その54 湖にて


 「あそこがネーラとフローレの村だから……あっちがウィルさんの村ですね。先輩、どうやって進めるんですか?」


 湖に到着後、黛が少し丘の下を見ながら俺に尋ねてくる。横で同じ風景を見ていた俺は、黛の頭に手を置いた後、ベゼルさんとエルフ達へ話す。


 「えっと、この辺からこんな感じで掘り進めてこういう形にしてもらえるか?」


 俺は拙い設計図を取り出し、身振り手振りで作業の話をする。コの字型でそれなりに深さがある、ということが伝わればいいかというレベルだけど、ログハウスの件で慣れているからかそう苦労もなく伝わった。


 「なるほど、で、各村に導線を繋げると」

 「ああ、小さい川を作るイメージかな。ただ、溢れると困るから、村にはなんていうのかな……池のようなものを作る必要がある」

 「なら、村の中心に深い穴を掘ればいいって感じですかね?」


 フローレの質問に俺は頷き、満たされれるけど、溢れることはないはずだと説明。するとエルフ達は俺の持ってきたスコップを手に川を作り始める。


 「これで水の問題は大丈夫だな。スミタカのおかげだぜ」

 「だな、俺達は長生きだからあまり先のことを考えないからなあ……」

 「もう一つの村に畑と水が供給できればエルフの村は安泰だよ。あの野菜を食べ始めてから力がついた気がするんだ」


 腐らずに作業をするエルフばかりに仕事をさせるわけにもいかず、俺と黛も掘り起こした土を外に出すなどして手伝っていた。


 「お金にはならんけど、こうやって役に立てるのは悪くないな」

 「そうですね! 子ネコ達も自然で遊べるしいいですよね」

 「みゅー♪」

 「みゃーん!!」

 「お、鳴き声が変わった……?」


 そんな感じで和やかにしていると、不意に誰かに声をかけられた。


 「ちょっと、なにやってんのよ!」

 「へ?」


 俺達が振り返ると、そこには青いロングヘアをし、古代ローマ人のような服をまとった透けて見える女性が立っていた。


 「うおおお!?」

 「ゆ、幽霊!?」


 俺と黛が抱き合って驚いていると、ネーラが気づいてこちらに駆け寄って来た。


 「どうしたの? あら、幽霊?」

 「あっけらかんとしてるな……」

 「別に珍しくもないでしょ? ……でも、この幽霊――」


 と、ネーラが目を細めたところで、青い髪の幽霊は激昂して俺達に指を突き付けてくる。


 「私は幽霊じゃないわ! この湖の精霊よ!」

 「やっぱり霊じゃないですか」


 そこでいつの間にかフローレが俺の隣に立ちサラリと言うと、自称精霊は歯噛みをしながらさらに激怒をする。


 「ああ言えばこう言う!? 私の湖を勝手に開通されちゃ困るわ、直ちに工事を辞めて頂戴」

 「え? でもこの湖、せっかくこれだけ大きいし、湧き水みたいな感じなら分けてくれてもいいんじゃないか?」

 

 俺が尋ねると、精霊は口をへの字に曲げたまま口を開く。


 「……まあ、この島だとここ以外に大きな湖は無いわね。後は海に行くしかないわ。飲み水として使えるのも、この私が浄化しているからよ」

 「水を汲むのはいいんですか?」

 「それくらいはいいわよ。だけど、川にすると範囲が広がっちゃうから管理が大変になるのよ? 濁った水を飲みたくはないでしょう?」

 「それは確かに……」


 ふむ、表情からして嘘を言っているようには見えない。そうなると、折角水を運んでもあまり意味をなさない。


 「あ、いや、濾過セットを使えば何とかなるかな?」

 「ああ、そうですね。ちょっと飲むまで長くなりますけど、それなら大丈夫でしょう」

 「そうなの? スミタカが言うなら大丈夫ね」

 「みなさーん、大丈夫です! 続けてください!」

 「いやあああああ!? ちょ、やめろって言ってんでしょ!?」

 「だけど、あなたがわたし達を止める手段は無いのでは?」

 「みゅー」


 コテツが自称精霊の足元をすり抜けると、がっくりと項垂れその場に体育座りでめそめそと泣き出した。


 「そうよ……もう勝手にすればいいわ……神具を取られてからもう千年……この湖が最後の砦だったのに……」

 「……うーん、なんか心苦しいな」

 「女が良く使う手段ですよ、騙されちゃあいけません」

 「鬼だなフローレ……」


 ドライなフローレに若干引いていると、俺達の頭上を飛び越える影があった。


 <あら、私と同じ気配を感じたから来てみたけど、だいぶ弱っているわねえ>

 「あ、あなたはお猫!? その姿……ふ、復活したのですか!?」

 <ええ、確か湖の精霊……ディーナだったかしら?>

 「そ、そうです……き、聞いてくださーい!!」

 「「あ」」


 一応、本当に精霊だったらしいディーナがシュネに抱き着こうとし、すり抜けて顔からいった。

 まあ、水を引くには許可が必要そうだし、シュネがいるなら少しは話ができそうだ、ちょっと聞いてみようか?

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