母ちゃんの策


 新しいメンバーの加入やブランダが目を覚ましたなど、イベントが目白押しだが俺達のやることはただ一つ。そのための行動として母ちゃんの引率により、俺達はブランダの居た公園に来ていた。


 「……暗いわね」

 「街灯はあるけど、夜中に来るもんじゃないな」

 「ふみゅ……眠いよ……」

 「家に居れば良かったのに」


 スメラギを抱いた八塚と、俺の袖を引いている頭を揺らしている真理愛に挟まれる俺という図式だが、今日のメインは俺ではなく――


 「さ、それじゃカイザードラゴンになってもらおうかしら」

 <うむ。それはいいが母殿、こんなところで戻って大丈夫だろうか?>

 

 いつも戻りたいと願っているスメラギが気を遣うくらいには公園という場所はまずいと俺も思う。だいたい5メートルくらいになるため、夜中とはいえ結構目立つと思うんだけど……


 「まあ、大丈夫よ。考えてあるわ! ……というか若杉警部に頼んで人避けをしてもらっているのよ」

 「ああ、そういうことか。じゃあ警官が徘徊しているのか……」

 「ええ。万が一見つかっても映画の撮影ですとでもいえば大丈夫よ」


 べたな言い訳だなと思うが、それよりも気になることがあったので俺は母ちゃんに尋ねる。


 「というかその恰好はなんだ、母ちゃん」

 「ん? 懐かしいでしょ、向こうに居た時の服を再現してみましたー」

 「あ、そういう服を着ていたんですね」

 「水守ちゃん……ふあ、可愛い……」

 「んもー、真理愛ちゃんは正直ねえ! いい子いい子!」

 「えへー……」

 「怜ちゃんはまだ記憶が戻らないみたいだけど、大魔法使いのミモリよ」


 そういえばこういうフリフリなロングスカートを穿いていたような気がする。しかし死んだあの時はまだ23か24歳くらいだったから良かったけど、今の母ちゃんは22で俺を産んだと言っていたから38歳……流石に痛い!?


 「なにすんだ母ちゃん!?」

 「今、良からぬことを考えていた気がしたのよ」

 

 何も言っていないのに杖で頭をはたかれて悶絶しながら、考えれば勘の良さや意味深な言葉はそういうことだったのだと胸中でため息を吐く。


 「さて、それじゃよろしくね修」

 「……ったく。来い、セイクリッドギルティ!!」

 <うおお……!!>


 俺が手を空に掲げて聖剣を呼ぶと、スメラギが地面に着地して二本足で立ち前足を掲げる。次の瞬間、スメラギの口から剣がゆっくりと現れたので、俺はグリップを握りスメラギという【鞘】から抜く。

 すると、公園の木と並ぶほどの大きさになったドラゴンが眼前に立った。


 「おー、やっぱりでかいわね! そのまま待機ね」

 <承知した。やはり元の姿はいいな>


 尻尾をパタパタと振る姿は猫と変わらん気がするが言わないでおいてやろう。それよりこの後、何をするかの方が重要だ。


 「で、ここからどうするんだ?」

 「まあ、そんな難しいことじゃないから大丈夫よ。あんたはスメラギちゃんの頭に乗って聖剣を掲げてから魔力を放出して。やり方はわかる?」

 「まあ、なんとなくでよければ」

 「それでいいわ。後は私がやるからね」

 

 そう言って<飛翔ライトウイング>を使って少し浮くと、八塚と寝ぼけまなこの真理愛が感嘆の声を上げた。


 「わー! 凄い、飛んだ!」

 「すごぉい……! ところでわたし達はなにをしたらいいのかなー? あふ……」

 「あなた達ふたりは賑やかしだからなにもしなくていいわ。応援とかしてくれたら嬉しいかもね」

 「え……」


 八塚がポカーンとした顔で呟くが、俺と母ちゃんはスメラギの頭上へと昇っていき、俺はスメラギの頭に着地し、母ちゃんは空を飛んだまま並ぶ。


 「それじゃ、頼むわよ」

 「ああ。……ハッ!!」


 剣を掲げて魔力を込めると、俺を中心に魔力の波動が広がっていき、それはオーロラのようにも見える。そこで母ちゃん杖を両手で握り――


 「……<過去から現れ未来へと紡ぐ者。果てから巡り、彷徨える記憶の糸を手繰って目覚めよ、全ての因果を切り裂かんがために>!!」

 「……!?」


 母ちゃんが【呪文】を唱えると俺の魔力に呪文が乗り、周囲へと広がっていく光景へと変わっていく。マジでちゃんと能力を取り戻しているんだな……!

 この魔法はゾンビ達を還すものとして使っていたもので、眠りの病を目覚めさせたりと相手の『精神』を強く揺さぶる魔法なのだ。

 

 「確かにこれならまだ目覚めていない 魂を揺さぶることができるかも……!!」

 「でしょ? ちょっと強引だけど、急ぎだから仕方ないわ」


 そして――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る