その58 気になる状況


 リュッカが自宅に戻り、戻って来た時には確かに杖を持っていた。

 だけど、リュッカはそれを右手と左手に握っていたことに嫌な予感を覚え、ここまで来た時にその予感が確実なものとなった。

 

 「いやあ、納屋で洗濯物を干すつっかえ棒にしてたみてぇで……」

 「お、折れておるではないか!? え? 神具って折れるの?」

 

 オロオロして口調がおかしくなったネミッタさんをよそに、俺はリュッカから杖を受け取り眺めてみることにした。


 「うわあ……」

 「真っ二つですねえ……」

 「これは酷いわね」


 片方にはサザエのような巻貝っぽいアクセサリー、それとヒレか紐のようなものが最後尾についていた。

 触った感じ、少し神秘的な印象を受けたので湖の精霊が言っていた神具で間違いないなさそうだ。

 

 「これ、直るか……?」

 「神様の道具だし難しいんじゃないかしら? 私達はこの島から出たことが無いから分からないわ。鍛冶と言えばドワーフさん達だけど」

 「うーむ、あやつらも道具が無いまま迫害されて島に逃げて来ておるからのう。一応訪ねてみるか?」

 「いや、なんかすまねえ……」


 ミネッタさんが珍しく難しい顔で腕を組んで言うと、リュッカが大きい体を小さくして頭を下げた。


 「まあ、わざとじゃないし仕方ないんじゃないか? とりあえず回収させてもらうよ」

 「ああ、食いものを分けてくれたのは本当にありがたかった、助かったよ。……そういや、あんた耳がとがってないな……人間、なのか?」

 「ん? ああ、その通りだ。オーガ達も迫害されてこの島に?」


 俺がそう聞くと、ミネッタさんが代わりに答えてくれ、どうやらオーガ達はこの島の先住民とのことらしい。杖のことは一旦おいておき、彼らのことを聞いてみることに。


 「なら、そんなに瘦せているのはどうしてなんだ? 元々住んでいたなら生活基盤はしっかりしているはずだろうに」

 「少し前……そうだな、百年位前まではそんなことなかったんだが、ある時を境に作物があまり育たなくなってな。獲物も段々取れなくなってきて、食料が……ってところだな」

 「ふむ……」


 エルフの村もそうだったけど、見た感じやはり土地が瘦せている……いや、痩せてきているって感じだろうか? ミネッタさん達がここへ来たのは三千年は越えているけど、もしかしたら他種族が島に来たせいでどんどん資源が枯渇しているんじゃないだろうか。


 「むう……」

 「先輩、大丈夫ですか? すみません、お手洗いは――」

 「違う!? 大きいのを我慢しているわけじゃないぞ!?」

 「マユミ、多分スミタカさんはオーガの村をどうにかしたいと思っているんじゃないですかね? まったくお人好しもここまで来ると……好きになっちゃいますよ?」

 「あんたは前からじゃない。会った時からスミタカはそうだから今回も、って感じでしょう」


 フローレとネーラがコントをしながら、褒めているのか呆れているのか分からないことを言いながら俺を見る。


 「好きになる意味が分からないが、まあそういうことだ。ただ、エルフ村で結構お金使っているから悩んでいるだけだ。まあ、この惨状を見て見ぬふりもできないしエルフ村と同じ肥料を使って農作物だけでも育つようにしよう」

 「ま、マジでか……!? そりゃ助かるが、俺達にゃこの通りお礼できることがねえ……」

 「はは、いいじゃないか。もししっかり食べて力が戻ったら、エルフ村の発展に協力してくれると助かる。まあ、同じ島の住人だし、この村もそうできるといいしな」

 

 「昔から面倒見がいいですからねえ先輩は。教育係をしてくれたとき、ボクはどれだけ心を乱されたかわかりません」

 「あ、わかるかも。人の気も知らないで、優しくするタイプよね」

 「そうですそうです! アプローチに気づかないラノベの鈍感系主人公みたいで苦労しましたねえ」


 黛が当時のことをネーラと話し俺は居たたまれなくなり、俺は慌てて声をかける。


 「よ、よし、一旦俺達は帰ってから準備をしてくる。また来るからその時はよろしくな!」

 「ああ、歓迎するぜ」

 「ありがとうございます。おかげで咳は止まったようです……なにもない村ですが、是非お越しください」


 リュッカの奥さんもおかゆを食べて落ち着いたようで顔色が少し良くなり、お礼を言ってくれる。エルフの村ふたつにオーガの村がこうだと、他の種族の村もどうなっているのか気になるな……


 「それじゃミネッタさん、これからの行動予定だけど、今からドワーフ達に行こう。で、俺の勘だとそっちも恐らくこんな感じになっているんじゃないかと思うから、そこで必要な道具をメモして俺と黛は家に帰り向こうの世界で買い出しをしてくるつもりだ」

 「お金は大丈夫か?」

 「まあ、俺の貯金を使っているから大丈夫だろう。親父たちの遺産に手をつけなきゃいけないような状況だったら手助けできないしするつもりもない」


 気を遣わせてもアレなので、できない時はできないときっぱり言うとミネッタさんは笑って頷き、オーガの村を後にする。

 その途中、シュネがリュックに差している杖を見て口を開く。


 <……にしても、その杖見事に折れているわね。神具がそんなに簡単に折れるかしら? 嫌な予感がするわね>

 「脅かすなよ……多分腐ってたんだよ、長いこと本来の場所から離れているとおかしくなるとか、俺の世界じゃそういう話もあるしな。それじゃ、次はドワーフ達だ、ミネッタさん案内を頼む」


 シュネの言葉も気になるが、今のところ出来ることは無いので、俺は次の目的地へと向かう。

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