その51 やりたい放題
「あ、ちょっと待ってください、私も行きます!」
俺は黛のピンチということで血相を変えて家から飛び出すと、警官が慌てて俺に声をかけてきた。しかし、制止は聞かず階段を駆け足で降りる。
すぐに駐車場に到着すると車の助手席を叩く男の姿があった。あれは確か園田ってやつか?
「おい、何してるんだ!!」
「ああ? やっぱりてめぇも居たのか! クソが、てめぇらのせいで降格されたじゃねえか!」
「それは自業自得だろうが……今は取り込み中だ、さっさとどっかへ消えてくれ」
「誰に口聞いてんだてめぇ……? 真弓が武術をやっていたのはびびったがてめぇはただの兄ちゃんだろうが? まあいい、ボコして真弓を連れていくことにするぜ」
そう言った瞬間、窓越しに子ネコが憤慨し、黛がべーと舌を出しているが見え、園田は苛立ちを隠さずぼそりと呟いた。
「絶対犯してやる……! 彼氏が死にかけてもそんな態度でいられるか?」
来るか! ゆらりと俺に向きなおり拳を握る藤原。あ、いや、園田だっけ? どっちでもいい、とりあえず狼と戦った時の心構えで迎え撃つ!
「おらあ!」
「う……!?」
「へへ、思った通り素人だな! ボコボコにしてやんよ!」
「くそ!」
パンチを受け止めようとするがやはり異世界ではないため俺の力は普通のようだ。
「みゅー!」
「みゃー!!」
「先輩ー!!」
黛と子ネコが車の中から叫ぶのが聞こえ、殴り返すべきだろうかと思ったが、俺達を止める声が聞こえた。
「こら! 止めないか!」
「ああ? 馬鹿なことを言うんじゃねえ、俺はこいつに女を盗られたんだ……! ぶっ殺してやる」
「止めろというのがわからんのか!」
「邪魔すんな! ……あ!?」
「やったな……? 公務執行妨害だ、現行犯!」
杉崎さんが怒鳴ったことに腹が立ったのか、後ろから止めに入った警官を肘で振り抜いてしまい、警官は鼻血を出した。園田がやばいという顔をした瞬間、手錠がかけられる。
「ま、待ってくれ、今のは――」
「あ! ゆ、幸雄!?」
「小林! お前からも弁解してくれ、友達だろ!」
「お巡りさんこの人です!」
警官と一緒に様子を見に来た旦那さんがびっくりして園田を指さして叫ぶ。
「どういうことです? まさか、居座っている男というのはこいつですか?」
杉崎さんが尋ねると、旦那さんは頷いて恐る恐る口を開いた。
「そ、そうです……毎日ウチに集りに来る男です……指紋を採って貰ったら多分出てくるかと……」
「小林、てめぇ……! いててて!?」
「その態度……どうやら余罪もありそうだな。私は公務執行妨害でこの男を連れていきます。騒音の件で旦那さんを呼びかもしれませんのでよろしくお願いします」
「はあ……」
「ち、ちくしょう……なんでこんな目に!!」
暴れる園田の首根っこを捕まえて警官は去っていった。
俺と旦那さん……小林さんはぽかーんと口を開けて見送った後、顔を見合わせてため息を吐く。
「大家さんにも絡んでいたんですね……」
「ええ、まあ最近のことですけど、俺の彼女に言い寄っていました。とりあえず部屋に戻りましょうか。ネコアレルギーとかないですか?」
「ええ、私も妻もありませんが……」
俺は頷き、ケージに入れた子ネコと黛も連れて三人で部屋に戻る。
「まさか住孝君にも関りがあったとは……」
「俺もびっくりですよ、警察からまた連絡があるみたいなので俺と小林さんは出向くことになるかもしれませんね」
「ボクも行きますよ、あの男にはセクハラじみたことを言われたことありますし! ね、コテツ、キサラギ」
「みゃ!」
「みゅ!」
黛は憤慨し、子ネコ達もそれに呼応して短く鳴く。そこで小林さんが頭を下げながら俺達に言う。
「ええ。ですが、助かりました……あのまま居座られていたら妻が襲われていたかもしれません……それと今のやり取りの後で心苦しいのですが、近いうちに引っ越しをしたいと思います」
「……そうですね、合わせ技で塀の中に行きそうですが、すぐ出てこれるでしょうしそれがいいと思います」
杉崎さんが困った顔でそう言い、俺も同意して頷く。家賃収入は減るけど、人命の方が大事だしな。
「すみません……大家さんにも助けてもらったのに」
「いえ、そこは気にしないでください」
「あいつ、本当に最低な人だったんですねえ……」
黛が頬を膨らませて呟いたので、俺は頭を撫でながら窘めてやった。そのまま警察から連絡があったら一緒に、ということで連絡先を交換してアパートから立ち去る。
「……彼女……」
「あ、染井さんありがとうございます。おかげで色々解決しそうです。今度お礼をさせてください」
「それなら食事――」
「ギン!」
「!? ……お構いなく」
「そうですか? ではまたお伺いします」
帰り道――
「何となくスッキリしましたね色々と! あの人って知り合いなんですか?」
「まあな。世間は狭いって思うよホント。染井さんは俺が大家になってから話したことがあるかなあ。まあ、これでしばらく安全かな?」
黛は一瞬何かを考える仕草をするが、すぐに笑顔になり俺に言う。
「ですね、それじゃお昼ご飯食べに行きましょう! 子ネコちゃん達はちょっとお留守番ですよー♪」
「みゃー!」
不満気な声を上げるキサラギに頬ずりをしながら目を細める黛を見て、俺は安堵する。そういや、そろそろエルフ村にも行かないとな。そう思いながら車を走らせるのだった。
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