その31 涙目
「スミタカって強かったのね」
「いや、こんなでかい木を持ち上げられるほど力はないぞ……」
「これはいい子が産まれそうですねえ」
「お前は何を言っているんだ……?」
何故かもじもじしながら顔を赤くしているフローレは置いておき、今の状況を確認する。もう一度丸太を持ち上げると、やはりひょいっと抵抗なく持ち上げられる。割りばしよりちょっと重いくらいってところ。
ベゼルさんが汗をかきながら引いているところを見ると、この木がスッカスカというわけではなく、純粋に俺の力が強いみたいだ。
「一体なんでまた……」
『うーん、こっちの世界とスミタカの世界は似ているようだけど、さっきエルフ達が使ったようにこの世界には魔法があるわ。その差で何か違うものがスミタカに作用しているのかもしれないわね』
「納得はしにくいが……まあ便利だからいいか?」
「ははは、軽いなあスミタカは!」
シュネの言いたいことは何となく分かる。よく漫画などで異世界に行ったら魔法が使えたり、身体能力が向上したりすることがあるからその類なのだろう。
考えても仕方ないことはとりあえずおいておくのが俺なので、そのまま村に一本目を持って行ったあと森へ戻り、二本引っ張って持って帰る。
しかし、だ。
「ふう……ふう……た、体力は上がってないんだな……」
『乗る?』
「いや、いい……」
「みゅー!」
「みゃー!」
子ネコ達も頑張れと言ってくれているような気がし、俺は頑張って丸太を引いた。だが、体力不足は顕著で、三往復めでダウンした……
「はあ! はあ……! も、無理だ……げほ……」
「お疲れ様スミタカ、それでもこれだけ運べば一軒作るくらいにはなるんじゃないかしら?」
ネーラが指した先にはエルフ達が集まり設計図を見ながらあーだーこーだと論議している。俺はその場にへたりこんでいると、先ほどの魔法を使いうまいこと長さを調節して丸太を組んでいく。
「おお、凄い光景じゃのう!」
「あ、最長老」
水を飲んでいると後ろから声をかけられ、振り返るとミネッタさんが歓喜の声をあげていた。まずは最長老の家を作ろうと俺が提案したため、最長老の家の隣の空き地に建て始めた。
「おお、すごいな……」
ベゼルさん率いる筋肉部隊が設計図を見る頭脳チームが結集し、見事な丸太小屋を作っていく。これはミネッタさんの要望で、いくつかログハウスのカタログで丸太小屋を選んだからだ。
暖炉ではなく囲炉裏で、ロフトのような二階付きということでその幼い容姿どおりうきうきしていた。そういやなんでこの人はこんなに若いんだ……?
「みゃー」
「おお、ミルクか? よしよし――」
俺の疑問はキサラギに止められ、ミルクを用意する。
エルフ達は楽しいようで、休みなく日が暮れるまで交代で組み続けた。釘やノコギリを上手く使い、俺も確認したけど強固なかみ合わせでしっかりした作りに感嘆した。
その結果、何と日が暮れて間もなく、最長老の家が完成したのだ!
「おおー……! マジで出来るとは……」
「ふう……流石に疲れたね。スミタカ、最長老様、どうぞ」
「うむ」
「スミタカの家もよかったけど、これも素敵ね!」
『あら、私も入っていいの?』
「お猫様はもちろんいいに決まっておる! どれ……」
ぞろぞろと少し大きめの扉をくぐると、中はカタログを見事に再現していて、入ってすぐには囲炉裏があり、奥に寝室があるシンプルな家だ。しかしそれでもボロ家だった前の家に比べたらきれいだし、安全性も上である。
「おおー! いいのういいのう! 向こうの大陸で見た人間の家って感じがするわい」
憧れた我が家みたいな言い方をするミネッタさんは大いに喜び、今日は何人かずつ家に招いて夕食にしようと張り切っていた。
「これだけ喜んでくれたらやった甲斐があったなあ」
「みゅー♪」
「お前もそう思うか? 一日一戸なら割と早く出来るかもしれないな……う、しょ、食事も考えないとな……」
俺は貰った雑草のスープを口に入れながらそんなことを呟いていた。
その日はエルフ村で寝泊りして、明日仕事に行けばいいかと就寝。やり方は教えたし、仕事帰りにホームセンターに道具の補充をするかと疲れた体を休めた。
しかし、翌日――
「スミタカー! スミターカー! うわああああああん!」
「な、なんだ!?」
ミネッタさんが泣きながら俺の家へ入ってくる。目を白黒させていると、ベゼルさんとネーラが尋ねてきた。
「やあ、おはようスミタカ! はっはっは、やっぱりここに来ていたみたいだ」
「ベゼルさん、一体何が……?」
「まあ、来れば分かるわ……」
ネーラが気まずい顔をして、起き抜けでぼんやりした俺にそう言うと、手を引いて外へと案内され、そして――
「あ、あれ!? ログハウスが!?」
「うあああああん! 何でか分からんが歪んでしまったのじゃ!!」
見れば、所々が歪み、丸太にヒビが入っていたりしていた。今もミシっという音がしており、このまま放置していたら崩壊しそうな勢いだ。
「なんでだ……? 調べてみるか」
俺はポケットからスマホを取り出し、操作をする。インターネットのブラウザを起動したところで気が付く。
「あ、ここ、電波が入ってないか――」
そう思った瞬間、少しのローディングの後『ログハウスは生物』という記事が表示された。されたが――
「なんでだ!? 電波入ってんの!?」
俺は何度目かの『なんで』を口にして固まった。
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