせるようになっています。純粋種を奴隷など……」
「見つからなければいいのだよ、スティーブ。そんな心配は麗しいエルフのひとりでも掴まえてから言いたまへ」
「は。失礼をこきました」
「……お前、馬鹿にしているのか?」
「滅相もございません」
「……ふん、まあいい」
貴族の男が後ろを振り返った時、スティーブと呼ばれた男は舌を出しながらからかう仕草を見せる。
「とにかく! 必要なものは用意する、頼むぞ」
「分かっております、対策はすぐにでも」
スティーブは男が振り返る直前に居住まいを正し、左手を胸に置いて軽くおじぎをして部屋を出て行く。
「……ふむ、これだけ分かりやすいと仕事は楽だな。さて、亜人の説得に回らねばならんな。この大地で暮らすことはできる、と――」
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