その40 緊急事態
「みゅー」
「みゃー」
「お……いつの間にか寝てたか……」
リビングのソファで寝転がっていたらしく、俺の胸と頭に子ネコ達が乗り、顔を舐められたことで目が覚めた。というか――
「おお、お前達ソファに乗れるようになったのか! 凄いぞ!」
「みゅー♪」
「みゃーん♪」
落ちたクッションを足場にして登って来たようだけど、ころころと床を転がっていたのはつい最近なので成長が見て取れるのは嬉しい限り。
「時間は……うん、まだ8時半か。余裕だな……っと……」
子ネコ達を腹に移動させ背伸びをしてからソファを降りる。
昨日は畑仕事に精を出したから体がクタクタだったせいで帰って風呂にも入らず寝てしまったのだ。力はあるけど、体力は……少し上がったような気がする。
飯も食べていないので、ミルクを作るついでに何か軽くつまんでから出かけようと冷蔵庫を漁る。
「風呂かあ、そういやネーラ達はどうしてるんだろうな? 今度作ってみるか……?」
……いや、流石にドラム缶は運びづらい……ヒノキ風呂なら図を渡せば作ってくれそうな気もするな。探してみるか。
「みゅー」
「みゃ!」
「みゅー!?」
「こら、キサラギ。止めろって」
コテツはゆっくりミルクを飲むが、キサラギは早飲み。暇になったのでコテツにちょっかいを出し始めたので慌てて抱き上げて膝の上に置く。
そんな朝の穏やかな状態から一日が始まる。最近エルフの村で走り回っているせいか子ネコ達も元気なので、リビングを解放してやる。
今日は自宅での仕事なので外に出ることは無いから、子ネコ達はおもちゃを散らしておけば勝手に遊んでくれるはずだ。トイレもちゃんと砂でするしな。
――そう思っていたんだけど。
「みゅー?」
「みゃー!」
「元気なのはいいが、そう来たかー」
俺はパソコンで作業をしていたのだが、ローテーブルなので座椅子を使っている。リビングで遊んでいたと思っていた子ネコ達はいつの間にか忍び寄り、俺の足を使ってテーブルに乗るとキーボードの上を占領して座り込んだ。
「はい、お前達はこっちね」
「みゅー!」
「みゃー!」
抗議の声を上げる二匹が再び俺のキーボードに乗せた手を前足でタッチし、動きを止めようとしてきた。どうもキーを叩いている指の動きが気になっているらしい。
「ふう……仕方ない……遊んでやるか!」
「みゅー♪」
仕事にならないので、おもちゃや抱っこをして構ってやることにした。そういえばあまり遊んでやってないなというのもあったけど。
「ほーら、取ってこい」
「みゅ!」
「みゃ!」
「喧嘩するなよ? キサラギ、お前にはこっちだ」
「みゃー……!」
俺はコテツにボール遊びをさせ、キサラギには猫じゃらしで対応する。掴ませないように振るのは割と技術のいる動きなのだと黛の後ろ姿を見てそう思った。
「みゃ! みゃー!?」
「ははは! 勢い余って転がってるじゃないかキサラギ! ほら、こっちだぞー」
「みゅ!」
「うお!? コテツか!?」
そんな調子でわちゃわちゃとリビングを転げまわり、昼は店屋物で済ませると、疲れたのか二匹はお眠となった。ドーナツ型のクッションに無理やり入っている二匹は窮屈じゃないのだろうかと苦笑する。
「寝ているのも可愛いな。よし、再開しよう」
俺はそこから寝ているのを邪魔しないように夕方まで仕事をこなし、何とかやるべき作業は終わる。家賃の確認、退去者へのクリーニング請求などおおむねお金に関わることが多い。残りは仲介業者の杉崎さんに頼んでいるから、かなり楽なものである。
そろそろ晩飯の買い出しにでも行くかと立ち上がった瞬間、勝手口がドンドンと叩かれていることに気づいた。
「スミタカ、スミタカ居ないかしら?」
「その声はネーラか? どうした!」
「遊びに来ました!」
何事かと思って勝手口を開けると、にこやかに笑うネーラと、その後ろからひょっこりフローレが顔を出して俺はガクッとなる。
「シュネは?」
「お猫様は最長老と家でくつろいでいるわ。ログハウスも少しずつ増えたし、畑も今日は豊作だったわ。スミタカのおかげで段々暮らしが良くなってきたかな。ありがとう」
「あ、でも畑と畑が近いところはあんまり育ってなかったですよ。もう少し距離を離した方がいいかも?」
「お、そうか? まあ、やり始めだから色々工夫しないとな。それより、もう大丈夫なのか?」
「一日寝たら治りました! へえ、ここがスミタカさんのおうち……すごく広いし綺麗ですね」
フローレはササっと部屋に入ると、目を輝かせて部屋を見渡す。
「あ、子猫様。ふふ、寝ているの」
ネーラも子ネコ達を見て微笑み、ソファに座る。
コーヒーでも出そうか……いや、また飲ませたらなんか起こるか? などと考えていたその時だ――
ピンポーン、とチャイムが鳴り、ガチャリと玄関のドアが開いた。
「あ、鍵が開いてる。せーんぱぁい! 居るんですよね! もうあの男嫌なんですけど!!」
「な!? 馬鹿な! 何故黛が!? それに玄関――」
そこで俺は昼の店屋物を頼んだ時、鍵をかけ忘れたような気がすることを思い出し青くなる。
「お客さん?」
「女の子の声……?」
ネーラが呑気に、フローレが目を細めてそう言う。俺は慌てて、二人を隠そうと手を伸ばすが、躓いてフローレを押し倒す形になった。
「きゃ!? もうスミタカさん、ネーラも居るのに……」
「そうじゃねえ!? あ!」
「せんぱ――」
そして、リビングに入って来た黛と目が合った。
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