素質十分?
<ぶふぅ……さ、これを使って>
「えー……」
<えー……、じゃないの! このままだと死んじゃうかもしれないわよ! 結愛ちゃんは良くても、大事な人が犠牲になるかもしれない>
「うう……」
確かにあんなのが町に出たらゆっちやちーちゃんが狙われてもおかしくないかも、と私は顔を顰めつつ、出てきた杖を受けとる。ほんのり暖かいそれは鉄なのかプラスチックなのか微妙な質感をしていて、先っぽに三日月のオブジェ、そしてその中にひし形をした緑の宝石があしらわれていた。
「キレイ……」
<それは私と戦った偉大な魔法使いが持っていた杖で、神精樹から作られたレア中のレアよ。私のお腹に刺して魔法を発動したんだけど、そのまま海に沈んだの>
「それでお腹から?」
<多分ね。あの勇者一行は強かった、船の上じゃなくて地上なら一方的にやられていたかも。とにかく話は後、その杖の力を使って変身よ>
どうやらドラゴンを倒せるほどの魔法使いが使っていた相当強力な杖らしい。どんな人が使っていたのか気になるけど、それ以上に驚愕の言葉にツッコミを入れる。
「変身!? そんな、小学生向けのアニメじゃないんだから」
<あれ? 女の子はみんな憧れているんじゃ? 向こうの世界だとなりたい職業トップよ>
「というか私、普通の女子中学生で魔法とか使えないし。これで殴るんじゃないの?」
私はもっともなことを言うと、ロシアンドラゴンは二本足で立ってから私に前足を向ける。
<大丈夫、私の能力に『感応』というのがあるの。私の力を杖を通じて結愛ちゃんに貸すことで魔法が使えるはずよ>
「はずって不確定だなあ。あんまり曖昧なのは好きじゃないんだけど」
<つべこべ言わない! 唱えて‟オラ・カチ・ニレワ”>
「はいはい……もうなんでもいいか……‟オラ・カチ・ニレワ”」
<うわあ、やる気ない感じ……。でも!>
ロシアンドラゴンの前足から見たことが無い魔法陣? みたいなのが浮かび上がり、私の胸に吸い込まれる。直後、私の体が光り出す――
「きゃあ!? な、なになに!?」
ひときわ輝いた後、眩しくなくなったので目を開けると、ロシアンドラゴンが飛び跳ねながら口を開く。
<よっしゃ! 成功! さあ、魔法少女ユメの誕生よ!>
「えっと、なにが……って、うわあ!? 服、服がなんか変わってる!?」
さっきまでのパーカーとキュロットだったのに、今はアニメとかでありそうな、波を思わせる蒼いドレスみたいなものに変わっていた。ローブみって感じのものも羽織っていて、とんがり帽子もセットなのでかっこかわいいんだけど……
「スカート短くない!? 私、ズボン派なんだけど……」
<若いんだから大丈夫よ! その服は魔法防御があるからちょっとくらいの魔法なら弾くわ。反撃と行きましょ>
「し、仕方ないなあ……」
ロシアンドラゴンが私の肩に乗って前足を振るので、私はドーム状の遊具から飛び出して空を仰ぐ。
『出てきたか! なんだその姿は……!? まさか魔法使いだったのか』
「臨時でね! あんたのせいだからぶっ倒させてもらうわ!」
『小癪な娘め……! しかし、魔力は高そうだな。血と一緒に吸収させてもらうぞ!』
「来る……! で、ここからどうするの!?」
<魔法を使うのよ! 頭の中に浮かぶはずだけど>
「ええ!?」
だから曖昧なのは嫌なのよ! ええっと……思い浮かべればいいの……?
急降下してくる大蝙蝠を警戒しつつ、目を瞑って魔法について考えると、
「なるほど、そういうこと! <
『なに!? っく……!』
<いいわねいいわね! どんどん行けー!>
ロシアンドラゴンに言われたように思い浮かべると、確かに今まで知らなかった言葉がつらつらと浮かんできて、その中で攻撃力がありそうなものをチョイスした。段階的には中くらいの威力みたいだけど。
『ならば……<灼熱の風>!』
「<氷鏡の盾>で……! んで<
『チッ……やるな、だが私は空中に居る。そちらの攻撃は躱しやすいが――』
「また魔法? 何度でもガードしてやるから! ……うひゃ!?」
『爆発の余波までは気が回るまい! そうそう魔法など撃たせんぞ』
「おっと!」
まったく、つまんないこと考える大蝙蝠ね! そっちがその気なら……
「とっとと倒すわよ、しっかり掴まっていてフレーメン」
<フレーメン?>
「あんたの名前よ、ロシアンドラゴン猫なんて呼びにくいし」
<気に入ったわ、いいわよ!>
『足を止めてから血を……なんだ?』
私は降り注ぐ火球を走って避けながら杖を両手に持って魔力を集中させる。力は貰ったけど魔力の無駄遣いは良くないので使う魔法は二つ、これでケリをつける!
<
『む……!? 羽!? 飛ん――』
魔力の奔流が全身に回り、一瞬で爆発させるように飛び上がると、私の背中にドラゴンのような羽がうっすら浮かび上がり空高く昇っていく。
大蝙蝠と同じ高度になった瞬間、溜めていた魔法を発動させる!
「<
『うおおおおおおぉぉ!? こ、この魔法はあの女の!?』
水竜巻と呼んで差し支えない激流が大蝙蝠を直撃し、身体をズタズタに引き裂いていく。恐らく現状使える最高の魔法。これで倒せるはず……!!
<まだよ!>
「え!?」
『小娘ぇぇぇぇぇ!!』
「きゃあああ!? こっちくんな!!」
『ぐへ!?』
水煙の中から、血まみれの大蝙蝠が突っ込んできた!? 私は驚いて咄嗟に持っていた杖でぶん殴る。
すると――
『あああああ……消える……馬鹿な、杖で殴られたくらいで……!?』
<そりゃ神聖な杖だからね、聖剣と同じくらい魔族特攻があるんじゃない?>
『そんな適当な――』
「消えた……こ、殺しちゃった!?」
<まあ、散々迷惑かけてくれたみたいだし大丈夫よ>
「うーん、言葉を解す生き物を殺すのはちょっと……」
<まあまあ、命の危険があったし結果オーライよ。……あ、魔力があのカップルに戻っていくわね>
舌をぺろりと出してウインクしながらフレーメンが私の頬をぺちぺちと叩く。とりあえず地上に降りようと思ったところで――
「なんだ、さっきの爆発音は……!」
「ん!? 空に女の子が居るぞ!?」
「げ!? 騒ぎを聞きつけた人!? に、逃げないと!? ていうかパンツ見える!」
<大丈夫、見せパンよ>
「そんなわけあるかぁぁぁ! あんた大丈夫しか言わないけど全然大丈夫じゃないんだからね!?」
とりあえずカップルが息を吹き返したのをチラ見した私は公園の木が多いところへと着地して、変身を解く。……とりあえず命の危機は去ったけど、喋る猫を連れて帰ったらなんて言われるだろう……気が重いとため息を吐きながら私は帰宅する。
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