母ちゃん!?


 『飛べるのか……だが、自分から突っ込んでくるとは愚かな! まずは勇者、貴様から消し飛べ!』

 「させるか!」


 と、意気込んでみたものの、あの魔力の塊を木刀で御すのはしんどい。

 しかし、幸い俺に狙いをつけてくれたので地上にいる霧夜達に被害が及ばなくなっただけでも十分だ。アホで助かる!


 「<災いの炎>!」

 『そんな魔法など!!』


 とりあえず先手を取って魔法を放ち、ハーキュリアも俺に魔力の塊をぶつけてくる。衝突した瞬間、大爆発を起こして防ぎきれなかった魔力が俺に直撃……することは無く、爆発の余波に紛れてすでにヤツの側面に回り込んでいた。

 

 「うわあああ武道場が!?」


 下では警官たちが大きく破壊された武道場を見て叫んでいたが、今はそれどころじゃないとハーキュリアに木刀を振り下ろす!


 『さっきからチクチクチクチクと……そんな棒切れで私を倒せると思うなよ!』

 「とりあえずぶん殴って気絶させる、やりすぎて死んでも文句言うなよ!」

 『本気か……!?』


 俺の木刀とヤツの爪が交錯する。

 空中なら魔法以外で即座に仲間へ攻撃できないので、一気に畳みかけ連撃を繰り出していくとハーキュリアの速度がどれくらいなのかだいたい判明した。


 「長すぎる爪は切った方がいいんじゃないか! そらぁ!」

 『チッ、さすがは勇者……しかし魔法は防げまい! ……なに!?』

 「遅い!」

 「さすがシュウ兄ちゃん!!」


 俺が超接近戦で戦っているのは魔法を使うのを防ぐためでもあるのだ、撃たせるわけがない。

 

 「残念だったな、お前より俺の方が素早いってこった。力が落ちているとでも思ったか?」

 『ぐぬ……! ならば地上の人間どもを消してやる』

 

 右手で俺の木刀を掴み、左手を地上に向けて魔力を収束させていくハーキュリア。木刀を放せば問題ないと思うと同時に、俺の背中へ声をかける。


 「やれウルフ!」

 <おおおおおおおお!!>

 『なに!? 猫!? ああああああ!? 硬質化した皮膚を切り裂くだと!?』

 <我が飼い主の仇、思い知れ! 【ライトニングブレイク】!>

 

 俺の背中にくっついていたウルフに指示を出すと顔面に取りついて引っ掻き回し、前足二本をこめかみに当ててドラゴン時代のスキルをぶっ放した。


 『ぐぬう……い、いかん、憑依が――』

 「出てきた! ナイスだウルフ」

 <うぐ!?>

 『クソ猫が、余計なことを!』

 

 ウルフの一撃は相当激しかったようで、男の体から青白い顔をした貴族の格好をした本体が抜け出てウルフを引きはがして地上へ投げ捨てる。


 「おっとっと! ナイスキャッチ!」

 

 だが、叩きつけられると言うことは無く、地上で羽須がうまいことキャッチしてくれていた。男の体は無残にも地面に……チッ、ベッドの上に落ちたか。

 それはともかくウルフのおかげで本体があぶり出せた、後はこいつを叩きのめすだけだ。


 「ようやく正体を現したな、陰気な顔……ヴァンパイアってところか」

 『おのれ……だが勇者、貴様より先にあのクソ猫と始末する、この屈辱を晴らさねば!』

 「あ!? 待ちやがれ!!」

 「あっ! あっ! こっちに来ましたよ!? 猫ちゃんもう一回……ああ、もう瀕死!?」

 「私の後ろに!」


 判断が一歩遅れた俺の代わりにフィオが羽須の前に躍り出て木刀を両手で構えて迎撃体制を取る。フィオでも御せない相手ではないが、羽須というお荷物がいるため人質に取られるのだけは避けたいと必死で追いかける。


 『どけ!』

 「くっ……!」


 ハーキュリアがフィオに爪を突き立てようと手を伸ばしたところで――


 「あら、駄目よ女の子に乱暴するのは」

 『は?』

 「え?」


 ――ハーキュリアの腕がのんびりした声の女性に掴まれ、止められていた。その声の主は、間抜けな声を出したハーキュリアと俺には構わず、ハーキュリアをぶん回し地面に叩きつけた。


 『ぶあ!?』


 そして近づいた俺はその女性を見て驚愕する。


 「母ちゃん!?」

 「修、ちゃんとトドメを刺さないとダメじゃない。せめて口を利けるくらいの再起不能に持って行かないと」

 『う、おおおおお!?』


 母ちゃんはハーキュリアをもう一度地面に叩きつけた後、空中へ放り投げるといつの間にか持っていた杖を向けて……魔法を使った!?


 「<浄滅の焼葬>」

 『馬鹿な!? こちら側の人間がこんな強大な魔法を使うだと! おおおおおおおおぉ……!?』


 ハーキュリアは避けきれず直撃を受けて爆発し、白目を剥いて無残な姿となって地面に落ちると灰になって消えた。


 「あっ、やりすぎた? 死んじゃったかあ」

 「か、母ちゃん?」

 「なに? 修?」

 「なにじゃないよ! え? なんで? どうして魔法を使えるんだ!? 母ちゃんだよね!? いてぇ!?」


 俺が捲し立てていると、グーで頭を殴られ、顔を上げると目を細めて俺を見た後、にっこりと微笑んで口を開く。


 「忘れたの修? 向こうの世界で一緒に戦った大魔法使い『ミモリ』様を!」

 「なにぃぃぃぃ!?」

 

 その言葉に俺の絶叫が武道場に響き渡る。

 え、俺の母ちゃん、だよね……?

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