その52 なんということでしょう……
「準備はいいな?」
「はい!」
「みゅー♪」
「みゃー!」
概ねの会社が休みになる週末。
そんな土曜日の朝、家のリビングでキャンピングスタイルになっている俺達は、今から一週間ぶりにエルフ村へと向かう予定である。
ちなみに園田はめでたく裁判になるそうで、色々奔走していた。復讐を考えそうな男なので、黛のことを守るためにも動向は注視しないといけないと思っている。
なので約束していたウィル村長の村へ栽培を手伝う予定だったが、なんだかんだと行く機会を失っていたので本当に久しぶりの訪問だ。
「シュネが来てくれると助かるけどどうかな?」
「みゅー」
「呼べるんですか、コテツ?」
俺の言葉に、黛の腕の中でコテツが短く鳴いた。まさかと思っていると、サッと黒い影が俺達の前に現れる。
『はあい、お待たせ。忙しかった?』
「おお……来てくれるんだ……よくわかったな……まあ、仕事は大事だからな」
「わーい、シュネお母さんの背中!」
「みゅー♪」
大きな背にまたがると、シュネは音もなく走り出す。
「なんか変わったことは無かったか?」
『うーん、特に無いけど、ちょっとびっくりするかもしれないわねえ』
「?」
シュネが含み笑いをしながらそんなことを言い、到着までのお楽しみだと走り続ける。
いつもの道である坂を下るとすぐにある村だが、近づいてくるにつれて俺は目を丸くすることになった。
「お、おい、村の囲いが強力になってるぞ?」
「本当ですね、牧場とかの丸太を組み合わせている柵みたい」
『中はもっと凄いわよ?』
前は網目の扉がついていただけだった入り口も、木で出来た立派な門に変わり魔物への対抗ができるようになっていた。
さらに中へ入ると――
「うわ、凄いな!?」
「みゃー」
「みゅー!」
子ネコ達はシュネの背から飛び降りると広場を駆けまわり遊び出す。広場は相変わらずだけど、見張るべきは家屋だ。
「ログハウス、増えてますね……」
「ああ……」
ミネッタさんに作ったあのログハウス、あれがいくつも出来上がっていたのだ。そこへネーラがこちらに向かってくるのが見えた。
「スミタカー! お猫様が飛び出していったからそうじゃないかと思ったわ」
「おう、元気そうだな!」
「久しぶりですね!」
「マユミも!」
何故か仲のいい二人が握手をして笑いあっていると、黛がネーラが来た方角を見て尋ねる。
「フローレさんは居ないんですか?」
「ああ、今は野菜の収穫に行っているわ。毎日豊作だから野菜を管理する倉庫を作ったの」
「へえ、いいじゃないか。この前ちょっと少なかったけど戻ったんだな?」
「ううん、たまーにあまり採れない時があるわよ。なんでかは最長老様もわからないみたい」
ネーラの言葉に俺は顎に手を当てて考える。
野菜の植えすぎ、ってわけじゃないのか? 育たない時は条件があるとしたら水と肥料だけど、豊作になることもあるならそこだけじゃなさそうだ。
「ま、その内調べてみるか……」
俺達はそのまま畑へ行くと、フローレがこちらを見つけて駆け寄って来た。
「待っていましたよダーリン!」
「誰がダーリンだ!? お前も相変わらずだな……」
「まだ七日しか経っていないですからねえ。マユミもおはよう!」
「へーい!」
何故かハイタッチで挨拶をする貧乳コンビ。
その間にひとつトマトを摘まんでみると、いい糖度をしていてフルーティだった。
「うん、んまい。ネーラ、ベゼルさんはいるか?」
「兄さんなら狩りに行っているけど、どうしたの?」
「ウィル村長の村に畑を作りに行こうと思ってな。それと、湖の水路を作っていこうかと思う」
「あ、そういえば忘れてましたね! ベゼルさんはしばらく帰ってこないですから、わたしたちだけでウィルさんの村へ行ってもいいと思いますよ?」
フローレが名案だという感じで手を合わせる。
「いいのか? ミネッタさんには話をしていくつもりだけど……」
「問題ないぞ。わしも行くからのう」
「おわ、居たのか!? ……ミネッタさんがついて来てくれるなら話は早いか。今から行けば昼飯までには終わるだろう」
「オッケー、なら魔物が出た時に備えて弓矢を取ってくるわね」
「わたしは魔法で戦います!」
ネーラが武器を持って戻ってくるとそのままウィル村長の村へと向かう。シュネはミネッタさんが居ない間村を守ってお留守番なので、子ネコ達だけ連れていく。
『気を付けてね。なんかあったら呼んでくれれば駆けつけるわ』
「おう、助かる! それじゃ行ってくるよ」
「しゅっぱーつ!」
「みゅーん♪」
「お、ちょっと鳴き声が変わった……!?」
さて、ウィル村長の村はどんな感じなのか、ちょっと楽しみだ。
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