その57 みんないい人?


 「ま、座ってくれ」

 

 オーガ村長のリュッカが雑に丸太を切った椅子を用意してくれ、数十人のエルフとオーガが顔を見合わせている。

 気になるのは、本来、腕力や筋肉があるはずのオーガはシュンとなって体が小さく、エルフ達はお肌つやつやで、ベゼルさんに至っては筋肉はリュッカの二倍くらいある。オーガは身長が高いだけにやせ細っているのが可哀想なくらいだ。


 「ありがとう。えっと、どうするかな……」

 「そっちが訪問してきたんだ、用があるんだろ? 聞いてくれ。こら、お前達こっちにこい」

 「うーん、先輩、この子達にご飯分けてもいいですか?」

 「だな、先にそっちから行くか。すまない、みんな飯盒を頼めるか?」

 「「お安い御用です!」」

 「お、おい……」

 「いいのー!!」


 リュッカがなにかを言う前に、赤黒い肌の子供達が黛と俺に抱き着いてくる。じっと俺達のカバンを見られたら流石に可哀想になる。

 エルフ達が準備を始めると、子供達は目を輝かせて調理の様子を見ながら料理を待つ。

 

 「いい匂いだー……」

 「スミタカさんの持ってきた食材はみんな美味しいからな。ほら、先にこれでも食べてるといい」

 「わーい!」


 エルフ達は俺を持ち上げまくり、子供たちは渡された大きなトマトを手に大喜び。

 その状況にほっこりしながら俺と黛で炊けたご飯をおにぎりにしてオーガの子供達に渡していく。


 「うめっ!?」

 「すっぱぁい……! でもおいしー」

 「いっぱい食っていいからな? リュッカ、あんたもどうだい?」

 「あ、ああ、ごくり……いや、かかあを呼んでくる! ちょっと待っててくれ!」


 リュッカは喉をならしておにぎりに目を奪われていたが、慌てて家に向かうと、恐らく物語でもあまり見たことが無い女性オーガを連れて戻って来た。


 「すまねえ、こいつに食わせてもらえるか?」

 「あ、どこか具合が悪い感じですか?」

 「ごほ……最近体が重くて……」

 「ならおかゆの方がいいかもな、ちょっとだけ待ってくれ」


 おにぎりを鍋に入れて溶かし、おかゆに変えてから塩をひとつまみして入れ、茶碗を差し出した。


 「熱いからゆっくりな」

 「あ、ありがとうございます……」

 「ど、どうだ?」

 「ん……美味しい……」

 「お、おお……食べられるのか……!」


 少しずつだけどおかゆを口にし、リュッカは涙目で驚いていたけど見た感じ食べ物が無くて栄養が足りずに病気になったのではないかと思う。


 「とりあえずみんなが食べている間、わしらで話を進めるとしようか。スミタカ殿、続きを」

 「ああ。知っていると思うけど、俺達はエルフ村から来た。で、近くの湖で精霊を見つけたんだけど、そいつが神具をオーガに持ち去られたから取り返して欲しいと頼まれたんだ」

 「湖……ああ、あそこか。確かに行ったことはあるけど、神具は知らねえなあ。おい、お前知ってるか?」


 リュッカが顎に手を当てて若いオーガに声をかけると、


 「えー、どうでしたっけ……あ、あれじゃないっすか? 湖に潜った時になんか落ちてた杖」

 「ん、んん……? あ! あー、あれか!!」

 

 どうやら心当たりがあったようで一安心。


 「なんかよく分からないけど、湖の底で倒れていてな。光ってたから珍しいものだと思ってとりあえず持って帰ったんだ。そういや近くに祠みたいなのが会った気がする」

 「マジか……ならそこに祀られていたのが何らかの原因で飛び出したってところかな?」

 「あの精霊様、ドジっぽかったしね」


 ネーラが手厳しいことを言いながら笑い、フローレも無言で頷く。……まあ、否定はできない。


 「なら、返してもらってもええかのう。それがあれば水路を開けるとスミタカ殿が言うのじゃ」

 「ああ、飯を食わせてもらったし別に使い方もよくわからんから構わないぜ」


 するとそこで、リュッカの奥さんが茶碗を黛に渡してから口を開く。


 「ふう……久しぶりにお腹に食べ物が入ったわ……ごほ、ありがとうございます。あんた、あの光る杖どこにやったか覚えているの?」

 「いや、納屋にあるだろ? ちょっと取ってくる」


 奥さんの顔色が少し良くなったことに安堵し、そう言って腰を上げるリュッカ。


 「話がすぐについて良かったな」

 「ですね、これでお米を作ることができますよ! ネットで調べたんですけど、バケツでも作れるらしいですね」

 「へえ、面白いな。脱穀とかよく分からないけど、今はネットがあるからな」

 「ネットがありますもんね」

 「ネット……凄いのね……」


 ネーラが俺達の会話を聞きながら戦慄していると、遠くからリュッカが戻ってくるのが見えた。


 だが――

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