その45 他の集落
異世界の人間その2である黛を連れてエルフ村へ向かった俺達。
村の入り口が見えたところで、たくさんのエルフが集まっていることに気づきなにごとかと駆け足で向かう。
すると、そこには初めて見た時のように痩せた、村では見たことが無いエルフが集まっていた。ウィーキンソンさんが対応しているようで、そこへネーラが割って入り声をかける。
「どうしたのおじいちゃん?」
「む、ネーラか。昨日は……なるほど、スミタカのところか」
「わたしも行ってましたよ」
「まあ、それは――」
と、ウィーキンソンさんがネーラとフローレに何か言おうとしたが、痩せたエルフの若者が口を開く。
「俺達が話しているんだ、悪いがちょっと黙ってくれないか? で、いったいどんな魔法を使ったんだよ、ウィーキンソンさん。久しぶりに挨拶に来たら家は立派になっているわ、いいものを食べているわで驚いた」
「同じ村長としては気になるだろうから気持ちは分かる。が、お前達が納得いくか……」
「どういうことだ?」
この若いエルフは別の村の村長らしい。見た目と同じく口調も若いが、他の村にも来るんだなと思っていると、ウィーキンソンさんが不意に俺の方を見て口を開いた。
「来ていたのかスミタカ。ウィル、この者のおかげでこの村は変わったのだ」
「ん? ……お前、人間か!?」
「耳が長くない……」
「あまり俺達と変わらない……?」
若いエルフや取り巻きで来ていたらしい見たことのないエルフ達が口々に俺を見てぶつぶつと呟いていたので、警戒させないよう片手を上げて挨拶をする。
「あ、ああ、スミタカというんだ、よろしくな」
「ボクはマユミと言います!」
「な!? お主また別の人間を連れてきたのか!? それも女とは……」
「悪い。村に来たいって言っててな。俺の恋人なんだ、頼むよ」
「まあ……悪い人間はなさそうじゃから構わんがな。お嬢さん、何もないところじゃがゆっくりしていくといい」
ネーラが取られないならいいか、みたいな顔で鼻を鳴らすウィーキンソンさんが俺と黛に道を譲ってくれ、歩き出そうとした。しかし、ウィルと呼ばれた若いエルフに回り込まれてしまう。
「……って本気で馴染んでんのか? 人間ってやべえヤツって話だったじゃないか! 最長老はなんて言ってるんだ!」
「ふむ、特に問題はないぞ」
「あひぃん!? さ、最長老」
背中を指でつつつ、となぞられて飛び上がると、そこにはミネッタさんが立って笑っていた。
「このスミタカは信用できる人間じゃ。もう滞在して結構経つが、生活が豊かになっておるぞ。とはいえ、すぐに他の村に案内するつもりじゃった」
「え、そうなのか?」
「うむ。同胞はいくつかの村に分かれて暮らして居るからのう。ワシらだけでという訳にもいくまい?」
「確かに……」
俺が信用できると確信し、かつ、ウィーキンソンさんの村が発展すれば次へ、というプランだったらしい。俺達がそんな会話をしていると、ウィルが復活して頭を掻きながら口を開いた。
「最長老が言うなら文句はねえが、人間か……」
「だ、大丈夫なのか……?」
「まあ、他にも要因はあるぞ。お猫様!」
ミネッタさんがシュネを呼ぶと、いつものように大きな体を揺らしてサッと飛んできた。
<どうしたの? あら、スミタカ。それと子供達も居るのね。そっちの女の子は前に会ったことあるわね>
「あー! あの時の!?」
「あー!? おおおおお猫様ぁぁぁぁ!?」
黛とウィルの叫びが同時に木霊する。そういや、シュネを見て気絶したんだっけな……
「うむ。お猫様じゃ。精霊を呼び戻してくれたのが他でもないこのスミタカなのじゃよ」
「おお……! 小さいお猫様も居るのか!」
「そ、そんな目で見るな!?」
子ネコ達をキラキラした目で見てくるウィルに、後ろに隠す俺。悪いやつでは無さそうだけど、なんかすぐ騙されそうなイメージがあるのは気のせいか……?
「事情は分かった。お猫様が復活したなら、俺達エルフも安泰だ。よろしく人間!」
「スミタカだ。受け入れてくれて嬉しいよ」
やはり最長老とお猫様の偉力は強いようで、ウィルはあっさり受け入れた。まあ、残忍な人間は話でしか知らないからこんなものなのかもしれない。
すると、ウィーキンソンさんが腕を組んでウィルに話しかけた。
「それで挨拶に来ただけはないだろう? 何か用があって来たのではないか?」
「ああ、そうだった!」
ウィルが手をポンと打つと、他のエルフが困った顔で俺達へ告げる。
「村に水が無くなったんですよ。井戸はあるのですが、干上がっていまして……なので少し水を分けてもらえないかと訪ねたのです」
「水が? 井戸が枯れるとはのう……」
「まあ、周りに川が無いのでいつかはそうなるだろうと思っていたんだけどな。そういうわけで、後で汲みに行くから少し分けてくれ」
「うむ。用意しよう」
水、水か……あの湖を上手く掘って川を作れないだろうか……水車があれば水力で何かできそうだし。
村のエルフ達が水を運ぶのを見ながら、俺はそんなことを考えるのだった。
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