その55 湖の精霊


 <それで?>

 

 すっかすかの透明感ある自称湖の精霊にシュネが短く尋ねると、ディーネは俺達の敷いたブルーシートに座り、説明を始めてくれた。


 「この島って魔物と動物がいるだけの平和な島だったけど、亜人迫害の結果エルフやドワーフ達がこの島に逃げ込んできたわよね。まあ、それ自体は良かったけどあまり人と干渉するのは良くないと思って、私は基本的に姿を見せないようにしていたの。エルフは猫の精霊を崇めていたのは知っていたし」

 <精霊って相性が悪いと喧嘩することもあるし、懸命だと思うわ。でも、今になってどうして出てきたのよ?>

 「ですねえ。わたし達も水を汲みに来ますけど初めて見ましたよ」

 「エルフの守り神……その猫精霊が浮遊していたのは知っていたけどね。水を汲むくらいなら何も問題はないから黙っているわよ。でも、水路を作るなら話は別。さっきも言ったけど、管理と維持ができなくなるわ」


 そこまで聞いて、俺はさっきシュネに言っていたことを尋ねてみる。

 

 「もしかして、神具ってのが無いから維持が難しいってことか?」

 「そうよ! ……って、あなた人間じゃない? そっちの娘も」 

 「ですね! ボクは真弓と言います、よろしく精霊様!」

 「……ま、いいわ。そっちの人間男が言うように神具がないと最小限の力しか使えないの。だから湖を守るので精一杯なのよ」


 なるほど、なら逆に考えれば神具を取り返せば協力してくれるんじゃないか? 俺はそう思いディーネへ提案をする。


 「なあ、その神具を取り戻せば水路を作っても問題ないか?」

 「え? ええ、もちろんよ! もしそれができるなら、この島の水の透明度や安全度は保証されるわ! ……できるなら、ね……」

 「そういえば千年前に取られてからと言ってたわね。精霊様は一体誰に取られたんですか?」

 <確かにそれを聞いておきたいわね。悪戯好きのマッドモンキーあたりならあり得そうだけど>


 シュネが笑うと、ディーネは顔を伏せて言う。


 「オーガよ……。この島のどこかで集落を作っているオーガの集団が水中にある私の祠を荒らして持ち去ったの」

 「オーガかあ……それは厄介だね」

 「そうなのかベゼルさん?」

 「ああ。私もなかなかのものだけど、彼らの筋肉はさらに上を行くんだ。もし戦闘になれば、双方犠牲は免れないだろうね。魔法が使えない代わりに近接戦闘に特化している種族だ」

 「一応、言葉が通じる魔物ということと、島の反対側に居を構えているらしいから顔を合わせることは滅多にないんですけどね。ドワーフ達の村の方が近いはずです」


 フローレが腕組みをしてうんうんと頷く。話せばわかるなら――


 「頼んでみるか……? もちろんオーガ達にもお礼はする方向で」

 「神具と交換って結構大変じゃないですか先輩?」

 「まあ、エルフ達みたいに足りないものがあればプレゼントするってことでもいいんじゃないか? 畑ならなんとかなるし」

 「ふむ……では最長老に聞いてみようか。他に何か知恵をいただけるかもしれない」


 ベゼルさんの言葉に俺達は頷き、一度村へ戻ることに。陽は暮れ始めているから行くのはまた別の日になるだろうな……


 「私はここから動けないから、また用があるときは声をかけてね。神具が帰ってくればありがたいけど、あんまり無理はしない方がいいと思うわよ?」

 「ああ、ありがとう。でも、水路があれば米も作れそうだし、食料不足は解決しそうなんだよ」

 「ふうん、人間なのに亜人と協力するのね? ま、死なないようにね」


 ◆ ◇ ◆


 そしてエルフ達と共にミネッタさんのところへ行く頃にはかなり薄暗くなっていた。最長老のログハウスを尋ねると快く迎え入れてくれ、湖の精霊について話しをする。


 「ふむ、確かにわしらがこの島に着いた頃、一度だけ姿をみた覚えがある。まさか神具を取られているとはのう……」

 「神の道具、って解釈でいいか?」

 <そうね。私にもあるわよ?>


 シュネはそう言って尻尾の付け根にある銀色のわっかを見せてくれた。


 <これで色々な力を使い、種族を守るのよ>

 「へえ、面白いですね。他の種族にもいるんですか? 例えば人間とかも」

 

 黛が不思議そうに言うと、ミネッタさんが口をへの字にして喋り出した。


 「……そういえば、人間の精霊ってなんじゃろ? 気にしたこともなかったわい」

 「居るのかしら……? あ、それより先にオーガですよ最長老。どうしますか?」

 「まあ、神具をすぐ返してくれるとは思えんが一応尋ねてみるか。わしも行くぞ!」

 

 ミネッタさんはウキウキしながらオーガの村行きを承諾してくれた。ドワーフ達ってのも気になるけど、まずは目先のことを片付けるか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る