その42 スミタカ、今後のことを真剣に悩む
「気が済んだか? んで、結局なんの用だったんだ?」
「ふーふー……そういえば忘れるところでした! クソ鈍感の先輩のせいで!」
「そりゃもういいだろ……」
ネーラとフローレが見守る中、俺は黛にぽかぽかとやられていたが、いい加減気が済んだろうと起き上がった。すると、物凄く嫌な顔をして黛が口を開いた。
「あの時ホームセンターで会った男、覚えてます?」
「おお、あのいけ好かないやつな」
「そー! あいつ、あの後、食事に誘ってきたんですけど、拒否したんです。そしたらRIMUを使ってデートしようとか、遊びに行こうとか言ってくるんです。ボクはお断りしているんですけどね!」
チラチラと俺を見ながら拒否していることをアピールする黛に、ため息を吐きながら返す。
「デートくらいいいんじゃないか? というかそれだけアピールしてくるってことはお前のことが好きなのは間違いないんだし、無下にするのも可哀想だろ」
「……なら、先輩は、ボクの誘いでボクが先輩のことを好きだと認識しているってことでいいんですね?」
「う……!?」
しまった藪蛇か……!?
まあ、こいつが俺を好きなのは他のみんなからも言われたし、それは間違いない。でも社愛恋愛なんて面倒だし、妹にしか見えないからなあ。
「妹にしか見えないからなあ……」
「なんですって!?」
「ぷくく……妹……!」
「お前もな、フローレ」
「心という芯を折りにきた!?」
おおおお……と、四つん這いになって苦しむふたりをよそに、ネーラが不思議だという感じで口を開いた。
「別に付き合ってもいいんじゃないの? 私もフローレもその子もスミタカが好きなのは分かるでしょ? スミタカが嫌いならハッキリ言ってくれたら私ならもう来ないけど……」
「そうですね、ネーラさんでしたか? いいことを言いますね! そうです、そこハッキリさせましょう!」
「ええ!? い、今か!?」
「「「うん」」」
三人が仲良く頷き俺は頭を抱える。黛が俺を好き……ネーラもフローレも、だ。社内恋愛だから……は通用しないか。……あれ?
俺はふとここで嫌な考えがよぎる。そういえば仕事を辞めたし、女性との出会いは殆んどないんじゃないか? まだ25とは言え、この仕事をきちんとできるようになるには後二、三年くらいはかかるから婚活どころではない。それに婚活は怖いところだと聞いている。合コンはあまりいい思い出が無いし……
では改めて黛を見てみよう。
中学生みたいな体をしているがれっきとした23歳。気は強いが、見た目は可愛い系。ネコも好きだし、何より俺と性格が合う。
「……黛、お前料理は?」
「ふえ? ま、まあ普通だと思いますけど……?」
「採用」
「え? え?」
「おー、ということは?」
「ああ、俺の彼女になってくれるか?」
「~っ!」
フローレがありもしない眼鏡をくいっと上げる仕草をする。俺はそっちには構わず黛の手を取ると、顔を真っ赤にして俺の胸板をポカポカと叩きだす。
「もー! もー! ムードもクソもありませんよ! あれだけアピールして急になんなんですかあ! ……ボクでいいんですね? そりゃおっぱいはネーラさんほどありませんけど……」
「ああ。何かこの先、お前ほど俺を好きになってくれる人は居ないんじゃないかとふと不安になっただけだ」
「なんですかそれ……で、でも、嬉しい、かも……」
耳まで真っ赤にした黛の背中を撫でてやると、ちょっと気分が高揚する。……彼女か。少し大学時代のことを思い出していると、次はフローレが首筋に抱き着いて目を細める。
「それじゃあ次はわたしですねえ。もちろんわたしもいいんですよね?」
「いや、今のやり取りを見ていたか? 黛と付き合うことになったんだが……」
「え? 別にいいじゃない。私たちみんなと結婚すれば」
「「んん?」」
ネーラがあっさりそう言い、俺と黛が顔を見合わせる。まさか、と思い尋ねてみると――
「エルフは男が少ないから、一人で二人から三人くらいは娶るわよ? 兄さんもふたりいるし」
「そうなの!? ベゼルさん結婚してたんだ!?」
「汚いですよ!?」
そっちの方が驚いたと思わず鼻水が出てしまうが、きょとんとした顔を見るにそうらしい……とりあえず俺はコホンと咳ばらいをしてふたりに言う。
「こっちの世界じゃ夫婦は男女ひとりずつなんだ。悪いがそれは諦めてくれ」
「えー、なら向こうの嫁はわたしたちで、こっちはマユミでいいじゃありませんかー」
「それは――」
「……いいかもしれませんね。この鈍感先輩は浮気をすることは無いと思いますが、異世界に嫁が居ればこっちでそういうことをする暇もないかも?」
「いやいや、お前ひとり占めとかしたくないのか?」
「それはありますけど、どうせ向こうの世界に行くんですよね? なら最初から容認した方が良くないですか? 向こうは一夫多妻でいいなら違反でもないし」
「話が分かりますね」
フローレと握手をする黛。
マジか……? いや、ふたりとも美人ではあるけど……というか
「ネーラも俺のこと好きだったのか……?」
「うん。最初に私を襲わなかった時からね! さ、どうするの? 別に私たちを断ってもエルフ村はいつ来てもいいわよ」
サラリというネーラに冷や汗をかく俺。エルフ村は行かなくてもいいけど、俺は割と気に入っている。ここで断ったらちょっと気まずくなりそうな気がする。……実はネーラが一番の策士ではないだろうか……?
「……少し考えさせてくれ」
それを言うのが精一杯だった。
しかし、ここで黛を彼女にしたのは僥倖だった出来事が起こるのだが、今の俺に知る由もない――
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