その61 どうにかなること?


 閑話休題。


 とりあえずそう言って差し支えないくらい、グランガスさんがのびていたので、俺達は他の村人から話を聞いて回っていた。

 というか柴犬精霊が憤慨していたので、それを鎮めるために集まって来たとも言うが。


 そんなこんなでドワーフ達に事情を説明して、おっかなびっくりだったけどエルフ達が受け入れているのを理解してくれ、会話に応じてくれた。


 「他と同じだのう、この土地も段々と痩せてきて作物はあまり良いものが育たん」

 「鉱石が採れないのはなぜか鉱脈が失われているんだ。今まで採れていた場所でもタダの石ころに成り果てているって感じだな」

 「見ろよこの斧と槌、ボロボロだろ? こんなんじゃ狩りが上手く行くわけもねえさ」

 「エルフ達は随分羽振りがいいな……え? 野菜が無限に沸く? 嘘だろ……」


 と、持ってきた食料を分け与えながらそんな話を次々と耳にし、俺は各種族がどうのというよりもこの島に何かが起こっているんじゃないかと思い始めていた。

 

 そしてその引き金は――


 「この杖、お前達ドワーフならなんとかなるか?」

 「ん、見せてみい……ふむ、こりゃなんじゃ? 随分と神秘的な雰囲気をまとっておるが……」

 「この島にある湖の精霊がオーガに盗まれたっていう神具らしい。実際には水中の底に落ちていたのを拾っただけみたいだけど」


 ――恐らく、この杖じゃないだろうか、と思う。シュネも柴犬精霊、そしてミネッタさんという『最初に上陸した』であろう三名ですらこの杖、そして湖の精霊のことを知らないというのが物凄く怪しい。


 <神具、か。神など居るとは思えんがな>

 「みゅー」

 「みゃー」

 <ぬう、髭をおもちゃするのではない!>

 「みゅー♪」

 「みゃー♪」

 <きちんと躾けろ!? 精霊に子がいるなどあり得んぞ……>

 <いいじゃない、嬉しいのよ>

 「そんなことを言う柴犬さんにはこうです!」

 <人間の娘、またか!? ……わ、わふん……>

 「あ、マユミずるい私もー!」


 子猫達に遊ばれ、納得がいかない柴犬精霊がさらに黛とネーラに遊ばれているのを見て、躾けられるのはどっちだろうなとあまり深く考えずに思ってしまった。

 ドワーフ達がその光景にオロオロしている中、おじさん……いや、みんなおじさんに見えるけど、ドワーフの中の一人が俺に声をかけてきた。

 

 「これを元に戻すには‟ムーンライト”という鉱石が必要だな。向こうに見える山が見えるだろう? そこのてっぺんに月の明かりを受けている魔力を帯びた石が出来上がるから、そいつは手に入るはずだ。ただ、それを使っても直るか保証はできんがね」

 「そうか……それでも可能性に賭けるのはアリだな……」

 「先輩、向こうの世界の鍛冶屋さんとかどうなんですかね?」

 「うーん、そもそも持ち出せるのかも微妙だし、ツテがないからなあ」

 「それもそっか……」


 柴犬精霊の背中に顔を埋めてシュンとなる黛の頭を撫でて、俺はミネッタさんとドワーフ達へ告げる。


 「ミネッタさん達、いいか? 現状ここでできることは無さそうだから今日のところはエルフ村へ撤収しよう。俺と黛はまた肥料と種を持ってオーガとドワーフの村分を調達してくる」

 「……いいのかい? 俺たちはお礼できるもんがねえけど……」

 「はは、そこは考えているよ。オーガとドワーフにはそのムーンライトを採りに行ってもらいたいんだ。必要なら俺も行く。どうにもこいつを早くなんとかしないと、っていう嫌な予感がする」

 「ふむ、確かに。先住民とも言うべき湖の精霊の物じゃ、もしかしたら島になにか関係があるのかもしれんのう」


 興味深いという感じで腕を組みながら俺に目を向けてくるミネッタさん。

 ぶっちゃけ、生きることが精一杯だったころからあまり進化していないので、島の状況などを確認したこともないようだし、仕方ないかもしれない。


 「それじゃ、陽が暮れてしまう前に移動しよう。私たちも強くなってきたとはいえ、魔物との連戦は避けたいしね」

 「オッケー、それじゃまた来るよ……グランガスさんによろしく」

 <うむ。土壌の件、頼むぞ。脅威から守るのが我ら精霊の役目……だが、食料問題ばかりはどうにもできんからな>

 「分かった。後どれくらい種族が居るんだ?」

 「残りはノームとホビットだったかのう。ちょうどこの辺りにいるはずじゃ」

 「なるほど……」


 残り二種族なら貯金で肥料は賄えそうだな。

 とりあえず、まずは目先のことから片付けるかと、俺達はドワーフの集落を後にする。水路は意外と遠いな……

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