その22 お買い物と知識不足


 「みゅー?」

 「みゃー!!」

 「おおおお……子ネコちゃん……! めちゃくちゃ可愛いぃぃ!」

 「みゅー!?」

 「みゃー!?」


 動くはた迷惑こと、黛がリビングに入るなり子ネコに突撃、【?】を浮かべて油断していた二匹はあえなく捕まり、黛の膝に乗せられた。

エルフにも驚かなかった子ネコがびっくりして毛を逆立てもがいていたので、俺は黛の手からいったん救出。


「あーん、何で取り上げるんですか!?」

「見ろ、驚いているだろうが。朝ごはんをやってないからサバトラは気が立っているし、引っ掻かれるぞ」

「みゃ!」

「んもう、かーわーいいー♪ 痛くないですよ子ネコの爪くらい! ほーら、こっちですよー」


 朝のテンションとは思えないくらい黛は床に膝と肘をついて手を叩く。三毛猫はオロオロしていたが、すぐに慣れて黛と遊び出した。


 「みゅー♪」

 「お前は行かないのか」

 「みゃー」


 サバトラはお気に召さないようだ。とりあえず話をせねばとパンツ丸出しの黛に声をかける。


 「おい、パンツ見えているぞ」

 「おっと……別に、先輩なら……いいんですよ?」

 「汚いものを見せるな」

 「酷い!? 君のご主人様はいつもボクに冷たいんだよー……えっと、名前は……?」

 「色々あってまだつけてないんだ。それで、課長がなんで様子を見に行けって言うんだよ、もう会社を辞めたんだし、気にすることでもないだろ?」


 俺はソファに座りながら床にべた座りして三毛猫を抱っこする黛に尋ねる。

 基本的に会社を辞めたらたまに連絡を貰えるかな、程度で家にまで押しかけてくることはないはずだ。


 「えっと、昨日はボクは早上がりだったから、ご飯でも一緒に食べようかなと思って来たんです。先輩、ラーメン三郎に行きたいって言ってたから!」

 「あー言ったなあ」

 「ですよー、行こうと思ったら辞めちゃうしびっくりしたんですからね! で、課長はお父様が亡くなって心身疲れているだろうから元気づけてこい、と」

 「……面白がってんな……」


 あの課長はそういうところがある。俺でも分かるくらい黛の好意は駄々洩れなので、会社を辞めた今なら社内恋愛じゃなくなるから焚き付けた、というところだろう。


 「ああ、それと忘れ物を届けてくれとも言ってました。これ、どうぞ」

 

 黛が持っていたカバンから出したのは給与明細だった。そう言えば今月の給料が出る前に辞めたから貰うタイミングが無かったんだよな。


 「サンキュー、何か忘れ物でもしたかと思ってたけどこれは納得だな。ありがたく受け取らせてもらうよ。時間は大丈夫なのか?」

 「はい! 今日は有休を取ったので大丈夫です。そう言えばどこか出かけようとしていましたか?」

 「ん? ああ、こいつらの朝ごはんのミルクを買いに行こうと思ってたんだ。俺も軽くなんか食って、その後は仕事だな」

 「あ、それじゃボクもついていっていいですか? 朝ごはん、まだなので」

 「折角の休みなのに、いいのか?」


 俺達がそんな話をしていると、子ネコ達が騒ぎ始める。


 「みゅー、みゅー……」

 「みゃー!!」

 「っと、朝ごはんの催促か。んじゃ、早いところ出るとしよう」

 

 俺が抱えてケージに入れようとすると、黛が指を口に当てて言う。


 「連れて行かないんですか?」

 「逃げ出しそうで怖いからな。もうちょっと大きくなったらにしようと思っている」

 「あー、確かに生まれてあまり経って無さそうですし、それがいいですね」

 

 俺は頷き子ネコをケージに入れてやると大人しく二匹でじゃれ合い始めたので今の内にと家を出る。


 「スーパーに行って、ミルクだな。後はどっかで朝定食でも食うか?」

 「うーん、子ネコちゃんが可哀想ですし、スーパーで食材を買いましょうよ。ボク作りますよ?」

 「そっか? 仕事があるから手早くでお願いしたい」

 「はーい」


 にこにこ顔で返事をするのを横目で見ながら俺は車のエンジンをかけて発車する。騒々しい時間から少し過ぎているので混雑には見舞われず、スムーズにスーパーに到着する。


 「二十四時間スーパーはありがたいよな」

 「なんでもありますしね。それじゃレッツゴー!」


 店へ入りカートに籠を乗せて進む。


 「あ、食パンいいですね。バターあります?」

 「いや、無いな。というか食材が全然ないからついでに買っておくかな」


 昨日のエルフたちにふるまった分の補充と、また何か作って持っていくかなと思いながら野菜や肉、魚を入れていく。そしてようやく子ネコのご飯がある場所へと到着する。


 「ミルクは何でもいいか。低脂肪乳とかの方がいいのかな? なあ、黛……!?」


 黛に意見を聞こうと振り返ると、そこには『マジかこいつ』みたいな顔をした彼女がいた。そして、俺に詰め寄ってきながら頬を膨らませて口を開いた。


 「もしかして先輩、子ネコに牛乳を上げていたんですか!? 成猫ならまだしも、子ネコはお腹が弱いんです。冷たいのは論外、暖かいものでも下痢を起こすんですよ! ああ、もう、あの子達大丈夫でしたか?」

 「お、おお……下痢は、してなかったな……じゃあどうすればいいんだ?」

 「もちろん子ネコ用のミルクを買いましょう! ペットショップに行けばありますから。今は……九時か……子ネコちゃんには申し訳ないですけど、あと一時間待ってペットショップに行ってから帰りましょう。ネコ博士と言われたこの黛 真弓がレクチャーしますよ!」

 「おー」


 中学生みたいな容姿で無い胸をどんと叩く黛に拍手を送ると、黛が目を細めて俺の顔を覗き込む。


 「……今、失礼なことを考えませんでした……?」

 「……全然、そんなことないぞ?」


 鋭い奴め。

 とりあえず食材だけ買って、俺達はレストランへと向かい朝食をとることに。にしても、ペットショップのお姉さん、教えてくれても良かったろうに……

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