一時の解決
「ど、どういうことだ母ちゃん? 大魔法使いって……ミモリってまさか、ミモリなのか……?」
動揺を隠しきれない俺に母ちゃんが口元に笑みを浮かべて俺に答えてくれる。
「そうよ、あんたの母ちゃんは前世で一緒に旅をして、時を同じくして死んだ大魔法使いよ。久しぶり……というのも変な話だけど」
「う、嘘だろ……記憶があるってことだよな? いつから……」
「その話は後、今は魔族の灰をなんとかしないとね」
俺の呟きに母ちゃんは唇に指を当ててそう言い、呆然としている宇田川さん達のところへ歩いていき、俺はハーキュリアの灰へ近づいていると母ちゃんが話し始めるのが聞こえてきた。
「宇田川さん、私は修の母で『向こう側』の記憶を持つ者です」
「え? あ、はい……修君も知らなかったようですが……」
「ええ、本当なら話すつもりは無かったんですが――」
なにやら事情があるらしいが、父ちゃんはどうなんだ? 結愛は? 俺が母ちゃんに視線を向けていると、足元の灰が空中に舞い上がり形を成していく。
「なんだ!?」
『お、おのれ……これでは魔王様に顔向けができん……!」
形は徐々にハッキリとしていき、それは巨大な蝙蝠へと変化していきベタなヤツだなと見上げていると、怒りを露わにした声で俺達へ言う。
『覚えていろ、次は貴様ら一人の全員、血を一滴残らず吸い尽くしてやる……夜、眠れぬ恐怖に怯えるといい!』
「弱っているお前を逃がすと思っているのか?」
『ふん、この姿は速度に特化しているあの穴から逃げるのは難しいことではないぞ! さらばだ!』
急上昇したヤツを追って俺が飛び上がった瞬間、
「修! こいつを使え!」
「親父!? それと……スメラギか!」
<シュウ!>
俺はスメラギをキャッチすると『どうすればいいのか』が頭に浮かび、スメラギの腹に手を当てると吸い込まれるように手がめり込む。
そして――
『な!? それは聖剣……! それにドラゴンだと!?』
俺の手には聖剣セイクリッドセイバーが握られ、スメラギはあっという間にドラゴンの姿へと変貌を遂げた。
<ふん! これで逃げられまい>
『ぐぬ!? は、離せ――』
「でかしたスメラギ! うおおおおおお!」
『う……うわああああああああ!? や、やめろぉぉぉぉ!?』
光り輝く聖剣を握り、スメラギの指で摘ままれているハーキュリアを切り刻む!
『ま、魔王様……お許しを……』
「親子を殺したお前に許される道は無い。消えろ、永遠にな」
『おのれぇぇぇぇ――』
<往生際が悪いぞ。……カァ!>
『お……』
スメラギは面倒くさそうにバラバラになったハーキュリアにブレスを吐くと、今度こそ跡形もなく消え去った。
「やったな、修」
「……ああ」
そう言って笑う親父に目を向けるが、明らかにこのことを知っているといった感じだ。眼下の母ちゃんも満足気に笑っているし、なにがなんだか分からない。だいたいスメラギをどうやって連れてきたんだ?
「スメラギがドラゴンになった!?」
「おっきいですねー」
「八塚!?」
そんなことを考えていると入り口から八塚が叫んでいた。まさか、親父が連れてきたのか!? 親父と母ちゃん、二人とも一体……
「こりゃあすげぇな……仁さんもこういうのと戦ったことあんのか?」
「……まあな」
「パパ、触ってもいいー?」
「だ、誰だ?」
よく見れば八塚を守るようにおっさん二人と女性、そして小さい女の子も居て、小さい子は彫りの深いおっさんをパパと呼ぶ。
俺が地上へ降り、親父も崩れた穴から飛び降りて着地すると、その場に居た全員へ声をかける。
「とりあえず今のところ脅威は去った。母ちゃん、話は?」
「これから詳しい話をするところよ」
「そうか、ならカイザードラゴンも顕現していることだし話すとするか」
「親父……?」
神妙な顔をして俺を見る親父に違和感を覚えるが、母ちゃんがテキパキと宇田川さんや俺達に声をかけ、月の光が差し込む武道場で事情を聞くことになった。
程なくして宇田川さん以外の警官は撤収し、天井の穴をどうにかするための作業に入り、俺達は武道場の中央に集まって円を描くように座って隣り合っている親父と母ちゃんが話し出すのを待つ。
「さて、どこから話したものかな」
「最初からでいいんじゃない? 私達がこの記憶を思い出したのとこれから先やらなければいけないことを」
「この先だって……?」
「そうよ修『私達』は成さねばならないわ、向こう側の国王討伐を」
「……!?」
母ちゃんの言葉に俺達は息を飲む。
国王を討伐……どういうことだ……魔族と魔王を倒すんじゃないのか?
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