その29 エルフ達の毎日
「これは家屋の地図? か?」
「まあそんなもんだ。話が通じるのも不思議だったんだけど、聞いていると距離や時間の単位、実寸なんかは俺の世界と同じみたいだからこれで分かるかなと思ったけど正解だったな」
俺はいわゆるログハウスやコテージと呼ばれる宿泊施設の設計図をベゼルさんに見せた。昨今、インターネットがあればこれくらいはサクッと手に入る。コンパクトなやつなら何とか作れそうな気がすると思い昨晩、黛を送った後、探して印刷してきたのだ。
レンガやブロックは期待できないけど、木なら見渡せばたくさんあるし、今まで手を付けてないなら伐採してもそこまで生態系が狂うとも思えない。
「ふむ、これはいいな。正直スミタカにあげた家はマシな方で、人によっては枝の束で作っている家もあるからな」
「だろ? 木を切るのが大変だけど少しずつ家を作っていかないか? 冬、辛いんだろ」
「そうね!」
冬、というワードでネーラが即答する。今まで何とかしてこれたんだろうけど、その返事で如何に厳しいかということを物語っていた。
「そういえば向こうは二月で寒いけど、こっちはそうでもないな?」
「今は秋ですからね、これから寒くなってくるんです。その時はこう、身を寄せ合って……フフフ……」
「やめい!?」
薄目で体をぴたっと寄せてくるフローレを引きはがし、再びベゼルさんに話をする。
「もしやるなら手伝うし、道具を揃えてもいい」
「最長老と族長に話をしようか、道具はまあ何とかなるよ」
「?」
「これくらいなら何とかなるわよ」
「わたし、この家が欲しいです!」
「両親と一緒でも広すぎるわよ……でも、これはいいわね窓には何かつくのかしら?」
ベゼルさんとネーラの言葉の意味が分からないが三人のエルフは設計図を見ながら何とも楽し気に歩き出した。
子ネコはシュネが背中に乗せ、俺達は最長老の家へ向かう。途中、ベゼルさんが他に声をかけるからと一旦別れ、ネーラとフローレを連れて先に到着。
「こんにちはー、ミネッタさんいますか?」
「おお、スミタカか。入って良いぞ」
「お邪魔しますよ」
「よく来たのう、何もないところじゃがゆっくりして行ってくれ」
ゲームの村人みたいなセリフを言うミネッタさんに苦笑しながら、先ほど畑を作ったことを告げると、にこにこ笑いながら頷く。
次に家屋の話を最長老に言うと、興味深いと唸ってから設計図をみて口を開く。
「ワシらエルフは自然と暮らすことで最小限な生活しかせん。こういうものはやはり人間の知恵じゃのう」
「俺が考えた訳じゃないけどな。でも三千年前は人間と共存していたんだろ?」
「うむ。しかし、人間を恨むあまり人間の知識は捨てる者が多かった。そもそも当時も町で暮らさず森で似たような生活をしていたからの。で、その当時の生き残りは先日語った通り、ワシくらいしかおらん。だからエルフの生活は人間と出会う前に戻っただけ。気にするものもおらんというわけじゃ」
なるほど、と腕を組みながらミネッタさんの言葉に耳を傾ける。
悪い言い方をすればあまり成長をしない種族なのだろう。もしくは長寿故にゆっくり成長しているか、危機感が無いのか……もし人間とずっと共存していたらエルフそのものの存続が危うかったのではとも思える。
「なら木を切り倒すのは反対か?」
「いや、村をつくるときは切り開くからそこまで窮屈というわけではないから構わんぞ。新しい家はわくわくするしのう」
「俗っぽいな……」
「呼んだか?」
「うおおお!?」
「あ、おじい様……じゃなくて族長」
俺がミネッタさんさんに訝し気な目を向けていると、後ろから声がかかり俺は飛び上がるほど驚いた。見れば族長のウィーキンソンさんとベゼルさん、さらに比較的若いエルフの男女が控えていた。
「あれ? 族長あは分かるけど他のみんなは?」
「ベゼルから聞いたんだよ、新しい家を作るって話。俺達も手伝おうと思ってな!」
「そうそう、どうせ畑を耕すか木の実を取りに行くしかやることがないから楽しそうだと思ってね」
「うむ、家屋がキレイになれば子供達も病気になりにくくなるしな。ネーラとベゼルと共に私も手伝おう」
「おお、やる気満々だな……!」
意外なことに最長老以下、エルフ達はノリノリで家づくりに積極的だった。わいわい話している中、フローレが場を凍り付かせる一言を口にする。
「まあ、要するに暇なだけなんですけどね」
「「「……」」」
どうやら図星だったようだ。しかし、族長が咳ばらいをして話を戻す。
「今はそうでもないがオークやゴブリンといった魔物が襲撃してくるケースもある。その時、家が強固であるに越したことは無いから、協力するに決まっている」
「オッケー、なら木材調達からスタートだな。チェーンソー買ってくるか」
「ちぇーんそー? 大丈夫よスミタカ、とりあえず何人かで森へ行きましょう!」
「おおー!」
ちょっとちぇーんそーの言い方が可愛かったなと思いつつ、自信満々なエルフ達に首を傾げる俺。しかし、森行きは決定したらしく、口々に色めき立った感じで話しながら外へ出て行く。
そこでずっと黙っていたネコ達が口を開いた。
「みゅー……」
「みゃ!!」
「どうしたんです、お猫様?」
『お腹が空いたみたいね』
おっと、そろそろミルクの時間か。俺は外に出ると、サッと固形燃料をライターで燃やし、湯煎でミルクを温める準備をする。キャンプ道具大活躍だ。
「すまない、こいつらにミルクを作ったら行くぞ」
「兄さんには私から言っておくわね。みんな、待って!」
『ごめんなさいね』
「いいさ。急ぐものでもないしな。まあ待たせるのもアレだし、お前の背で飲ませながら移動でもいいか?」
『もちろんよ』
というわけで、ミルクを作った後シュネの背に乗って二匹にミルクを飲ませながら森へ向かう。一軒目は最長老の家かなと思いながら作業に入るのだが――
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