過去に引き傷られる現在
『この先』のことを成さねばならない。
それが国王を倒すこと、というのが母ちゃんの弁だが、確かに俺達は国王に騙されてドラゴン達を討伐し、果てはカイザードラゴンと戦って生涯を閉じたから言い分は分かる。
とりあえず聞いてみるかと耳を傾けてみると、まず両親は自分達のことを語り出した。
「私達の記憶が戻ったのは高校生くらいだったかしら?」
「ああ。それで水守と出会ったのは大学の時だったんだが、お互い顔を合わせた瞬間『そうだ』ってのがすぐ分かった。それから過去のことをすり合わせをしつつ卒業後に結婚した」
「ロマンチック……なのかしら? ピンと来たってやつですか?」
八塚が正座をして尋ねると、母ちゃんは嬉し恥ずかし……という顔ではなく、神妙な表情で八塚と俺を見ながら語り出す。
「そうだと思いたいんだけど、どうも仕組まれているような感じを受けるのよね。あ、言っておくけど修は拾った子とかじゃなくて正真正銘ウチの子よ?」
「ちょ、やめろよ母ちゃん!? あ、親父、頬ずりしたら口きかねえからな!?」
「お、おう……まあ、偶然にしちゃできすぎなわけで、俺は向こうの世界で死んだ戦士『バリアス』で大魔法使いのミモリと記憶を取り戻し、結婚。そして生まれた子は元勇者で、同級生に聖女が居る。すでにこの時点で麻雀なら跳満確実なくらい出来過ぎているが――」
<む?>
そこまで言って親父は一旦言葉を切って、ドラゴンに変貌したスメラギを眺めた後に話を続ける。
「――このドラゴンが居ることで役満になった。修が拾ってきた猫も、お嬢さんが膝に乗せているそいつもドラゴンみたいだし、恐らく残りもこの町に居るだろう」
「もう、離れてくれよ母ちゃん……。結局なにが言いたいんだ?」
「これはなんらかの意思が働いている、そう思っているわ」
なんらかの意思……だけど、そんなことが出来るのだろうか? そこでふと俺が握っていた剣に目をやった瞬間、ハッとなって声を上げる。
「ま、まさか……聖剣の女神!?」
「……気づいた? その可能性は十分に考えられるわ。それが善意か悪意かは分からないけど、こうして魔法も使えるしね。それでさっきの『成す』べきだと言った話に戻るわね、国王の件だけど実は昨日までそんなことは思ってなかったのよ」
「へ?」
「実は誘拐事件の時も、怜ちゃんの誘拐事件もフィオ達が暗躍していたのは把握していてな。後は俺達が知られないようどうやって解決に導くかってのを考えていた矢先にスメラギとお前がやらかしたってわけだ」
親父がやれやれとため息を吐きながら笑うが、俺達は息を飲む。
「あの時は重傷者が居たけど解決できたから良かった。けど今回は明らかな死者が出た……『向こう側』が干渉してきても、追い払えばいいと思っていたけどこれはもう許せないわ。諦めるかと思いきや、魔族と手を組んでいるとかどうしようもない」
「俺達にドラゴンを倒させていたのもこっちの世界に干渉するためだったことを考えると、ついでに懲らしめてやろうって思ってな」
「ど、どうするつもりなんです?」
宇田川さんが信じられないと言った顔で尋ねると、母ちゃんはにやりと笑い俺達に告げる。
「知れたこと、私達が向こうへ行くのよ」
「な!?」
さらりと、とんでもないことを――
◆ ◇ ◆
『ふうん、さすがに察しがいいわね。そう、あなた達はこの世界に戻ってくるの……魔族と魔王を亡ぼしに。あの人間の王にはしてやられたからね、神託で復活することを告げたのにまさかこんなくだらないことをするためにドラゴンと相打ちにさせたとか無いわ』
白いローブを着た女性が真っ暗な空間で親指の爪を噛みながら忌々しいとばかりに目の前にある玉に目を向ける。そこには武道場で話し合う修達の姿が写っており、会話の内容に満足がいった女性は映像を消してから微笑む。
『ま、いいでしょう……さあ、戻ってきなさい勇者一行にドラゴン達。私の平和な世界を構築するためにはあなた達が必要なんですから!』
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