その56 島の反対側に住むオーガ


 「結構距離があるんだな」

 <まだ半分くらいよ。私が乗せて一気に走ればすぐだけど、この調子だと後二日はかかるかもね>

 「黛、大丈夫か?」

 「はい! こんなこともあろうかと有休を取りましたからね。課長がニヤニヤしていましたけど」


 奴め……


 まあ、それはいいかと昼食のためブルーシートを広げていく。

 あの湖の精霊と出会った日の翌日、俺達は一旦向こうへ戻り、週明けから通常の生活をしていた。黛は俺と違って会社勤めなので仕事に行かなければならない。

 月曜から金曜という日本人の基本的な一週間に合わせて生活。たまにネーラとフローレ、シュネが訪ねてきた以外は穏やかだった。

 で、金曜の夜から黛は泊まり、俺が賃貸周りをする水曜日までは休みにしたらしい。この子俺のこと好きすぎない?


 「おにぎり……うまいのう……」

 「湖の精霊の力を借りたら米を作りたいんだよな。正直知識は全然ないから失敗するだろうけど、こっちで作って分けて貰ったら俺も家計が助かるし」


 エルフ村を手伝うのはこの要素が大きかったりする。


 「そりゃ当然じゃ! これは是非ともオーガから神具を取り返さないといかんな」


 俺の持ってきたおにぎり(黛作、鮭入り)を頬張りながら不敵に笑うミネッタさん。

 ちなみにサッと行けていない理由は、万が一戦闘になった場合を想定し、戦えるエルフを数十人連れての行軍のため、時間がかかっている。


 「みゅー♪」

 「このネコカンも美味しそうよね……」

 「みゃー!!」

 「取りませんよキサラギ。味は薄いですけど人間も食べられるし」

 「わたしはこのキュウリのアサヅケの方が好きですけどね」

 「渋い」

 

 ネーラ達も子ネコに餌を食べさせながらわいわいと昼食を食べていた。

 往復の食料は採れた野菜と俺が持ってきた生米を飯盒炊飯で炊くというキャンプスタイル。二、三日なら俺の好きなキャンプが出来ると結構張り切ってきた。


 「スミタカ殿、ソーセージは?」

 「そっちで食べていいぞ」

 「ありがたくっ!」


 そんなやり取りをしながら先へ進み、途中現れた魔物は、


 「スミタカとマユミ殿の邪魔をする者には死を……!」

 「きゃぃーん!?」

 「シャァァァァ!?」


 こんな感じでエルフ達が倒したり追っ払ってくれるので楽なものだった。

 

 そして――


 <着いたわ、多分この村よ>

 「へえ、ちゃんと村を作ってるんだな。俺達の知っているオーガは野良って感じなんだけどな」

 「スライムが活躍するやつだとパーティに入っていたりしますけどね」

 「興味深いが、話は後じゃ。わしが声をかけてやろう」


 ミネッタさんが村の入り口……随分寂れた感じのウェスタン扉みたいなものを開けて大声で言う。


 「エルフの村、最長老のミネッタという! オーガの長はおられるか!」

 

 「……出てきませんね?」

 「あ、いや、何人か出てきたぞ」


 家屋から大きな体を揺らし、赤黒い肌に頭から角をはやした数人のオーガと思われる人たちが歩いてくる。でかい……そう思ったのだが……


 「エルフですかい? また珍しい客人だなあ」

 「なにしに来たんだい、見ての通りこの村にゃなんもないぜ」

 「……」


 驚いた、としか言えない。

 まず、もっと荒々しいものだと思っていただけに対応がすごく普通だということ。そしてもう一つ驚愕なことがあるのだが……


 「えっと、すみません。ボクのイメージだともっと筋肉が凄くて体が大きいと思うんですけど……どうしてそんなに痩せているんですか……?」

 「そうだねえ。これなら私の方が筋肉があるかもしれないね」


 ベゼルさんが不敵に笑い、グッと腕を曲げると筋肉がもりっと膨らむ。オーガ達は見た目は大きいがやせ細っていて、武器をもって振り回すどころか、振り回されそうなくらい弱そうだった。

 そして次の瞬間、それは起きた。


 「いいにおいがするー!!」

 「たべもののにおいー!!」

 「あら、子供かしら?」

 「こ、こら、出てくるなって言ったろうが!?」

 

 小ぶりのオーガが家から出てきて俺達に群がる。その子達も頬がこけて、最初にエルフ村を訪れた時を思い出した。


 「すまねえ。すぐ戻すからよ。俺がオーガを統率しているリュッカってもんだ」

 「わしはエルフ村の最長老ミネッタ」

 「俺はスミタカという。もしかしてあまり飯が食えていないんじゃないか……?」

 「……」


 俺が尋ねるとリュッカは肩を落として背を向けると、俺達に声をかけた。


 「そこじゃなんだ、そこの広場で話をしてやる」

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