その43 馴染むの早すぎ問題
「ふーん、そっちの世界はサバイバルって感じですね。漫画とか小説でありそうな話ですね。耳がとがっているから信じるしかないです」
「あふ……くすぐったいわマユミ。聞いていると、マユミやスミタカの世界は豊かだけど、窮屈そうな感じもするわね。でも料理は美味しいから色々食べてみたいわ」
「まあ、良し悪しだと思うよ。だから俺はどっちも行き来できるから楽しいんだけどな」
なんやかんやで黛を恋人にした後、俺達はリビングでテーブルを囲み会話を楽しんでいた。俺はあまりこっちの世界のことを話していなかったので、黛の話に興味津々である。
娯楽と料理が特に気になったようで、耳がぴくぴく動いていたのが面白かった。
「いつかでいいのでわたしもこっちの世界を歩いてみたいですねえ」
「お前、迷子になりそうだからなあ……後、耳が目立つし」
フローレがポテチをパリパリと食べ、野菜ジュースに口をつけながらそんなことを言う。ネーラも同じようなことを言っていたけど、万が一なにかあった時、俺は相当後悔すると思うので濁している。
まあ、向こうの世界に俺が行っているのも同じようなものだけどそれはあえて言わない。
「とりあえずボクは一緒に行ってもいいですよね? エルフの村、物凄く興味がありますよ! キャンプも好きですし」
「おお、そういやお前も海キャンプ行ってたらしいな家族で」
「そうです! えへへ、今日から恋人……うへへ……」
「嫌な笑い方をするな……おっと、もうこんな時間か、飯はどうする?」
時計を見るとすでに21時を回っており、三人に声をかけた。お菓子はぼつぼつ食べていたからそこまで腹は減っていないと思うが……
「ボクは明日休みなので泊っていきますから、食べますー」
「私も泊っていこうかしら? このソファでいいわよ、子猫様も居るし」
「わたしも泊ります。チャンス……いえ、何が食べられるか気になりますから」
エルフは帰らなくていいのかと思いながら俺は立ち上がり出前のチラシを取り、スマホを開く。今の時代、この時間でも持ってきてくれるのは大変ありがたい。
黛やネーラ、フローレは子ネコの相手をしてくれるので多少の我儘は聞く所存である。
「これはスミタカさんが持っていた小さい箱? ……す、すごい、これ食べ物ですか!?」
「あ、ピザいいかも。ボクひとりじゃ全部食べられないから注文しにくいんだよね。でもこれからは恋人の先輩と一緒に……へへ……へへへ……」
「だらしない顔になっているわよ。お、すし……? 何でか読めるわね」
「そこも気になりますよね。文字自体は全然違うのに。勝手口が繋がっているのも分からないのが怪しいですしね。庭の一部だけというのも――」
スマホに夢中のフローレと、異世界と繋がったことを訝しむ黛とネーラ。
俺は分からないものは分からないのだから、というスタンスだけど、違う意見を聞くのは面白いと思う。そこで子ネコ達がせつなそうな声を出しながら足元へ寄ってきた。
「みゅー」
「みゃー」
「お、遊び疲れて腹が減ったか? なら、ミルクの出番か」
「先輩、そろそろ離乳食も試したらどうです? 元気がいいしウェットタイプなら食べれるかも?」
「ふむ」
確かに黛の言う通り、子ネコの食欲は旺盛だしおもちゃに噛みつくこともできるようになってきたので今度出るときは考えてみよう。とりあえずミルクを哺乳瓶に入れながら考えていると、出前が決まったようだ。
「今日はピザに決定しました!」
「くう……このモンタッキーフライドチキンも美味しそうなのに……! ずるいですよマユミ!」
「フローレがじゃんけん弱いのが悪いんですよ」
「次は勝つわ……! おすし食べてみたいし!」
「楽しそうだなお前達。よし、それじゃMサイズ二枚くらい頼むか」
肉、シーフード、チーズなどなど、色とりどりのピザを頼み宅配を待つ。
そして――
「チーズって言うんですかコレ!? ほらほらネーラ、伸びますよ!」
「凄いわね!? このソーセージも美味しいわよ、フローレ」
「あはは、めちゃくちゃはしゃいでますね。ピザは大勢で食べるといいですよねー。あ、ビールあります?」
「今日は用意してないな、この前エルフ村で飲んじまったからな」
「そうですか……あ、そうだ! 明日も行くんですよね? ボクも一緒に行きたいんですけど、いいですか?」
「それは――」
「もちろんいいですよ! 同じ旦那を持つ身として、当然のこと……」
俺がダメだと言おうとした瞬間、フローレが満面の笑みで不穏なことを言う……。ネーラも同じなのか、ニコニコと頷いていた。あまり断り続けると頑なになりそうだからとりあえず今日のところは言わせておくか……
「みゅー?」
「ああ、心配するな……」
「みゃー」
コテツとキサラギの慰めが今の俺には一番の癒しだったとさ。
さて、向こうに行くなら準備を怠らないようにしないとな。
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