その41 一触即発


 「うわああああああ!?」

 「ええええええええ!? 先輩の部屋に女の子がふたりも!? まさか……デ――」

 「それ以上はいけないっ! というかフローレ、どいてくれよ!」

 「にゅふふふ……」

 「あ! 今、ボクを見て笑った! ならば戦争だ……!」


 好戦的な目を向けたフローレにカチンときた黛が目を細め激昂する。 


 「なんですかあなたは! わたしはスミタカさんとイチャイチャしているところですよ!」

 「それはボクがするんですよ……! 金髪だからといって容赦はしません!」

 「うわ!?」


 そう言って黛が俺を押しのけて取っ組み合いになった。奇しくも、背格好はだいたい同じなのでほぼ互角だろう。


 「そんなちんちくりんな体でスミタカさんの相手はできないでしょう! 回れ右をして帰るんですね!」

 「それはこっちのセリフですよ! 貧乳は去れ!」

 「あなたも貧乳ですー! わたしはマシですー!」

 「何を言いますか、ボクはAですよ!」

 「ならわたしはSです!」

 「スモールのSですね? ぷぷー」

 「この……!」

 「やるか……!」


 ……寂しい罵り合いがリビングに響き渡り、子ネコ達は俺の後ろに隠れて顔を出していた。背格好はほぼ同じ……それはお互いの出るべきところの部分も同じなのだ。見立てではふたりともちんちくりん……そんなことを考えていると、ソファに座っていたネーラが立ち上がり、フローレの頭を掴んで自分のおでこにぶつけた。


 「止めなさい!!」

 「あがっ……!? ぐうう……ネーラの石頭が……!?」

 「お、おお……」


 ネーラの一撃で床に突っ伏したフローレとネーラを見て黛がびっくりして手を止めた。なんと頼もしい……


 「スミタカは私のよ!」

 「お前もか!? ええい、収拾がつかない! ちょっと座れお前等!」


 シュネの時とは違い、誤魔化すのは難しいので黛ならいいかと正直に話そうと思う。それに、何か黛も泣きながら入って来たし、何があったのか気になるところだ。


 「……信じられないかもしれないが、ウチの勝手口が異世界に繋がってな。このふたりはそこに住むエルフだ。知ってるだろ? お前も漫画とか好きだし」

 

 俺がそう言うとポカーンとした顔で俺とネーラ達を見比べた後、俺の頭に手を当ててぽつりと言う。


 「だ、大丈夫ですか先輩……?」

 「まあ、気持ちは分かるが、ネーラとフローレの耳を見ろ」

 「耳?」


 黛が二人の耳を見た瞬間、『あっ』っと小さく口を開けた。


 「長い……」

 「エルフはみんなそうです。そして人間は狂暴だということが分かりましたね! あいたっ!?」

 「お前が焚き付けたのが悪いんだろうが。まあ、そんなわけで――」


 と、今までの生活を黛に話し、実際勝手口を開けて向こう側を見せてやると、先ほどまでとはうって変わり、目を輝かせて震えていた。


 「ま、まじなんですね先輩! この金髪エルフがいっぱいいる世界……!」

 「貧乳はダメですけどね」

 「ならあなたもダメじゃないですか」

 「なにおう!」

 「止めなさいって。どっちもどっちよ」

 「「……」」


 ネーラに咎められふたりが顔を見合わせた後、ネーラの出ている部分をじっと見た後こくりと頷き――


 「それは余裕ですか! いくら友人でも許せませんね……!」

 「これか……これがそんなに強いのか……!! く、うう……」

 「ひゃああん!?」

 「止めろ」

 「「ぎゃふ!?」」


 黛かフローレ、どちらでもいいが分身したのではないかというくらいうるさいので、とりあえずふたりの頭をごっつんこさせて黙らせる。すると黛はよろよろと立ち上がりながら俺に言う。


 「でも、どうしてこんなことになったんでしょうね?」

 「もっともな意見だけど今のところは分からないなあ。まあ、今のところ困っていることもないし、近場のキャンプ場ができたみたいで楽しいぞ」

 「……先輩は無駄に心臓が強いですよね……」

 「ですねえ、磔にされたけどわたしたちを責めませんでしたし」

 「磔? なにやらかしてんですか!」

 

 黛がフローレの首を絞めて揺するのを止めながら俺は困り笑いの顔で言う。


 「あの時、人間は俺一人だし、味方はネーラだけだろ? あれだけのエルフに囲まれてたら流石に抵抗するのは腰が引けたよ。まあネーラが助けてくれるかもとは思っていたし、シュネも来てくれたからまあいいかと」

 「はあ……やっぱり心臓が強いですよ……それに比べてあの男ときたら……」

 「ん? あの男? ついに彼氏ができたのか?」

 

 俺がそう言うと、黛が顔を真っ赤にして俺の首を掴んできた。


 「このニブチンがぁぁぁ!」

 「うわ!? な、なんだ!? た、助けてくれ!?」

 「いやあ、今のは無いですわ」

 「そうね、今は報いを受ける時間よスミタカ?」


 ――しばらくして満足した黛が口にしたのは、あのホームセンターで会った男のことだった。

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