その24 エルフ村を想う


 「着いたぞ」

 「うう、冷たい……」

 「仕事だからな。会社でもそうだったろうが」

 「確かに……」


 駅のロータリーで車を止めて黛に降りるよう伝えると、直前で渋り始め今も拳を膝の上で握り頬を膨らませていた。俺は仕事をきっちり終わらせないと気が済まないタイプで、黛がご飯や飲みなどを誘ってきても、黛の仕事が終わっていなかったら終わるまで待つくらいはしていた。


 「じゃ、じゃあ、またお仕事が終わるころ迎えに来てくださいよー。まだ子ネコと遊び足りないんです。代わりに子ネコの名前の本を買ってきます!」

 「ほう、そんなものがあるのか……?」


 確かにそろそろ三毛猫とかサバトラとか言うのは可哀想な気がする。それに母猫も名前をつけてくれと言っていたし、いいかもしれない。


 「オッケー。今が……11時か、遅くなったな……多分16時過ぎには終わると思う。またメールで知らせるからここに戻ってこい」

 「わっかりました! ふへへ、夜、ふたりきり、自宅……」

 「まっすぐ歩けよ!? ……大丈夫か?」


 振り返り手を振る黛が気になるが、あいつもいい大人だ、たぶん大丈夫だろうと俺は車を発進させる。


 ということで、子ネコのミルク代、ひいては俺の食事代になる大家の仕事の時間になる。

 今日は自治体の人に話をするのと、周辺のチェックをする予定。基本的に管理会社の杉崎さんに任せてしまえばいいんだけど、最初だけは顔を合わせておいた方が後のトラブル対処が格段に楽になると親父に聞いたことがあるためこうして出向いているというわけだ。


 「建物はキレイに使ってくれているな。家賃も問題なしだし、この物件は大丈夫だな。さて、それじゃ自治会長さんの所へ行くか」


 補修が必要な家もその内出てくるだろうなあと思いながら、再び車を走らせ自治会長さんの下へと向かった。


 「親父さんがいつも自慢してたぞ、あいつは凄いやつだってな!」

 「はは、身内びいきは恥ずかしいですが……」

 「謙遜するなって、いい大学出てんだろ? でもまあ、大人しそうな感じは似てねえな。俺ぁあそこにアパートを建てる時、あいつと大喧嘩をしたんだ。お互い気が強いもんだから引かねえ引かねえ。あわや殴り合いになるかってとこまでいったぜ、ははははは。……寂しくなっちまったなあ」

 「……ええ」

 「まあ、あいつの息子なら悪いようにはならねえとは思うが、何かあったら言ってくれや。こっちも言うことがあったら遠慮なく言わせてもらうつもりだ」

 「分かりました。お時間をいただきありがとうございます!」

 「……おう、またな」


 自治会長さんは少し寂し気な顔で俺を見送ってくれ、車に乗り込む。時間は……15時半。アパートの見回りと資料の突合はそれほど時間はかからなかったけど、自治会長さんの話が若干長かったな……まあ、一度全部見回った後は、杉崎さんから情報をもらいながらやっていくので次に来るのは数か月後とかだろう。


 「ん?」


 そこでふと、進行方向にホームセンターがあることに気づく。


 「ホームセンターか……そうだ、エルフの家って結構ボロかったし、修繕道具でも買っていってやるかな」

 

 俺はこういう雑貨が置いている店は昔から好きで、無駄に工具とか眺めるのはちょっとした癒しだったりする。キャンプ用品もあるし、楽しいんだよな。

 

 「ノコギリと、金槌……釘も安いし買っとくか。斧は俺が磔にされたとき誰か持ってたから砥石でいいか。鍋とフライパン、包丁セット、後はバケツとかか? 水をどこから組んでいるか分からないけど……ホースも買うか」


 村に必要なものを考えて棚を見ていると段々楽しくなり、色々買い込んだ。時間を忘れて眺めていたせいで――


 「あ、忘れてた!?」

 

 本当に時間を忘れていた俺は慌てて車に乗り込み、駅のロータリーへ向かう。見ればメールと着信が入っており、時間は17時を過ぎていた。

 

 「すまん、遅くなった!」

 「もー、遅いですよう、可愛いボクがナンパされていたらどうするんですか!」

 「いや、それは……あるかも、しれんが……」

 「歯切れが悪い!? もういいですよ、ほら行きましょう! 夕食はボクが作りますからね」

 「お、いいのか?」

 「まあ、無理を言って迎えに来てもらいましたし、お礼ですよ」


 助手席で買い物袋を大事に抱えて鼻歌を歌っている黛に苦笑しながら家へと帰る。ちょっと遅くなったけど、子ネコ達にミルクを与えなければとリビングへ向かう。


 「みゅー♪」

 「みゃー!!」

 「すまんすまん、遅くなったな」


 寝ているかとも思ったけど、子ネコ達は元気でケージから出すとすぐにじゃれついてきた。サバトラは不満だったようで俺の指をかぷかぷと噛みついて抗議をしていた。


 「黛、遊んでやってくれるか? ミルク、作ってみるよ」

 「はーい! ほーら、猫じゃらしですよー」

 「みゅ……!」

 「みゃ!」


 黛の振る猫じゃらしを寝転がったり、ジャンプしたりして捕まえようと必死になる子ネコに癒されながら台所へ向かい、ミルクを作る。温度とかも大切らしいから、きちんと測ってからよーく混ぜる。

 明日はエルフの村へ行くかと思っていると――

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