その30 スミタカ


 「この辺を切り開こうか、みんな頑張ろう!」

 「「おおー!!」」


 村から5分ほどの場所で、エルフ達が威勢のいい声を上げる。

 村から5分……そう、ここは俺の自宅付近の森の中で、この付近を切り開くらしい。しかしみんな手ぶらで斧すら持っていない。


 「一体どうやって木を切るんだ? このノコギリじゃちょっとこの太さは無理だぞ?」

 「ああ、大丈夫だよスミタカ。さ、それじゃちゃっちゃっとやっちゃおうか」

 「そうね!」


 ネーラがそう言いって手をかざすと他のエルフもざっと手を突き出した。そして――


 「風よ切り裂け!」


 ネーラがそう叫んだ途端、スコンという小気味よい音がなった。すると、その直後、木がギギギ……と倒れてきた!?


 「うわああああ!? た、倒れるぞー!」

 「大丈夫大丈夫。風よ吹き荒れろ!」


 ベゼルさんと数人のエルフがそう叫ぶと、倒れてきた木が風によって動きを止めた。おお、すごい! そのままゆっくり倒れてくると、筋肉エルフのベゼルさんを先頭に、木を担いでゆっくり寝かせる。


 「はあー、魔法ってやつか……?」

 「そうよ、スミタカの世界には無いんだっけ?」

 「ああ、こっちは無いな。今の、風のカッターって感じでカッコいいな!」

 「魔法が無いのは不便そうですね」


 フローレが腰に手を当ててそう言うが、


 「俺達の世界は魔法に近いものがあるから、不便ってわけじゃないな。空が飛べれば違うと思うけど」

 「わ、火が出た」


 ライターで火をつけるとネーラがびっくりして俺の袖を掴む。そんな会話をしていると、エルフ達は次々と木を切り倒していく。手持ち無沙汰なエルフも出てきたので俺はその人たちに声をかけることにした。


 「それじゃ、さっきの魔法で木の皮を剥いでもらっていいか? 長さは組む時に切ればいいけど、皮はここで剥いでおいた方がいいと思う」

 「お安い御用だ!」

 「手伝いますよ!」

 「あ、俺も……」


 しかし、俺が手伝おうとしても役に立てることは無いかと肩を竦める。すると横からぬっとシュネがやってきて俺の頬を舐めた。


 『スミタカは指示と知識を与えればいいんじゃないかしらね? それだけで十分貢献できているし』

 「みゃー」

 「そうか? おお、キサラギ落ちるぞ」

 

 俺に飛び移ろうとしたキサラギを抱っこして胸に抱くと、母親を真似して俺の顔を舐めようと舌を出す。珍しいなと思いながら頭を撫でてやると、コテツも珍しく怒りながら俺に飛び掛かって来た。


 「ミルクの時間には早いけどなあ」

 『まあまあ。スミタカが大好きなのよこの子達』

 「ふふ、スミタカは優しいから」


 結局、俺にできることはお猫様と遊ぶことらしく、ネーラと共に伐採を見ながら子ネコを愛でる。少し時間が経ったのもあるけど、本当に元気になって良かった。

 

 そしてそこから数時間――


 「はっはっは! これくらいでいいかな」

 「おおお……ってやりすぎじゃないか!?」


 ――そこには100本近い丸太がずらりと並んでいた。高さはまちまちだけど、だいたい7~8メートルくらい平均だと思う。これだけあれば一軒くらいはできそうだ。


 「それじゃ、持って帰って組み立ててみるか」

 「お、おうー……」

 「?」


 しかし、切り倒す時と違い、今度は元気が無い。俺が訝しんでいると、ネーラが苦笑しながら俺に耳打ちをしてきた。なんだかんだで美人のネーラの顔が近いとドキドキするな……


 「兄さんとか一部のエルフしか力がある人が居ないのよ。だから持ち運びには消極的ってわけ」

 「なるほどな……なら少しずつ運ぶか。流石にこれは手伝うぞ」

 「助かるよ」


 ベゼルさんがテキパキとロープを巻いて引きずれるようにしてくれ、俺はその内の一本に手をかけながら口を開く。


 「ロープで引っ張るより丸太を転がしていくのもアリだと思うけどな」

 「それもアリかもしれないね。ただ、丘に出るまではどちらにせよ引かないとどうしようもないかな」

 「確かに。それじゃ、行くぞー……うわ!?」

 「スミタカ!?」

 「スミタカさん!?」

 「みゅー!?」


 ぐっと力を入れて一気に引っ張ると、重いと思っていた丸太が異様に軽く、俺は一気に丘まで飛び出す形になった。


 「あっぶね……! ふう……」


 たたらを踏みながら立ち止まると、後ろから慌ててネーラやベゼルさんが駆けつけて来たのがわかり、俺は振り向いて口を尖らせた。


 「この木、相当軽いんだけど家に使って大丈夫かな? こっちの世界の木って軽いんだなあ」

 「え? いや、そんなことは無いよ。ほら、私でもこれくらいしか持ちあがらない」

 「ええ? 俺が持った時はそんなこと無かったぞ」


 と、俺が丸太を持ち上げるとあまり抵抗なく持ち上がる。みんなが目を丸くする中、フローレが丸太に手をかけて反対側を持とうとするが……


 「んー! こ、これ無理ですよう!? なんでそんな簡単に持ち上げているんですか!?」

 「え? マジで……?」


 俺の言葉に全員がうんうんと頷く。どうやらからかっているわけではないらしい……一体どういうことだ……?

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