神緒家の人々


 「いやあ、無事で良かった……」

 「ホント、大変だったわ」

 「おばさん、良かったよう……」


 母ちゃんからの電話で急いで家に帰ると警察や野次馬が沢山いて驚いた。

 空き巣が入ったらしく、危うく危ないところになるところになったとか……言葉が怪しいのは動揺しているので勘弁して欲しい。真理愛が母さんの背中にくっついて泣きそうな顔をしていた。

 ただ、母ちゃんは帰ってくる途中にウインドドラ猫を拾ってくるというミラクルを見せていたので流石と言わざるを得ない。とりあえず俺はリビングの窓を親指で指しながら言う。


 「窓修理に来るのは明日だっけ? 俺は学校だけど誰が残るんだ?」

 「上司に言って私が休みを取ったわ。まあ、ことがことだけに休ませてくれたわ。さて、私のことはいいとして、これで後一匹ってところかしら?」

 「だな、結愛と真理愛でファイヤードラ猫とアースドラ猫、それとウインドドラ猫の名前を付けてもらおうな」

 <頼む。何故かドラ猫って響きが凄くむかゆいんだ……>

 「毛を刈っちゃったからかなあ?」


 多分違うが質問攻めをされるのも面倒なので黙っておく。

 これで火・土・風・雷・氷・皇の6体が揃ったので、後1体。水ドラ猫だけである。この調子ならトントン拍子で見つかるんじゃないか?


 「そういや結愛のやつ遅いな」

 「久しぶりに友達と遊んでいるからかも? 夕飯までまだ時間あるし」

 「ま、それもそうか。そんじゃ、今後のことでも話しておくか?」

 <ふむ、そうだな>

 <スメラギの旦那が居ないけど大丈夫ですかねえ>


 ぞろぞろと俺の周りに猫達が集まり、あっという間に猫まみれになった。

 

 「あ、いいなあ修ちゃん!」

 「暑苦しい……。お?」


 俺が猫まみれになってソファで眼を細めているとと、玄関の鍵が開く音がして結愛が帰ってきたことを告げる。

 すぐにドタドタと足跡が聞こえ、リビングへと結愛が入って来る。


 「ただいま! あのね……って兄ちゃんが猫マスターに!?」

 「うるさいぞ結愛、俺だって好きでまみれていない」

 「猫だけにキャッと驚いたわ。……ていうか猫、ちょっと増えた?」

 

 割とどうでもいい感想を聞いていると、真理愛が結愛の手にあるものを見て声を上げた。


 「あー! 結愛ちゃんも猫を抱っこしているよ!」

 「おかえり結愛、猫もそうだけどその杖はどうしたんだ?」


 親父の言う通り、結愛が杖を背負っていた。

 なんか見たことあるような……そう思っていると、結愛が口を開く。


 「あ、あのね、この子もお家で飼っていいかな? 色々あって拾ってきたんだけど……あと、ちょっと不思議な猫なの」

 「不思議?」


 母ちゃんが首を傾げると、結愛の手からロシアンブルーの猫が地上に降り立ち、前足を組んでドヤ顔をする。


 <私から説明するわ! この町にはびこる魔族から身を守るため魔法少女になってもらったの>

 「ちょ、ちょっとフレーメンいきなり喋らないでよ。みんなびっくりす……」

 <おお、アクアドラゴンかお前?>

 <なんだ、もう見つかったんですね>

 <結局全員猫なのか……なんでだ?>

 <お前が最後だ>

 「猫が喋ってる!?」

 「落ち着け、お前も喋る猫を連れて来たんじゃないか」

 「あ、そっか。というかなんで……?」


 結愛が俺達の顔を見て首を傾げる。

 なんではこっちの言葉だが、こうなっては説明せざるを得ないかと両親に目を向けると盛大なため息を吐いていた。


 「まさか結愛が巻き込まれるとは……実はな」

 「マジで!?」

 「まだ何も言ってないだろ!? でだ――」


 ということで家長である親父に説明してもらう。

 最初は緊張な面持ちで聞いていたが、だんだん結愛の表情が愕然としていき、首を振る。


 「……じゃあ、あの大蝙蝠は兄ちゃんたちが倒そうとしたやつか……」

 <あー……勇者一行の転生家族だったのね……そりゃ素質あるわ……>

 「よく見ればこの杖、やっぱり私のじゃない。アクアドラゴンと一緒に海に沈んでいたから回収できなかったのよね」

 「これがあればカイザードラゴンとの戦いで遅れは取らなかったのよねえ。それじゃ返してもらうわね」

 <ええっと、できれば若い子に使って欲し……>

 「あ?」

 <すみませんなんでもありません>

 

 母ちゃんにタブーをしかけたアクアドラ猫ことフレーメン。

 そんな彼女(声からして)の肩に前足が置かれる。


 <奥さんに逆らうのはやめとけ……>

 <あんたは?>

 <ウインドドラゴンだ……また死ぬ羽目になるぜ……>

 <逆らわないのが賢明ね>


 何故か母ちゃんを見て酷く震えるウインドドラ猫の言葉に、悟るフレーメン。

 まあこの家で母ちゃんを怒らせたら生きていけないので野生の勘というやつなのだろう。


 それはともかく――


 「……これでドラゴン全員が揃ったか、反撃の糸口の一つができたな」

 「そうだな。後は『扉』の開き方を調査か」

 「そこは仁君がアテになる人物を知っているらしいから頼もうと思う。……忙しくなるな」

 「知られちゃったけど、結愛はここに残るのよ?」

 「え、でも一家総出で行った方が良くない? 私も魔法を使えるし」


 使えるのか……まあ母ちゃんの娘なら素質は絶対あると思うけど。


 「大丈夫だよ結愛ちゃん! わたしが修ちゃんと一緒に行くから!」

 「おめーも残るんだよ!」

 「ああ、痛いよ!? そんなあ……」


 馬鹿め、連れて行けるわけないだろうが。とりあえず八塚や若杉さんに報告しないといけないな。

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