新しい仲間……?


 「兄ちゃん、ウルフはー?」

 「母ちゃんの部屋に居るぞ、学校行く時間だから帰ってからにしろよ」

 「んー、あの子洗ってあげたら毛がふわふわになったから行く前にモフりたい……」

 「帰ってからいくらでも……ん?」

 「にゃーご」

 「あ! ウルフ! 見送ってくれるの? ふかふかだ……行ってきまーす!」

 「サービスいいなお前」

 <……これくらいお安い御用だ、生き延びれたのはお前達のおかげだしな>


 ニヒルな元サンダードラゴンは前足を毛づくろいしながらそんなことを言い、俺も一度だけ頭を撫でてからスリートと一緒に家を出た。


 ハーキュリアを倒したあの夜から一週間が経ち、俺達はとりあえずの日常に戻っていた。……あくまでも表向きは、だが。

 

 いくつか変わったことがあり、ひとつはウルフはスメラギに似ていると思っていたのだが母ちゃんが手入れをしたところスメラギとは比べ物にならない柔らかい毛になった。

 猫種が違うのかもしれない。顔つきは似ているんだけど……。まあ、それはともかくなんとか一匹で家の中をウロつけるくらいには元気になり、先ほどの通りスマートなスリートよりも結愛が物凄く可愛がっている。


 次にブランダ。

 彼女はようやく目を覚まし、話が出来るほどになったのでフィオとエリクと共に会いに行ってみたところ『置いてけ堀』で出会った幽霊のような人ではなく、少しおどおどした感じの女性だった。


 「あ、あの、助けていただいてありがとうございます……フィオ、エリクも無事だったのね……良かったわ。もぐもぐ……」

 「ブランダさんも。だけど、私達はあまり喜んでいられる状況じゃないんです」

 「え、ええ。ここは医療施設みたいだけど、こっちの世界の人に捕まったんですものね……ぱくぱく……」

 「とりあえずそのどんぶり一杯のかつ丼を食いきってからにしようか」

 「はい! 美味しい……はぐはぐはぐはぐ――」


 食欲の化け物となった彼女の歳は24歳。

 フィオ達とはこの『依頼』で初めて顔を合わせたということで、この世界に放り出された後、八塚の誘拐をしたのもこの人なんだそう。


 「私は精神系の魔法を使えます。なので、使用人に催眠をかけてさらわせました……生贄と分かっていながら……申し訳ありません。謝って済む問題ではありませんから、極刑もなんでも構いません! でっも最後にこのカツドンをもう一杯……その後になんでも罰を受けます」

 「まあ、結果論だけど八塚も助かったし、本人も気にしていないからいい。それより、俺達は向こうの世界へ渡るつもりなんだ、それに協力してほしい。国王を裏切ることになるから、それがお前の罰ってことで」

 「……分かりました。こちらの世界の人は野蛮だと聞いていましたが、全然そんなことありませんでした。騙されていたんですよ、私達は。私みたいな人を出さないよう、なんでもやります……」

 

 ブランダはそう言って握りこぶしを作り、決意の表情で俺達を見渡すと、宇田川さんが咳ばらいをして口を開く。


 「あー、修。ブランダはまだ病み上がりだ、今日はそれくらいにしとこうぜ」

 「ん、そうだな。それじゃあ、なにか頼みがあれば来るよ」

 「は、はい!」

 「それじゃあ行った行った」

 「え? 宇田川さんは?」

 「俺は……ほら、警護をしないといけないから」

 「いや、他に……あ、シュウ兄ちゃん、フィオ、なにするんだ」


 エリクが問い詰めようとしたが、俺とフィオは苦笑しながらエリクの両脇を抱えて病室から出ていく。

 ……まあ、宇田川さんの気持ちも分かる。きちんと飯を食ったブランダは物凄い美人で、性格も穏やかなので同年代の宇田川さんには刺激が強いのだろう。


 そして最後にスメラギだが――


 <……>

 「まだ不貞腐れているのか?」

 <また猫になった我にこの気持ちは分かるまい>

 「いや、スリート達はそもそもドラゴンにすらなれないんだから、たまに戻れるならいいじゃないか」

 <むう>

 <まったくでさ。スメラギの旦那は贅沢ですぜ>


 ブランダのところへ行った次の日、放課後の部室にて俺の膝であくびをするスメラギの前足の肉球を抑えながら諭していると、頭に乗っているスリートに文句を言われていた。ウルフは家で留守番である。

 しかし、母ちゃんいわく、ドラゴン探しにはスメラギの協力が必要だという。


 「なんか今度の金曜日、それも夜にお前を貸してほしいって母ちゃんが八塚に連絡してたぞ」

 <ほう? 我をか? なにか用があるのだろうか>

 「俺も教えて貰ってないから金曜日まで待つ感じかな。今日は霧夜は用事があるとかで珍しく先に帰ったし、若杉さんや真理愛、八塚待ちだな」

 <俺は早く帰って妹ちゃんにブラッシングして欲しいぜ……>

 「ま、今日は特になにもないし、ゆっくり――」


 と、俺が言ったところで部室の扉が激しく開いた。


 「こんにちはー! あなたの町のアイドル、羽須ちゃんがやってきましたよ!」

 「おお、そうだった。お前もこの部活に転向したんだった。忘れてた」

 「扱いがぞんざい!?」


 そう、こいつも事件調査部へ入部したのだ。

 正直、なんの役にも立たないと思うけど勝手な行動をされるよりはまだ目が届くということで八塚が提案したという。


 「こんにちは。おっと、二人だけかい? 宇田川は?」

 「ブランダさんのところじゃないですかね」

 「あいつは……呼んでおくか……。とりあえず先に神緒君には伝えておくよ、あの二人、ようやく色々と話し始めたよ」

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