「話し出したのか、親父と母ちゃんに尋問されていたんだよな」

 「ああ、取調室を提供したんだけど……うん、僕は神緒君のご両親にプライベートで逆らっちゃダメだと思ったよ」

 「あー」

 「な、なんです、そんなに怖いんですか」

 「『向こう側』でのバリアス……親父とによる野盗に死ぬかどうかギリギリの制裁と、母ちゃんの言葉による精神攻撃が激しかったぞ、自分から殺してくれって言うくらいだ。今だと……そうだな、お前が娘だったとして繁華街に居たら一晩は説教だ」

 「ひぃ!?」

 

 向こう側の親父の拳は重かったからなあ……体格は今よりも大きかったし、拳は岩石みたいだったもんな……。俺が当時のことを思い出して身震いしていると、若杉さんが話を続ける。


 「ま、まあ、そこは言及しないでおくよ。二人の名前は割愛するとして、向こう側への扉はランダムじゃなくてやはりいくつか固定されているものがあるらしい。通るには魔力を一定以上必要で、常人の魔力だと何十人もの人間を『犠牲』にする必要がある、と」

 「まあ、フィオとエリク、ブランダが苦しんでいたから分かるけど、向こう側だけで解決できないものなのかな……?」

 「どうやら、この町に『聖女』が居ることは分かっているから、エリク君達をわざと残してこの町にいつでも来れるよう痕跡としているみたいだ」


 ということは、元々餌にする人間と報告する国王側の人間を選定していたってことになる。母ちゃんの見立て通り『電池』というわけだ。

 幸いというか、この世界でも魔力はあるし魔法も使える。もしかすると、行動を起こす前に何度か調査していたのかもしれないな?


 「他には?」

 「ああ、この町にある扉は三つあると言っていたな。ここから一番近いのは黒咲山になるかな?」

 

 黒咲山は山とついているがそれほど高くなく、どちらかといえば丘に近い。森のように木が生い茂っているのでそこを拠点にされたら確かに目立たない。


 「決まりだな、俺達が向かう先は黒咲山だ」

 「僕もそれでいいと思う。ただ、行く人間の選定とその猫達のようなドラゴンが全て見つかるまで手は出さないで欲しいと君のお母さんから言われている。まずはドラゴン探しからだね」


 若杉さんがひと段落してお茶を飲むと、スメラギが前足を顎に当ててから口を開いた。


 <とりあえず三体は揃っているから残り四体か。フレイム、ウインド、アース、ウォーターだな>

 <ですねえ。みんな猫だったら笑えるんですが、流石に犬とか? あ、もしかしたら人間になっているやつもいるかも>

 「まあ、そこは探してみないとじゃないですか? 虱潰しに探すんです? 全部いる確証もないんですよね」


 羽須がスリートを俺の頭から引きはがして抱っこしながらそんなことを聞いてくるが、先ほどスメラギにも言ったことを教えてやる。


 「ウチの母ちゃんが方法を考えるているらしいから金曜の夜まで待ちだな」

 「おお、警察お墨付きの深夜徘徊……!」

 「羽須さんはダメだからね? この前の繁華街での件で親御さんに注意してもらうよう言ってあるから」

 「なんと!?」

 

 ショックのあまり膝から崩れ落ちる羽須だが、当然の処置である。そこで部室の扉が開き、元気な声が部屋に響き渡った。

 

 「こんにちはー! あ、修ちゃんやっぱり先に来てたんだね!」

 「おう、真理愛。それに八塚も一緒か」

 「お疲れ様、修君。スメラギも退屈だったでしょ?」

 <大丈夫だ、スリートも居たし会話には事欠かない>

 

 真理愛と八塚も部室に来て、俺達に挨拶をしながら机に鞄を置く。


 「今日はどうする?」

 「うーん、今は向こう側の仕業だと思われる噂もないし、少ししたら解散でいいかも。ところで何を話してたの?」

 「神緒君には繰り返しになるけどもう一度話そうか――」


 そう言って若杉さんは真理愛たちに先ほどの話をし、続けて例のキャバ嬢殺人の犯人について語ってくれた。

 なんでも恋人だった人が嘘をついて働いていたらしく、清純だと思っていたことを裏切られたことでの犯行だったとのこと。

 最初の犠牲者はその恋人で、次は繁華街をフラついてた時に肩がぶつかったキャバ嬢の態度が悪かったとかで、最後に真由ちゃん達を殺害したのは『キャバ嬢は皆殺しにしなければ』という衝動に駆られて弱そうな親子を狙ったのだ。

 短絡的で身勝手な犯行で四人を殺しているので恐らく死刑。良くて終身刑だろうが、精神に異常をきたしていると弁護側が言っているようだ。若杉さん達は必ず厳罰処分にすると憤りを感じていた。


 ……それでも亡くなった人は戻ってこない。『向こう側』なら蘇生魔法はあるが、聖女であるカレンしか使えるものを見たことが無い。


 「誰が向こうへ行く、か……」

 「どうしたの修ちゃん? これ、美味しいよー!」

 「なんでもない。というかスメラギ、俺の分まで食うな!?」

 <早い者勝ちというやつだ>


 真理愛や霧夜、八塚は行かせられないなと思いながらひと時の平和を楽しんだ。



 ◆ ◇ ◆

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 魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~


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