その39 開拓人スミタカ
「うえええ……」
「ぎぼぢわるいいいい」
「みゃー!!」
さわやかな朝の景色を台無しにしているのはミネッタさんとフローレの二人だった。キサラギに毛を逆立たせるくらいの何かを口から出し、俺はペットボトルの水で地面を洗い流す。
「……まあ、俺のせいでもあるしな」
「なに? ほら、しっかりしてフローレ」
「わ、わたしのことは置いて早く先に……」
「寝てろ」
ミネッタさんをベッドに寝かせ、フローレも俺の持ってきたクッションを枕にしてタオルで頭を冷やす。他のエルフはたしなみ程度だが、このふたりは相当飲んでいたから本当に二日酔いみたいになってしまったらしい。
「うへへへ……スミタカさんの匂い……うぇっぷ……」
「とどめを刺すべきかしら?」
「今回は俺も悪いから寝かせておいてやれ。それより、畑に行くぞ」
「はーい」
『私も行こうかしらね』
「みゃー♪」
「みゅー♪」
俺達は散歩がてら収穫のため畑へと向かう。最近フローレが酷い目に合っている気がするので何か埋め合わせをしてやろうと思う。そんな
「わ、凄い凄い!! スミタカ!」
「みゅー♪」
「こりゃ凄いな……っと、お前も行くのか」
「みゅー」」
ネーラが目を輝かせて駆け出すと、子ネコ達も釣られて走っていく。元気でなによりと思いながら畑の状態を確認する。
「……豊作どころじゃないな。これだけあれば村のエルフ全員に行き渡るかもしれないぞ」
「見て、トマト!」
「どれ……うん、美味い! ナスとトマトをみんなに配ってやろう」
「みゅー!」
ナスをおもちゃと勘違いして突いたり抱き着いたりするコテツをよそに、俺達は収穫をする。その辺の畑で作業していたエルフにも頼む。
「やあ、スミタカ! 昨日は美味しいお肉をありがとう。収穫は言ってくれれば私達がやるのに」
「元気だなベゼルさん」
「む? おかしなことを言うなスミタカは、食べ物も飲み物も美味かった。あれで元気が出ない方がおかしいね! コーラ、といったかい。また飲みたいものだ」
おかしいのは筋肉エルフの方だとは口が裂けても言えず、俺は愛想笑いをして狩りへ行くというベゼルさんを見送った。
「ネーラ、手伝うぞ」
「ありがとう」
午前中は収穫に精を出し、子ネコにミルクを与える休憩をしつつ野菜を採る。
「まあ、こんなに? 悪いわね、昨日も色々頂いたし……」
「気にしないでください。子供達に食べさせてあげてもらえると」
「優しい人間ね、スミタカさんは」
「いやあ、へへへ……」
「む」
「あいた!? 何するんだネーラ!?」
「次行くわよ!」
何か良く分からないが女性エルフの時に決まって怒るネーラに首を傾げるが、ともあれ今ので家を巡ることができた。
「昼からは持ってきた種と肥料をまた畑に撒こう。これだけ収穫があるなら増やした分だけ種類が豊富になる」
「あ、また持ってきたのね? お仕事は大丈夫なの?」
「今日は大丈夫だよ、エルフの村を開拓するのも面白いけどな」
遅い昼飯を食べながらログハウスを組み立てるエルフ達を眺めて言う。正直アウトドア大好きな俺はこの生活は悪くない。住みやすい環境を作れば近場のキャンプ場として来訪したくなるものだ。
「そういや水はどうしているんだ?」
「水はちょっと離れたところに湖があるからそこから汲んでいるわ。あ、もちろん綺麗よ? いつも飲んでいるし」
「魔物とかは……?」
昨日襲われた狼を思い出し冷や汗をかきながら尋ねてみる。ネーラはんー、と唇に指を当てて少し考えてから口を開いた。
「水を飲みに来る魔物が居るかしら?」
「危険じゃないか? 川を引いても良さそうだけど……」
「距離があるから難しいわよ? スミタカと男エルフでもきついと思うわ。まあお魚が獲れるかもしれないからいいと思うけど」
「ほう」
魚と聞いて耳が動く。
自宅から海は結構遠いので釣りはなかなかできないからだ。広告代理店に勤めていたころは忙しくて土日は寝て過ごすことも多かったし、大学のころのように出歩くことは無かった。
「よーし、次に来た時は水道を引くための視察に湖に行こう!」
「え? でも大変って……」
「たぶん大丈夫だ! 道具も買ってくる!」
「スミタカがそう言うならいいけど、兄さんにも手伝って貰えばいいかしらね? あふ……ちょっとお昼寝しない? ちょっと疲れちゃったかも」
「おう、寝てていいぞ! 畑は俺がやっておくからな」
「あ、ちょっとスミタカ! ……もう!」
「みゅー♪」
「ふふ、コテツ様、一緒に寝る?」
俺は昼を終えると、立ち上がり、ブルーシートにネーラを残して畑へ向かう。むくれていたけど、コテツと一緒にお昼寝をするようだ。
「みゃー」
「お前は来るのか? はは、それじゃ一緒に畑仕事をやるか」
俺は残りの時間を使って肥料をさらに拡大し、大根、スナップエンドウ、玉ねぎを撒いた。となりのナスやトマトの畑はエルフが水を上げていた。
「また実をつけてくれるといいけど」
未知の状態なので急に枯れることもあるかもしれないからな。がっかりしないよう覚悟は持っておきたい。そんなエルフ村のひと時を終え、俺は自宅へ帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます