その23 目ざとい後輩と癒しの子ネコ


 「いらっしゃいませー」 

 「おはようございますー」

 「どうも」


 朝食をレストラン・ベストで軽く済ませ、少し話をして時間を潰し、ペットショップに向かい、中へ入ると、この前のお姉さんが出迎えてくれた。


 「あら、お客さんこの前の! 今日はどうされました? ネコちゃんは元気ですか?」

 「その節はありがとうございました。で、今日はそいつらのミルクについて聞きたくて来たんですよ」

 「お姉さん、ちゃんと教えないとダメじゃないですか! この人、市販の牛乳を飲ませてましたよ!」

 

 俺とお姉さんが話す中、黛が人差し指を立て、割って入る。お姉さんは目をパチパチさせたあと、手を合わせて黛に返事をした。


 「あら、妹さん? 学校はお休みかしら?」

 「な……!? ボ、ボクは23歳です! 子供じゃありませんから!」

 「あ、そうなの? 小さくて可愛いから妹さんかと……」

 「ああああ……」

 「はは……」


 お姉さんは優しい顔でグサリと黛の心を貫いていく。そんなことはお構いなしに、お姉さんはミルクの棚に移動して話を進めていく。


 「お客さん、柴犬が欲しそうだったから動物に知識があるのかなと思ってまして、すみません」

 「いえ、とりあえず大丈夫ですかね?」

 「下痢とかしていなければ大丈夫ですね。ぐったりしたり寝たままだったりはしないですよね?」

 「元気いっぱいですよ! 朝、ボクも見てましたし」

 「なら大丈夫ですね! それじゃいくつかご案内させてもらいますね」


 と、そこから説明を聞いた後、黛はおろかお姉さんからも呆れた顔をされてしまった。というのも、子ネコの授乳は結構多いらしく、一日に6回~7回はあるらしい。俺は俺と同じ時間にしか与えていなかったのでお腹を空かせていたのではと言われた。


 「まあでも、そのおかげで下痢をしなかったと考えたら良かったのかもしれませんね。どうもありがとうございました!」

 「また来ますねー!」

 「お前は来ないだろ……」


 お姉さんに見送られ俺達は小一時間ほど物色して店を後にする。ネコ用ミルク缶をゲットしそれとおもちゃも買った。特に噛むためのおもちゃはあったほうがいいということで、魚の形をしたゴムっぽい素材のおもちゃを入手。

 歯磨きにもなるとかなんとか言っていたけど、黛が楽しそうに話しているのを何となく聞いていただけなので詳細は不明。しかし、害になるものではないと思うので問題はない。


 「いやー、楽しいですね。ボク猫も犬も好きなんですけど、親が動物苦手だから飼えなかったんです。でもこれからは先輩の家に行けばいつでも会えるんですね!」

 「いつも家にいるとは限らないけどな? お前も仕事だし、俺もエ――」

 「エ?」

 「エ……エビフライを作るのに忙しいしな」

 「なんですかそれ!?」


 ボクの訪問よりエビフライですかー! と、助手席で頬を膨らます黛をなだめつつ、危なかったと胸中で呟く。こいつの好奇心は底を知らず、面白そうなことには首を突っ込みたがる癖があるので異世界などいい餌でしかない。エルフ達だけでお腹いっぱいなので黛は勘弁して欲しい。


 「たっだいまー! 子ネコちゃん達ぃ、ご飯ですよー」

 「みゅー!」

 「みゃ!」

 「おー、よしよし」

 「……」


 ケージを開けると、両手を広げてウェルカム状態だった黛をスルーし、ソファに座った俺の足元に群がって来た。黛はとぼとぼと台所へ行きミルクの用意を始めた。可哀想だがこれが現実である。

 

 しかしそれでも、可愛がってくれる人は分かるようで三毛猫は黛の手にあるスポイトからミルクを大人しく飲んでいた。


 「みゅー♪」

 「ああんもう……」

 「変な声を出すな。とりあえず俺は今から仕事に行くけど、お前はどうする?」

 「んー、ここで子ネコちゃんと遊んでいても……」

 「ダメに決まってるだろ。出動が遅くなったから帰りもそこそこ遅くなるしな」

 「ご主人様は冷たいですねー?」


 俺がそう言うと、口を尖らせて三毛猫に話しかけていた。しかし家にすでに会社の後輩でなくなった人間を置いておくほど不用心ではないので諦めて欲しい。

 

 「それじゃ、街で平日のショッピングでもしようかなあ。土日は人が多いから出歩きたくないし、お仕事で疲れているから寝てるんですよ」

 「いいんじゃないか? ずる休みって訳じゃないし。それだったら途中まで送るぞ」

 「ありがとうございます! ……ん?」

 

 話がまとまりかけていたその時、ソファに腰かけていた黛が下を向いて何かに気づき、ソレをそっと摘み上げる。


 「……金髪……? それもかなり長い……先輩の髪じゃありませんよね? 知り合いに金髪は居ない……長さからして女性……まさか恋人!? だからボクを追い出そうと躍起に!?」

 「違う!? 俺に彼女が居ないのは知ってるだろうが。ちなみにいやらしいお店の人を呼んでも居ない」

 「くっ……」


 言おうとしていたのか、悔しがる黛にこれ以上考えさせるのはマズイと思い、俺は子ネコを奪いケージへと連れて行く。


 「それじゃ帰り支度をしろ、送っていくから」

 「えー、情報を――」

 「お前に話す必要はないだろう、そら行くぞ」

 「みゅー♪」

 「みゃー!」


 不服そうな顔をした黛の首根っこを掴み、俺達は再び外へ。子ネコ達がいってらっしゃい……いや、頑張ってねと言っているような気がした。さて、仕事頑張るか! 可愛い子ネコ達のためにもな。

 


 ……ミルク代、かさばるから…

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