結愛、頑張らされます!?


 はぁい! 私、神緒 結愛、中二! 厨二じゃない中学二年の14歳!

 今日は友達と一緒に遊びに行っていて、いつものように公園に近道をしたの、そしたら――


 『おのれ……あと一歩というところで……!』

 <魔族がどうしてこんなところに居るか分からないけど、この世界にあんたの居場所はないわ>

 

  ――大蝙蝠とロシアンブルーの猫が流暢に喋っているところに出くわしましたとさ……なんなのよこれ!? 夢……? いや結愛は私だけど……

 

 「あんた達一体何なの!?」

 <大丈夫、あなたの味方よ!>

 「いや、猫が喋っていることに驚いているんだけど! ……きゃあ!?」

 <危ない!>

 『チッ、ちょろちょろと……!』


 私と猫が言い争っているところへ大蝙蝠が奇襲をかけてきたけど、私に噛みつく前に猫が顔を切り裂き再び上空へ逃げていく。蝙蝠も喋ってるし、なにがなんだか分からない……こうなったら!


 「え、えへへ……じゃ、じゃあ私はこれで……帰りが遅くなるとお母さんに怒られるんでっ!」

 『む!』

 <あ、ちょっと、危ないわよ!>


 36系のぞみ320号、逃げるにしかずってね! あのカップルにはごめんなさいだけど、私も命が惜しいし!


 『逃がさぬぞ!』

 「ってなんで追いかけてくるのよ!!」

 『生娘の血をいただき、力を蓄えるのだ!!』

 「うわ、卑猥!」

 『なんとでも言うがいい、私は奴らに借りを返さねばならんのだ……!』


 速い!? 弱っているような気がしたけど大蝙蝠は近づいてくる。この前の幽霊といい、この公園呪われてるんじゃない!?

 

 <そこのあなた、一旦茂みに隠れるわよ!>

 「……! 仕方ないか!」

 『チッ……』


 ヘッドスライディングで前足を振っている猫のところへ飛んでいく。理由としては公園の植栽に微妙な高さなものがあり、大蝙蝠がそこへ入り込むのが難しいから。

 

 「ほっ!」


 そのまま前転して体勢を立て直すと、中腰でドーム状の遊具の中へと逃げ込んだ。


 「ふう……とりあえずこの中には入ってこれないわね」

 <考えたわね>

 「『考えたわね』じゃないから。って、なんで喋れるの?」

 

 私は抱っこして顔を目の前にして尋ねると、女性の声をした猫は肩? を竦めて首を振る。


 <私は元々この世界の者じゃなくてね。その世界ではドラゴンだったの、勇者に倒された後は意識がぷっつり切れて……気づいたらこの姿ってわけ>

 「ドラゴン、ねえ……」


 どこからどう見てもロシアンブルーの猫だけど、喋れるし知力も高そうではある。まあ、それはどっちでもいいとして、


 「どうやって逃げるかが問題ね」

 <あのカップルを助けなきゃ! あなた名前は?>

 「え? 結愛よ、神緒 結愛。あんたは?」

 <私は野良猫だから名前は無いの。猫になる前はウォータドラゴンって呼ばれてたわ。それよりこのままじゃあいつは諦めない、打開するため力を貸して>


 じたばたと手足を揺らしながらもがくウォータドラゴンと名乗る猫に訝し気な目を向ける私。

 とはいえ、幻聴で無ければしゃべる猫という奇想天外な存在がいるわけもなく信じてもいいんだけど……


 「力を貸すって言っても私って普通の女子中学生よ? 武器もないし……。あ、兄ちゃんとかお父さんを呼ぼうか?」

 <それでもいいわ>


 しかし――


 「つながらない……なんで『おかけになった番号は電波の届かない』のアナウンスが流れるのよ……お父さん、もダメか」


 スマホを取り出して兄ちゃんとお父さんに連絡するも何故か電波が届かず通信不可能。お母さんに電話をしたけど、繋がらず。


 「もう、肝心な時にっ!? ここは待つしかないか……」

 

 何度かかけ直せば少なくともトゥルル音はするお母さんが気づくはず。スマホを見つめながら考えていると、ロシアンドラゴンが前足を私のつま先に置きながら喋り出す。


 <こうなったらあなたにアレを倒してもらうしかないわね>

 「はあ!? いやいや無理だから……私は普通の女子中学生、戦う力なんてないのよ。大人しく待っていたらあいつも諦め――」

 『出てこい……!!』

 「うひゃあ!? ば、爆弾!?」

 <火の魔法ね、その内この中に撃ちこんでくるかも……>

 「な、なんとかできないの!? まだ死にたくないんだけど!」

 <うぐ……し、死ぬ……!? さ、策はあるわ……>


 ロシアンドラゴンの首を緩めて地面に置くと、


 <結愛ちゃん、あなたには今から魔法使いになってもらたいの>

 「はあ……?」


 意味が分からないことを口にした。

 魔法使い? 私が?


 <この世界だと魔法少女かしら? 商店街のてれびで見たけど>

 「そんなお子様じゃないわよ……痛かったりしない?」

 <大丈夫、ちょっと杖を持ってもらうだけです>

 「何故急に敬語に。分かった、嘘くさいけどのってやるわ!」

 <よしきた! ‟ロデ・アレ・イゴス”>!!

 

 何やら両前足で天を仰ぎながら呪文のようなものを唱えると――


 ズズズズ……


 「気持ち悪い……!?」


 ロシアンドラゴンのお腹から杖が飛び出して来た!

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