その46 開拓のために
「うわー! 凄いですね先輩!」
「これがスミタカさんの力ですよ!」
「なんでお前が得意気なんだよ……あ、でもナスとかは前より少ないかな?」
「そうかも? やっぱり少しずつ衰えるのかしら? 早速収穫しましょうよ」
「何だこれ……凄すぎる……」
俺達は村の入り口から移動し、畑の様子を確認しに来ていた。他の村から来たエルフ、ウィルたちもついてきていたけど、畑の様子を見て驚いていた。
「大根は豊作……スナップエンドウはまあまあ、か? トマトは充分行き渡るな」
「これが一日でできるんですか?」
「ああ、どうも俺達の世界の肥料は相当いいらしいんだ。お前と会った時もホームセンター行ってただろ? あそこで色々種やら肥料を買って植えてる」
「ふえー、他にも向こうから持ち込んだら有効なものがあるかもしれませんね」
黛はにこにこ笑顔でネーラやフローレと共に野菜を収穫していく。するとウィルが俺の前に回り込み、頭を下げてきた。
「すまないスミタカ、お礼が出来るかどうかは分からないが俺の村にも畑を作ってもらえないだろうか? 井戸が枯れて作物もこの先不安なんだ」
「ふむ」
ウィルのいいところは村長なのに頭を下げることができ、お礼はできないかもしれないという正直なことを言えることだと思う。水の件もわざわざ出向いてくるあたり、自己顕示よりも村の仲間のためというのが伝わってくる。
「俺はいいけど、ミネッタさん、ウィーキンソンさん、どうだ?」
「ワシはええぞ。同じエルフじゃもの」
「最長老様が言ったら、わしも従わざるを得ないわい。行くときはついていくぞ」
「だそうだ。まあ、この村みたいになるかは分からないけど、協力はできそうだ。家は……ベゼルさんに教えて貰うといいかな……?」
いくつかログハウスが出来上がっているので、ノウハウはあるしもう大丈夫だろう。俺がそう言うと、ウィルは顔を上げると、笑顔で俺の手を掴んで口を開いた。
「ありがとう! これで村は何とかなりそうだ。よし、お前達水を汲みに行くぞ! またな!」
「「おお!」」
「気を付けるんじゃぞ」
他の村のエルフと共に、湖へと向かうウィル。とりあえず今は水があれば良いらしいので、俺達に準備ができたらウィーキンソンさんに連れて行ってもらうことで話がついた。
「すまんのう」
「いいさ。親父の……いや、ウィーキンソンさんとミネッタさんの頼みでもあるし。俺は結構楽しいんだ」
俺はまた親父と言ってしまったことを慌てて訂正し、エルフ村は楽しいと主張すると、ウィーキンソンさんが微笑みながら俺に言う。
「ふむ、相変わらずわしを親父と呼ぶのか。変な奴だな。まあ、呼びたきゃ好きにしろ。婆さんも気にせんだろ」
「ん……悪い。母さんはもうかなり前に亡くなったけど、親父は最近だからウィーキンソンさんの顔を見るとやっぱ思い出すんだろうな。今は黛とかネーラ、フローレが構ってくれるから紛れているけど近くで見ると間違えるくらいには似てるよ」
「ふうむ、それは会ってみたかったのう」
「はは、今度写真を持ってくるよ。多分驚くぜ?」
俺がそう言って笑うと、黛が畑から手を振りながら俺を呼ぶ。
「せんぱーい、トマト美味しいですよ!」
「元気な娘だな。行ってこい」
「ったく、初めて来たくせに馴染みすぎなんだよな……」
という感じでその日は黛とエルフ村で過ごすことにする。
朝食は食えないと言っていたけど、トマトをばくばく食べ、ログハウスに一喜一憂し、子ネコと戯れる。
「みゅー♪」
「お、コテツはボクと一緒がいいんですか? よーし、おいで!」
「元気だな……」
「先輩もうばてたんですか? なんかボク凄く調子がいいんですよ!」
「へえ、まあお前は会社でも元気だったしな。とりあえず、あの男のストレスからは解放されたようだな」
コテツをわしゃわしゃと撫でている黛にそう言うと明らかに嫌な顔をして返してきた。
「う……嫌なことを言わないでください……でも、先輩が恋人ですって言えるのでこれからは突き放せますよ! 訪問同行も他の人に代わって貰いましょうかね」
「課長を行かせたらいいと思うぞ」
「あー……」
黛は『面白そうだけどそれはヤバイ』という顔で曖昧に目を逸らすのを見て俺は笑う。
「ま、あの人はなあ。さて、それじゃ持ってきた食材で夕飯作るか」
「はーい! フローレとネーラを呼んできますよ」
すっかり仲良しの二人を呼びに行く黛の足取りは軽く、これはこれで良かったなと息を吐く。
この日はトラブルもなく俺も仕事があるので黛と共に自宅へ戻り、彼女を家に送るというリア充気分を味わった。
そこから二日ほど忙しくなり、エルフにも黛にも会うことは無かったのだが、我が彼女にピンチが――
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